誘拐
ごめんなさい、今日ちょっと短いです
予想をはるかに超えてかなりの乗り気でマヒロの話に食いついてきたツェラの勢いに押されつつも、自分にもできることが少し見えてきたと思いマヒロは少し安心していた。
どんな商品を作るかなどを話し合い、とりあえずはマヒロが見せたような小さなレース飾りをたくさん作ることに決めた。この大きさならば袋やかばん、洋服などにも縫い付けやすいし、いくつか繋げればアクセサリーのようにして売ることもできるだろうと思ったからだ。
せっかくなのでこの地方独特の伝統的な模様なども教えてもらい、見本をもらって編み込めるかどうか試してみることにした。きっと馴染みのある模様なら手に取ってもらいやすいだろうとの考えからだった。
ひとしきり商談をしているとずいぶんと時が経った。ツェラが「お茶を淹れて、それから何か摘まむものを見繕ってきますね」と言って奥に引っ込もうとした時、ノッカーの音がした。
「龍人様でしょうかね」
そう言いながらツェラが扉の方へ向かった。確かにかなり時間が経った気がする。体感で言えば一時間から一時間半くらいだろうか?こちらにも時計はあるらしいが、あまり普及していないようでマヒロはまだ見たことがなかった。
何の用事だったのかな、とぼんやり考えているとがたん!と大きな音がした。小さくツェラの声もしたように感じたが、よく聞こえなかった。ひょっとして何かにつまずいて転んだりしてしまったのだろうか、と心配になって椅子から腰を上げた時。
どかどかと三人の男が部屋に駆け込んできた。体格のいい男達だ。金髪が一人、黒髪が一人、青髪が一人だった。黒髪が棍棒のようなものを手に持っており、他の二人は何も持っていない。
マヒロは何が起こっているのか理解できず、身体が固まってしまった。
そんなマヒロのすぐ傍に黒髪が近づいてきた。ぐいっとマヒロの腕を乱暴に掴む。
「おい、こいつか?」
「多分そうだ、アーセルと会った時赤髪でレースの目隠しをしてたらしい」
「へえ」
仲間内でそういう会話をするや否や、黒髪がぐいっとマヒロの目隠しを取り払った。眩しさが増して思わず目をつぶる。だが黒髪は乱暴にマヒロの顔を掴み上げて怒鳴った。
「コラ目を開けろ!」
その声音の恐ろしさに恐る恐るマヒロは目を開けた。目の前の黒髪は、品のない顔をにいッとほころばせた。
「間違いねえ、黒目だ。髪色と違う」
「当たりだな。‥よし行くぞ!」
そういうと黒髪は乱暴にマヒロの顔から手を離した。このやり取りで、間違いなく『カベワタリ』である自分が狙われたのだと悟る。どうしようと震えていると、金髪が目の前にその顔を出した。
「はいはい、『カベワタリ』さん、俺の目を見てねえ」
金髪はマヒロの目をその金色の目でじいっと見つめてきた。するとマヒロは頭の奥が痺れたようになって、上手く考えられなくなってきた。だんだんと脳内に靄がかかる。
「はい、大人しくついてきてねえ」
金髪の男はシンリキシャだった。シンリキシャはヒトの精神に働きかける。高能力者であれば、ある程度ヒトの精神状態を操ることが可能なのだ。
ぼんやりしたマヒロを手早く黒髪が肩にかついだ。
そして青髪に声をかける。
「よし、じゃあとりあえず転送してくれ。‥お前は後から来いよ」
そうシンリキシャに声をかけた。そして青髪とマヒロを抱えた黒髪は一瞬でその場から掻き消えた。
シンリキシャはゆっくりとした足取りで、ツェラの店から出て行った。
ハルタカはゆっくりとした足取りでツェラの店の近くまでやってきた。話は進んだのだろうか。マヒロが喜んでいれば嬉しいが、それが自分から離れることに繋がることであるのはどうしようもなく胸が苦しい。
下を向いてふうと息を吐き、店の方へ向かおうとすると、人だかりができているのが見えた。まだ開店の時間ではない筈だが、なぜこんなにヒトがいるのだろうか。
不審に思いながら近づいていくと、市中警邏隊に身体を支えられてうずくまっているツェラが見えた。
どくん、と鼓動が大きく鳴った。
ツェラに近づく。龍人の出現に人々はざわめき場所を空ける。
ツェラがハルタカの姿を認めて泣き出した。顔が腫れている。殴られたのか。
マヒロは。
「龍人様!も、申し訳、ありま‥ま、マヒロ様が‥」
攫われてしまいました。
ハルタカには、その声がひどく遠くに聞こえた。
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