騎士と退異部本部
作者は、マッチョ好きです。ラグビー選手や格闘家の体つきが好きです。騎士を書くときはそのあたりをイメージして書いてます‥
ハルタカは甲冑姿の騎士二人に目をやった。
「騎士殿か」
ハルタカがそう言うと、豊かな白髪を後ろで三つ編みに結っている騎士が名のった。
「はい、王立騎士団退異部騎士、アーセルと申します」
その横に立っていた黒髪の騎士も名のった。こちらは艶やかな黒髪を飾り紐でシンプルに一つに結んでいる。人懐っこい顔をした騎士だ。
「龍人様、私も同じく退異部騎士のルウェンです。よろしくお願い申し上げる」
次々に名のった二人の騎士を、ハルタカはじろりと見つめて言った。
「騎士殿が何用か」
アーセルが言葉を続けた。
「はい、少し龍人様にお伺いしたいことがございまして。‥‥できれば場所を移動してお話差し上げたいのですが」
そう言ってちらりとマヒロを見る。マヒロはお前は外せ、と言われたのかと解釈するが、ハルタカから離れてこの雑多な雰囲気の市場を一人で歩き回る度胸はなかった。
「えっと‥」
何といえばいいかな、と考えているとハルタカがぐっとマヒロの肩を抱いた。先ほどよりも強い力で抱き寄せられ、「ぶえ」と声が出た。
それを見て黒髪の騎士がぷっと笑った。何だよこいつ。初対面で遠慮なく笑うなあ。マヒロはそう思って、珍しくハルタカの腕の中に入り視線から外れるようにした。
ハルタカは笑った騎士に構うことなく、アーセルに向かって言った。
「これは私の番い‥候補のマヒロだ。私の行くところにはどこへでも連れて行く」
あっ、候補ってつけてくれてる!一応配慮してくれてるんだなあ、とマヒロは嬉しくなった。
番い、という言葉にアーセルは、はっと驚いたようだった。そしてまた言った。
「お連れ様もご一緒で構いません。おいでいただけますか?」
「‥‥‥行こう。領主屋敷か」
「いえ、退異部本部でお願いします」
ハルタカがすっと片眉をあげた。が、特に何も言い返すことなく頷いてアーセルの後ろについて歩きだした。マヒロの肩は抱かれたままだ。その後ろから黒髪のルウェンがついてきている。
アーセルの足は速かった。マヒロは買ったばかりの靴で歩いているので騎士の早足についていくと小走りのようになってしまう。それに気づいたハルタカがひょいとマヒロを抱き上げてそのまま歩き出した。子どもを抱き上げているような「縦抱っこ」に、マヒロは顔がカーッと赤くなるのがわかった。
「ハ、ハルタカさん!歩けますから!」
ハルタカは少し楽しそうにマヒロを抱き上げたまま言った。
「マヒロは、慌てた時だけ私のことをハルタカさんと呼ぶな」
「ひえ?」
全く意識していなかったが、言われてみればそうかもしれない。いやいや今はそうではなく。
「あの、歩けます」
「私がこうしたいのだ。‥許してくれると嬉しい」
そう言ってハルタカは両手でぎゅっとマヒロを抱きしめた。
ハルタカの腕の中は、素晴らしく安定していて筋肉に囲まれてて安心できる。
‥まだ恋愛的感情かもわからないのに、こんなに甘やかされていていいのだろうか。
そのうち、一人で立てなくなってしまうのではないだろうか。
この異世界にやってきてから三日ほどしか経っていないが、今は全てをハルタカに頼ってしまっている状況なのだ。
ハルタカが優しく甘やかしてくれるから、自分がどんどんだめになっていきそうな気がする。
そんなことを考えていると、また後ろからぷぷっと含み笑いの声が聞こえた。あいつ、また笑ってんな、とハルタカの腕の中から後ろをキッと睨むと、ルウェンが楽しそうにくすくす笑っている。マヒロと目が合ってようやく笑い止み、謝罪してきた。
「ああ、申し訳ありません。番い‥候補?様を笑ったんじゃなくて‥アーセル様が全然配慮しないなあと思っておかしくなったんです」
そういうルウェンの声を聞き、アーセルが足を止めた。振り返ってルウェンに声をかける。
「配慮しないとはどういうことだ」
くふふと含み笑いをしながらルウェンは言った。
「だって、番い候補様の足を見たら新しい靴だなんてすぐわかるじゃないですか。歩きなれない上に番い候補様は華奢で、騎士の歩く速度についてこれないのも一目瞭然です。なのに、全然アーセル様は気づかなくてどんどん進むし、結局龍人様が抱き上げられて‥番い候補様は顔を赤くして恥ずかしがってらっしゃるのに、元凶のアーセル様が全然知らん顔で歩いていくのが‥もう‥」
そう言ってはははと声高く笑いだした。それを聞いてアーセルという騎士はブスッと不機嫌な顔になり、マヒロに「失礼した」と謝罪してきた。マヒロも「いいですよ」と返事をしようとしたが、アーセルはマヒロの返事を待たずくるっと前を向いてしまった。
ハルタカはアーセルに
「私が抱いているからいつもの速さで歩いてもらって構わない」
と声をかけている。結局抱っこで運ばれちゃうんだな‥と思ったマヒロは、せめて通行人に顔を見られないようにとハルタカの厚い胸に顔を埋めた。
マヒロからは見えなかったが、ハルタカは実に満足そうにマヒロを抱いて歩いていた。
市場から十五分ほど歩いて大きな建物の前についた。石造りの頑丈そうな建物だ。特に美麗な建物という訳ではないがところどころに彫刻が施されており、そしてそこにある黒ずみがこの建物が長くここにあることを示していた。
太い鉄の棒が何本も組み合わされた門扉をくぐり、重厚な扉を抜けるとヒトがたくさんいる部屋についた。かなり大きな部屋で、奥行きが10mくらいはありそうだ。簡易的な机と座面だけの椅子が真ん中に無数においてあり、壁際にはどっしりとした大きめの事務机と背もたれの高い椅子がいくつも並んでいた。
真ん中の簡易な机と椅子のところには、体格のいい騎士たちがざわざわと集まって何やら話をしており、壁際のどっしりした机には騎士とは違う制服を着た者たちが座って何やら書類仕事をしているように見える。
マヒロには何となく、以前落とし物を届けに行った時の警察署に雰囲気が似ているように思えた。‥ただ、そこにいる騎士たちの体格の良さは尋常ではなかったが。
ハルタカはそんな体格のいい騎士の中にいても全く見劣りがしない。やはり身長は190cm近くあるのではないだろうか。腕も太いし足も太いし、でもふくらはぎから下はしなやかに細くなっているし、腰も細くなっていて恰好いい。
知らず知らずのうちに騎士たちとハルタカを比べていた自分に気づき、またマヒロは一人で顔を赤くした。そんなマヒロを見てまたルウェンはくすくす笑っていた。
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