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住処に戻って

食べ物や衣類など、随分な量の買い物をしてから龍人(タツト)の住処に帰ってきた。荷物をたくさん載せてもテンセイは全く意に介さず、行きと変わらぬ速度で空を飛んだ。もこもこの外套を買ってもらい全身をしっかり防寒されていたおかげで、帰りには少し目を開けて周りを見る余裕ができた。

青い空はどこまでも続いているようでとても美しかった。勇気を出して下を向けば、険しい山肌とそこを覆う森林地帯や人々が住む平地などが小さく見えた。

しかし寒いのと顔が痛いのには変わりはないので、すぐに目をつぶりハルタカの腕に顔をうめる。そこは温かくて安心できる場所だ。

程なく住処に着いて、テンセイから降りる。ハルタカはマヒロを慎重に下ろしてから荷物も下ろした。

「大丈夫か?気分が悪くなったりしていないか?」

「ありがとう、大丈夫」

そう言って降り立てば、足のふらつきはあるものの自分で歩くことができた。ハルタカは荷物を浮かせて運びながら、マヒロの肩を抱いた。

「少し休め。いつもの部屋にいろ。私は荷物を片付けてくる」

そう言われて、いつも寝ている部屋に向かう。あの部屋は本来ハルタカの居室なんだろうな、と思った。が、他に行く部屋もわからないので仕方がない。今回の買い物に寝台は入っていなかったし、このまま寝台ひとつでやり過ごすのだろう。

部屋に入って、大きな椅子に腰掛け一息つく。色々珍しいものが見れて面白かったし、こちらの世界の人々と話ができたのもよかった。


ただ、あの騎士たちのいう事には若干の不安を感じた。あの騎士たちには、街や市場にいた人々ほどハルタカを敬ったり大事にしたりしている様子がないように感じた。だとすれば、王が会いたがっている、という言葉はあまり無視できないものかもしれない。それでも自分の処遇について詳しいことは聞かせてもらえなかったし、王のもとに行ったからといって安心もできないような気がしてくる。

「‥なんか、心穏やかに過ごせる日って、来るのかな‥」

突然異世界に押し込まれ、戸惑う暇もないほど色々な違いに驚かされ、恋愛ごとにも疎いのに愛を囁かれ。

ひょっとしたら政治的なあれこれにも巻き込まれる可能性もあるのか、と思えば何だか精神的な疲労がどっと押し寄せてくるような気がした。

人と触れあう事はやはり大事だし、ずっとここに閉じ込められるのは辛いと思うが、今はあまりたくさんの人と触れない方が精神的健康にはいいのかもしれない。

そう考えていると、ハルタカがお茶を持って入って来た。

「飛んだから身体が冷えただろう。少し飲んで温まるといい」

そう言って出されたお茶は黄色で、つんと生姜のような匂いがした。こちらにも生姜があるのだろうか。

「これって生姜が入ってる?」

「ああ、身体を温めるからな」

「ああ、それは同じなんだ‥」

そう言えばなぜ言葉が通じるのだろうか。知らない言葉はすっと入ってこないが、ほとんどの会話は通じているし、私生活に使うものの名称も同じものもたくさんあるようだ。

「ハルタカ、きっと世界が違えば言語も違うって思うんだけど、なんで私はこっちの言葉がわかるのかな?」

ハルタカは椅子に腰掛け自分も生姜茶を飲んでいたが、少し考えてこう話した。

「恐らくだが‥‥カベワタリはこちらの世界に来ると身体も少しずつこちらに適応するように変化する。こちらの世界に順応しようとするのだと考える。だとすれば言語もわかるように脳内で変換されているのではないだろうか。マヒロの世界にあるものとこちらにあるものとで同じようなものはすぐに理解ができるようになっているのだろう。一方、子果やリキシャの事などわからないことはそのままの音で聞こえるからわからないのではないだろうか」

「‥なるほど」

異世界的ご都合主義か、と思ったがそこは口に出さないでおいた。ハルタカはカップを机に置くと、マヒロの顔をじっと見つめて口を開いた。

「マヒロ、さっきの話だが」

「さっき‥ああ、もし番いになったらってやつ?」

「ああ。‥何を訊きたかったんだ?」

マヒロは少し考えてから言った。

「もし、番いになったら‥私もあんまり人とは関係を持てなくなるの?ヒトと龍人(タツト)はあまり干渉しない、的なこと言ってたよね?」

ハルタカはさして表情も変えずに答えた。

「まあそうだな。基本的にはあまり接触はしない。時折、何か買い物をするか為政者の話を聞くかくらいだ」

「そうかあ‥」

改めて、やはりある程度の人づきあいがないと自分はだめだなと再認識したところだったので、その事実はマヒロには重かった。少しうつむき加減になったマヒロを見て、ハルタカが声をかける。

「マヒロは、やはりヒトの国の中で暮らしたいか?」

「う~ん‥今はちょっとまだ混乱しているからハルタカのところで静かに過ごしたい気がするけど‥基本的にはヒトの間に混じって暮らしたいかも」

マヒロが考えながらそう言うと、ハルタカは眉をきゅっと寄せた。唇を少し噛みしめて何か考えているようだ。

しばらく経って、マヒロが生姜茶を全部飲み終わったころにハルタカが言った。

「マヒロが番いになってくれるなら、少しはヒトの社会に関わってもいい。きちんと番いになれば、そうそう普通のヒトはマヒロに手出しはできなくなるからな。私が直接行かずにマヒロだけヒトの国に行く形にしてもいいだろう」

「そっか‥そういえば、どうすれば番いになれるの?はっきりした儀式みたいなのがあるの?」

マヒロが何の気なしに尋ねると、ハルタカは眉を寄せたまま少し不安げな顔を見せた。だが、少し躊躇うそぶりを見せながらもしっかりと答えをくれる。

「‥‥性交すれば、番いであるかはっきりする」


お読みいただきありがとうございます。

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