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国王選抜

「こっ‥」

あたふたしていたマヒロはアーセルのその言葉を聞いて余計に混乱した。

「あの、そんな、えっと‥」

言葉にならない言葉を吐いているマヒロに、アーセルは優しい顔を向けた。騎士団内のものが見たら目を剥きそうな光景だ。このいかつい領主騎士は、滅多なことではその顔を和らげることのないヒトなのである。

アーセルは優しい顔のままマヒロに言った。

「お会いしてからそんなに時間をともには過ごしておりませんが‥なぜか、マヒロ様には心を騒がされ、惹かれました。私自身も初めてのことで戸惑ってはおりますが、これはあなたに好意を持っているのだと解釈しております。ご迷惑かもしれませんが、あなたを想うことはお許しください」

「ええ‥」

夢ではなく、漫画読んでるわけでもなく。

正面に座るいかつめのイケメンが、少女漫画の主人公が言われそうな甘い言葉を吐いている。

しかも私に。

マヒロはもはや頭が発熱したかのように熱くなって思考が回らなくなるのを感じていた。無理、もう無理だ。キャパオーバーだ。対応できない。

両手で顔を覆って下を向いてしまったマヒロをすかさず隣にいたハルタカが抱きしめ、正面のアーセルがぎり、と奥歯を噛んでハルタカを睨んだ。

その時ドアががちゃりと開いて、ティーワゴンを押したルウェンが入って来た。

「いや~お待たせしました!」

にぎやかしくそう言いながら、一同の前にお茶と茶菓子をサーブしていく。お茶はふわりと花の香りがした。日本でもかいだことのある香りだった。

「薔薇‥?」

「え、マヒロ様ご存じですか?そうです、薔薇茶なんです。珍しいんですよ。これはアツレン薔薇を使ったものであまり数がないんですよねえ」

薔薇って、そのままこっちにもあるんだ。

マヒロはそう思って、咲いているところを見てみたいな、と思った。本当に見た目も同じ薔薇なんだろうか。とはいえ元の世界でだって薔薇はたくさんの品種があると思うけど。

お茶のカップを持ち上げて中を見てみると、赤い花びらのようなものが何枚か浮いていた。その色は元の世界の薔薇を思わせるものだった。

「花びらも食べられますからね」

ルウェンは笑顔でそう話しかける。マヒロは久しぶりに元の世界の事を思い出して、鼻の奥がつんと痛むのを感じた。やはり、まだ元の世界には思い入れがある。人、というより世界に思い入れがあるのだ。自分がいるべき場所から引きはがされてしまった、という思いがどうしても消えない。

涙が浮かぶのをごまかすかのように、ふうふう吹きながらお茶を飲む。薔薇の香りと甘いお茶の味が身体を抜ける。

マヒロが一度カップを置いたのを見て、またルウェンが話し始めた。

「マヒロ様、お願いがあります」



「ルウェン」

アーセルが咎めるような声を出した。ルウェンはそれに構わず話し出す。

「マヒロ様に助けていただきたいのです」

「ルウェン!」

今度は強くアーセルがルウェンの言葉を遮った。厳しい顔をしてルウェンを睨んでいる。ルウェンはアーセルの顔を見て、それでも言葉を継いでいく。

「アーセル、これは運命だ。この時、この場所にマヒロ様が現れたことは天啓だと思う。俺は、ここに賭けたい」

「許されない、ルウェン。これは俺たちの問題だ」

「民の問題でもある。民のために最善を尽くしたいとは思わないのか?」

ルウェンにそう強く言いきられ、アーセルは少しうつむいて拳を握った。二人の様子を見て、マヒロは自分に何をしてほしいのだろうと思い尋ねようとしたが、横からぐっとハルタカに抱き寄せられた。うっと息が詰まる。

「ハル‥」

「マヒロに何をさせるつもりだ」

じわり、とハルタカからタツリキが洩れ出す。ルウェンはぞわっとした悪寒を感じたがここで負けるわけにはいかない。不敬にも龍人(タツト)に向かって噛みつくように言った。

龍人(タツト)様、マヒロ様は『カベワタリ』と言えどヒトです。ヒトの世に生きるものです。だからヒトの世の私たちがお願いしようとしているんです。それを龍人(タツト)様に邪魔される謂れはありません」

「だが」

「ハルタカ、とにかく話を聞きたいよ。それはいいでしょ?」

横からマヒロがそう言ってハルタカを見上げる。ぐっと詰まって、ハルタカは仕方なく黙ることにした。

ルウェンはハルタカとアーセルを見やってから話を始めた。

「我がカルカロア王国の『国王選抜』について、ご説明をしたいと思います」


カルカロア王国は、いくつもの民族が寄り集まってできた国家である。

だからその国王は、『国王選抜』という形で決められる。王家があってその子孫が受け継ぐわけではない。

『国王選抜』は、異生物の発生が多いカルカロアらしく退治した異生物の総重量で決められる。60年に一度、六領主が総重量を競って国王が決まることになっている。

これは必ず領主が退治した異生物でなくてはならず、それを見定めるために鑑定人がカルカロアとサッカン十二部族国からの二人体制でつく。しかも公平を期すためにこの鑑定人たちは時折入れ替わる。

『国王選抜』の期間は六か月。その間によりたくさんの重量の異生物を退治したものが時代の国王となる。

「我がフェンドラからは領主であるアーセルが参加します。ですが‥」

「‥私のレイリキは、確かに異生物を退治することはできるがそこまで強くない。おそらくよくて二位か三位くらいしかなれまいと思う」

アーセルが冷静にそう告げた。ルウェンは苦い顔をしてアーセルを見やり、それからマヒロの顔を見た。

「‥‥ですが、私は次期国王はアーセルしかいないと思っています」

「ルウェンさん‥」

ルウェンはいつもの陽気な顔を忘れたかのように、恐ろしく苦しげな顔をしていた。一度ぐっと唇を噛みしめ、再び話し出す。

「‥‥現在の最有力候補はニュエレン領のダンゾです。マリキシャでとびぬけたマリキを持っている。異生物にも強い。‥だが、あいつの領地では領民は三層に分けられ、最下層の領民は賤民とさげすまれひどい扱いを受けている‥上二層の領民たちの不満を、最下層の賤民に向けることでやり過ごしています。‥ダンゾが国王になれば、カルカロア全土にその仕組みを持ち込まれる可能性が高い」

つまり、身分制度の酷いものを実行している領地があり、そこの領主がかってしまえば王国全土にその酷い制度が広がるということか。

アツレンなら教育が受けられるからここに越してきた、と言っていたナシュの顔が思い出された。‥この地に住む人にとって、大きな問題であることは容易に想像できた。

今度はアーセルが重い口を開いた。

「現国王陛下は、領地によっていろいろな差がある今の状態を憂えて新しい制度を作りました。次の国王から領地全域に通用する法令を作る、というものです。国法という基礎を作り、その中での領地の自治を認める形にしたいと、ご自分の国王としての役目だ、と言って全精力を傾け‥そして去年その制度は確定されました。‥次代の国王から、ということで六領主からも反対するものはなかったのです」

その言葉にルウェンが後を続ける。

「現国王は、アーセルに希望を託しているのです。アーセルなら、領民、国民のためによい国法を作ってくれると。‥ですが、ダンゾやターマス領のガルンなどが次期国王にでもなれば‥現国王の作った制度は悪用され、民は苦しめられてしまう」


お読みいただきありがとうございます。

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