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わがまま

マヒロはそこまで考えてから、横で自分の肩をきつく抱いているハルタカを見上げた。‥番い問題は厄介ではあるが、今のところハルタカ以外に信じたいと思う人はいないし、わからない。この三日間、ハルタカはマヒロがいやがることは何一つしなかった。

今はそれだけでも、ハルタカを信ずるに足る材料に思えた。

マヒロはハルタカの顔を見て言った。

「ハルタカ、私やっぱりしばらくハルタカのところにいたいです。‥いいですか?」

そういうマヒロの言葉を聞いて、少し驚いた顔を見せてからハルタカはゆっくりと薄く微笑んだ。まさに「花が咲いたような笑顔」で、マヒロはぼうっと見とれてしまう。

マヒロの言葉を聞いたアーセルが、慌てて言葉をかぶせてきた。

「いや、カベワ‥マヒロ殿、我が王もあなた様にぜひお会いしたいと、一日千秋の思いで待っておられるのですが」

マヒロはそう言葉を続けるアーセルの方をじっと見た。

「‥ごめんなさい、面識もない方がすごく待ってる、って言われても‥正直こちらに来てから、自分が何で来ちゃったのかもわからなくて混乱してますし。‥‥ハルタカに命を助けてもらいましたから、しばらくはハルタカのところにいたいです。そういう、私の意志って尊重してはくれないんですか?」


ぐ、とアーセルが言葉に詰まり、たじろいだ。それを見てまたルウェンがぷっと噴き出した。くすくすと笑っているルウェンをアーセルがじろりとにらむ。

ルウェンは笑いながら言った。

「いやー、アーセルさんの負けですよ。マヒロ様の『意志を尊重しない』訳にはいきませんよね?今日のところはお帰りいただいた方がいいんじゃないですか?龍人(タツト)様の御機嫌がこれ以上斜めにならないうちに」

え、笑ってたけど、と思ってもう一度ハルタカの顔を見上げるとなかなかに厳しい表情になっていてマヒロは驚いた。ルウェンの言葉を聞いたハルタカは立ち上がり、断りもせず問答無用ですぐにマヒロを抱き上げた。

また『縦抱っこ』だ。


「では失礼する」

短くそう言い捨てて部屋を去ろうとするハルタカに、後ろからアーセルが声をかけた。

龍人(タツト)様!せめて十日おきには『カベワタリ』マヒロ様と面会させてください!王にも報告しなければなりませんので!」

そう言いすがるアーセルの言葉が、まるで耳に届いていないかのようにハルタカは歩く速度を緩めることなく部屋を出た。

すると後ろからルウェンが一緒に出てきて、ハルタカの横に並んだ。

「出口までお送りしますよ」

そう話しかけるルウェンにもハルタカは返事をしない。ずんずん歩いていくハルタカの横で、ルウェンはマヒロに話しかけてきた。

「アツレンには初めて来られたんですか?」

「‥‥はい」

返事していいのかな?と思いハルタカを見上げたが、何の反応もないので小さく肯定する。ルウェンは変わらずなつっこい様子で話し続けた。

「じゃあ、色々食べたかな?俺はパルジャが好きなんですよ~食べてほしいなあ」

「パルジャって?」

食べ物の話題に興味が湧いたマヒロが思わず訊き返すと、ルウェンはニコッと笑って説明してくれた。

「柔らかく焼いたパルトの実に、野菜や肉を炒めたものを挟んであるんです。それは昼飯とかに食べるんだけど、果実やクリームを挟んだものもあってそっちはおやつって感じかな」

「え、美味しそう!」

「是非食べてほしいですね~俺のお勧めは‥」

とルウェンが話し続けようとした時、退異部本部の門扉についた。ハルタカが会話を遮るように言った。

「では失礼する」

そういうや否や、ハルタカはぎゅっとマヒロを抱きしめると脱兎のごとく駆け出していった。

あっという間に小さくなるその姿を見て、ルウェンは感心した。

「うわ~龍人(タツト)の本気ってすごいな!」

その小さくなる姿を見やりながら呟いた。

「でも、俺たちもねえ、簡単に諦めるわけにもいかないんだよねえ」



「は、ハルタカ!ちょ、止まって!」

どんどんと厚い胸を何度か叩くと、ようやくハルタカは止まった。ハルタカの足は速く、市場をも通り過ぎて少し静かな街並みにまでついていた。

「こ、怖いよ‥速かった‥」

「すまない」

ハルタカはそう言ってまたぎゅっとマヒロを抱きしめ、頭にそっと口づけを落とした。あ、キスされたな、とマヒロは思ったが、もう頭はノーカンにすることにした。

「下ろしてくれる?」

というと、最初は渋っていたがもう一度頼めばいやいやながらも下ろしてくれた。

よし、と歩き出そうとしたマヒロに、ハルタカがぼそりと話しかけてきた。

「マヒロ」

「ん?何?」

ハルタカは、こちらを向いたマヒロの手を取った。小さい手をぎゅっと握りこむ。

「私と‥しばらく一緒にいてくれるのは、本当か」

ハルタカはじっとマヒロの目を見つめてくる。なんだか心の奥底まで見透かされそうでどきどきする。

「それは‥多少なりと私を『好き』になってくれたから、か?」

マヒロは真剣にそう聞いてくるハルタカの顔を見て、うっと言葉に詰まった。距離の詰め方が早すぎる。長生きの種族のわりに結果を求めるのが早くないか?

「‥‥えっと、前にも言ったけどハルタカの事は好き、だと思うよ。ただ恋愛的な意味かどうかがわからないだけで‥」

ハルタカがすっとマヒロの両肩に手を置いた。背の高いハルタカの顔を見上げるような形になる。ハルタカは少し顔を下げて、マヒロの顔に近づけた。秀麗な顔が近くなってまた動悸が激しくなる。

「恋愛という意味で好きかどうかは、マヒロにとってそんなに大事なことなのか?‥‥私は、ヒトを『好き』になったことがない。多分、マヒロが初めてだ。だからマヒロの事を番いだと思うし、誰にも渡したくない。‥‥私のことを『恋愛という意味での好き』にならなければ‥カルカロア王国に行くのか?」

「‥ハルタカさん、長生きなのに結果を求めるのが早くないですか?」

マヒロは思わず心の中で思っていたことをそのまま言葉にしてしまった。それを聞いたハルタカは、眉をきゅっと寄せてむっすりした顔になる。見慣れた表情になぜかほっとしながら、マヒロは言葉を続けた。

「‥‥なんとなく、カルカロア王国?には行きたくない、気がしてます。でも、こんな中途半端な状態でハルタカの傍にいていいかもわからないし‥ハルタカの事は好きだけど、せ‥性交、とかって言われるとちょっと、何か躊躇われるものがあるっていうか‥」

「マヒロがしたくないことはしない」

ハルタカはすぐにそう言葉を繋いだ。その顔は真剣そのものだ。おそらくハルタカは、マヒロの嫌がることはしないのではないか。確信に近い思いがマヒロの胸に湧き上がっている。

こう、確信できるということは。

本当はもう、ハルタカの事を、好きなのではないか。


マヒロはそう思ったが、心の中にある何かがそれを認めさせない。

両肩に優しく置かれたハルタカの手に、マヒロはそっと右手を載せた。ぴくり、とハルタカの手が震える。

「‥多分、すっごく、ハルタカに対して我儘だと思うけど‥もう少し、このままの状態でもいいですか‥?」

そう言ってハルタカの顔を見上げると、今まで見たことのないような顔をしていた。少し愁いを帯びているような、でもどこかほっとしているような。複雑な表情だった。暫く黙ったままマヒロの肩に手を置いたままにしていたが、ふっとその肩を引き寄せ抱きしめた。ぎゅっと抱き込んでマヒロの頭に顔をすり寄せてくる。そして囁くように言った。

「‥‥では、こうやって抱きしめることと‥時々口づけることを許してくれ。触れられないのは、苦しすぎる‥」

本当に苦しそうにそういうハルタカの声を聞いて、マヒロは顔を真っ赤にしながらもなんとか返事を絞り出した。

「‥‥あの、前向きに、考えます‥」


お読みいただきありがとうございます。

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