屋台の食べ物と、
いい加減、お話が動くころ、かな?
店を出て少し歩けば、先ほど見かけたにぎやかな市場についた。やはりハルタカはとても目立っていて、あちこちでハルタカを見てひそひそと話しをしている人がいる。無論何人かは直接声をかけてきて、商品を献上しようとしてきたりした。
ハルタカは周りでひそひそと話している人々の事は気に留めていないようだったが、何やら品物を献上しようとする者たちには丁寧な断りの言葉を述べていた。断られて残念そうな顔をする彼らを見て、マヒロは尋ねた。
「なんで全部断るの?要らないものばかりだった?」
顔を見上げてくるマヒロにふっと笑みを返しながら頭を撫でた。
「あの者たちはただ私に何かくれようとしているわけではない。龍人に何か献上したと、ここの領主に届け出れば報奨金がもらえる。また、私が受け取ったという噂が回ればその者の店は売り上げが上がるんだ。だから献上したいものが多い」
「‥え、何かそれって‥ちょっと、やな感じ」
そう少し不機嫌そうにつぶやくマヒロに、思わずふっと笑ってしまった。
「はは、マヒロはそう思うか。‥私は仕方のないことだと思っている。ヒトはみな必死に日々を生きてゆかねばならぬからな」
「‥そか‥」
「だが受け取っていてもきりがないのでな。献上に来るものからは、よほどのことがない限り受け取らぬようにしているのだ」
「なるほど」
では、今から市場とかで買ったりするぶんには大丈夫な感じかな。
正直なところ、珍しいものばかりが目に付いて手にしてみたいものばかりなのだ。別に全部買いたいという訳ではないが、とりあえず色々と近くで見てみたい。マヒロとしては初めて海外旅行に来たような気持ちだった。
市場には本当に雑多なものが様々並べられていた。ハルタカが来ると喧騒が少し収まるが、遠くでは人々の生活の音がかまびすしく聞こえてきている。それはここで生きているヒトがいるのだとマヒロにしっかりと感じさせてくれるものだった。
「わー、何かわかんないものばっか」
何に使うのかわからないものが多いが、武器や防具っぽいもの、衣服や衣料雑貨、生活雑貨や食べ物などは何となく見ているとわかる。
「何でも気になったものは手に取ってみていいぞ」
とハルタカが言ってくれたので、遠慮なく色々と見てみることにする。
かわいらしいボタンの縫い付けられた帯。
簪のような飾り。
髪を結ぶための飾り紐。
ごく寒い地域に行くときのための厚い毛皮。
異生物という怪物からとれるという珍しい素材。
獣を狩る時の獲物や、武器や防具。
色々見て回る中で、ハルタカが手にしたものを片っ端から買おうとするのを止めるのにも忙しい。止めようとするとお店の人がひどく悲しそうな顔でこちらを見てくるので、それにも耐えなければならないマヒロはだんだん疲れてきてしまった。
「ハルタカ、お腹すきました」
「そうか、では食べ物が売っているあたりに行こう」
そう言ってくれるハルタカについて少し市場を移動すると、ふわっと美味しいにおいが立ち込めてくる。甘いものもしょっぱいものも混じり合ったような複雑なにおいで、おお、市場っぽい!と思った。
そこで売っていた、何かの肉を揚げたものを買ってみる。揚げたてなので湯気が出ている。かぷりと噛んでみると肉汁が溢れてきてうまい。外側の衣は少し熱くてサクサクしているのもよかった。
「美味しいね!」
「サムラの揚げ物だな。私も時々食べる」
「あっ、あれ!食べたい!」
マヒロが指さしたのは、小さな木の入れ物に入れて売っている麺料理だった。傍によってよく見れば、麺と言っても一本が短く10cmくらいしかない。そこに細かく刻んだ野菜とひき肉を炒めたものをぶっかけ、温かいスープを少しかけた料理だった。
「マルーだな。アツレンの名物料理だ」
「食べたい!麺食べたい!」
ハルタカが頼めば、小さな木の入れ物と、先割れスプーンのようなものを一緒に渡してくれた。これも熱々でふうふう吹き冷ましながら口に入れてみる。少し香辛料のきいた甘じょっぱい味付けでマヒロの口に合った。瞬く間に食べてしまったマヒロに若い店員が「おまけです」と言って飲み物の入ったカップを渡してくれた。そして入れ物とスプーンを引き取っていく。カップに入っていたのは、少し甘みのあるお茶で美味しかった。
「入れ物とスプーンは返すんだね」
「返せばその分の料金も返ってくる。入れ物が欲しいものは返さなくてもいいんだ」
「へー!エコな感じだ」
「えこ?」
不審げにこちらを見てくるハルタカに、何といって説明しようか考える。
「んーと、ものを大事に使おう、って感じ?」
「それは当たり前ではないのか。ものは作るものや売るもの、色々な人々の手を経てなるものだ。大事にするのは当然だろう」
マヒロの頭の中に、世界史で習った産業革命が思い起こされる。まだこの世界は大量生産大量消費の世界ではないのだろう。明治維新前の日本も同じような感じだったかもしれない。
「‥そうだね、でも私のいたところでは物は使い捨て、っていうのもたくさんあって‥結構よくないものの使い方してたかも」
「ふむ。興味深いな。またその事は別の機会に詳しく教えてくれ。外ではない方がいいだろう」
「‥あ、そっか、わかった」
そう返事をして甘いお茶を啜った。タピオカミルクティーも好きだったけど、これもおいしくて好きだ。タピオカっぽい食べ物ってあるのかな。
そう思いながら歩いていると、甘い匂いが強くなった。何の匂いだろうと思って見回すと、また小さな木の入れ物に何か入れて売っている屋台が見える。看板に何か字が書いてあるが読めないのでわからない。だが客層は若者が多いように見えた。
「ハルタカ、あれ何?」
ハルタカは指さされた看板の文字を読んで答えた。
「ああ、ピルカだな。菓子だ、甘い汁の中に柔らかい団子が入っている」
お汁粉っぽいものだろうか。
「ハルタカ食べたことある?」
「‥‥ここ何十年かは食べていない、と思う」
スパンが長い!そうかこのヒト三百歳オーバーだった。見た目が若いからいつも忘れてしまうけど。
「じゃ一緒に食べてみようよ」
そう言って屋台に並び、菓子を手にした。白くとろりとした汁の中に、桃色の親指くらいの団子が入っていて、団子の真ん中は指で押したようにくぼんでいる。フォークのようなもので挿して食べてみると、強い甘みがあって美味しい。汁の方に甘みがあり、団子の方にはほとんど味はないが食べ応えが餅に似ている。
「美味しい!ハルタカはどう?」
もそもそと咀嚼しながらハルタカが答えた。
「うまいな」
よかった~と思いながら食べているとふっと目の前が暗くなった。ふと見上げれば、目の前にハルタカと同じくらいの背丈の男が二人立っている。どちらも重そうな甲冑のようなものを身につけていて、背に大きな剣を担いでいた。
「龍人ハルタカ様」
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