出発と抱擁
今後は、週に三回くらいの更新になるかと思います。
ハルタカの住まいである、龍人の住処は、周りを高い山々に囲まれたごく狭い土地に建っている。周りを見ると険しい山ばかりで、道らしき道もあるように見えない。街に出かけるということだったが、どのようにしていくのだろう、まさかテレポートなんてできちゃったり?と漫画などの知識を総動員させて考えていると、こちらに飛ばされてきた日に見かけた翼竜をハルタカが連れてきた。なかなか怖い顔をしているし、でかい。とにかくでかい。あの時はあまりわかっていなかったのだが、今こうして近くで見てみると翼竜は少し大きめの物置小屋くらいの大きさはある。ときどきばたつかせている翼は、完全に広げてしまえば全長で5,6mはありそうだ。
「マヒロ、少し大きめの鞍に付け替えたからお前も乗れると思う。ここに乗ってくれ。私が後ろからお前の身体を支える」
「えっ」
やはりこの翼竜にのるのか。マヒロはお腹の底がひゅっとなるのを感じた。絶叫マシンに乗る前と乗った時になる、あの感じだ。
だが、道がないということは街に行くにはこの翼竜にのらないといけないのだろう。こわごわと翼竜の顔の方を見てみれば、意外に瞳は真っ黒でまん丸く、愛嬌のある顔をしているようにも、見えなくはない。
「えー、と、ごめんね、乗せていただきます‥」
そう言いながらおっかなびっくり翼竜の傍に近づく。すると<ルアア>と小さく鳴いて翼竜はその身体をゆっくりと沈めて、マヒロがのりやすいように低くしてくれた。意思が通じる!と嬉しくなったマヒロは、翼竜に近づいてその太い首元を撫でた。細かい鱗に覆われている肌はザリザリするが、触り心地は意外によかった。
「賢い翼竜ですね!」
ハルタカは少し首を傾げた。
「マヒロの国ではこれはヨクリュウと呼ぶのか。こちらでは飛竜と呼んでいる。かなり賢い動物だな。乗せてもらうには何年もつき合わねばならない。だからほとんどヒトは乗らないな。龍人がよく乗る動物だ」
「いやいや、私の世界ではこういう生き物はもう生きてないんです、いただろうね、とわかっているだけで」
そういうマヒロに対して、少しハルタカは悲しそうな顔をした。飛竜の身体を優しくなでる。
「マヒロの国には、竜は他にいるか」
「えーと‥基本的にいないですね‥」
「そうか‥竜はいい生き物だがな。賢いしよく飛ぶ。主人と決めたらよく仕えて飛んでくれる」
「なるほど‥えっと、この飛竜?は何か名前がありますか?」
竜がいない、という事実が結構ハルタカ的には悲しかったらしい、ということをマヒロは見て取り、話題を変えた。
「テンセイ、という。龍人の中では飛竜の名前も龍人の名前もある程度決まっているからその中から選ぶんだ」
「へえ!何か意味があるんですか?」
話題を変えるために聞いた事だったが、興味を惹かれて重ねて質問した。ハルタカも少し柔らかい顔になって答えてくれる。
「テンセイは空高く飛ぶ、という意味だ。私の名前も、空のかなた遠く、という意味だから似たような名前を付けた」
マヒロは目を丸くして、目の前の龍人と飛竜を見た。こんな偶然ってあるんだろうか。
「私の名前、天尋も似たような意味ですよ!高い空‥天の幅いっぱいまで成長するように、ってつけてくれた名前らしいです」
今度はハルタカが目を見開いた。飛竜や龍人は空にゆかりのある名前が多い。たまたま自分が拾う羽目になったカベワタリも似たような意味の名前を持っているとは。
やはり、このカベワタリに自分が出会ったのは、運命なのかもしれない。この先、大事に囲うべき番いなのかもしれない。
そう思って嬉しそうに自分を見上げてくるマヒロの顔を見つめた。頬を少し赤くしてにこにこしている。思わず、ハルタカは傍に近づいてぎゅっと抱きしめた。予想外の行動に驚いたマヒロからは「ぐえ」という声が上がった。
「はるたは、くうひいれす(ハルタカ、苦しいです)」
太い腕を必死にタップしているマヒロに気づいて、すぐに腕の力を緩めた。小さすぎないだろうか。抱きしめるとちょうどハルタカの胸辺りにマヒロの頭が来てしまうのでいつも顔を胸で潰してしまっている。鼻がぎゅっと潰れてしまったらしく、腕の中でもがきながら何とか手で鼻の先を撫でている様子がかわいらしかった。また、頭を軽く引き寄せそこに口づけてしまった。
「ハルタカさん!そ、そういうの、だめですって!」
そしてまた怒られてしまった。
だがハルタカは、自分に怒って顔を赤くしているマヒロもかわいらしいな、と思うようになってきていた。
つまり、あまりマヒロの羞恥や怒りは伝わっていなかった。なので、その怒っているマヒロを見てもう一度抱きしめてしまった。
「ハルタカさん!もう!やめてくださいってば!」
顔を真っ赤にして非力なくせにぐいぐい自分を遠ざけようとしているマヒロはかわいらしい。ハルタカは微笑みながらその様子を何も言わずに見ていて、マヒロはいたたまれないような恥ずかしさを感じた。
「も、もう、行きましょう!行きたいです!」
そう言ってハルタカの腕から抜け出し、一生懸命飛竜の鞍に乗り上がろうとしているマヒロをひょいと抱き上げ鞍に乗せた。そして自分もその後ろに飛び乗った。
「空気は私が調整する。苦しくなったり身体が重くなったりしたらすぐに言え。いいな」
「はい、ありがとうございま‥す‥」
自分のお腹にぐっと回されたハルタカの腕に驚いた。ずっとこの腕に抱かれて乗るのか‥?
と、思っていたことなど、テンセイが大きく羽搏いて空に勇躍するとすっかり忘れてしまった。
怖い!
高い!めっちゃ高い!
そして、速い!
テンセイの羽搏き一回で相当な飛距離を稼いでいるように感じる。マヒロは高いところも絶叫マシンも全然平気なたちだったが、これは別格に怖い!びゅうびゅうと顔を吹きすぎる風に口も目も開けられない。耳もちぎれるように冷たくなる。お腹に回されたハルタカの腕に必死にしがみついていることしかできなかった。
(お、お出かけ、命がけじゃん‥)
私は絶対にテンセイには乗れません‥
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