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アツレンでの再会 3

どうぞ、とマヒロが応えた後に扉が開き、タムが現れた。

「タム!久しぶり、元気だった?」

そう声をかけるマヒロに、タムは優しく微笑んだ。

「勿論です。‥マヒロ様、よかったですね。まさか本当に住処まで行ってしまわれるとは、驚きました」

「へへ、ちょっとヤバかったけど‥飛竜のテンセイが途中から助けに来てくれて住処に連れてってくれたの。運がよかったよ」

タムは失礼します、と断ってからマヒロが座っている向かいの長椅子に腰かけた。ハルタカはマヒロの斜め横の一人用の長椅子に腰かけている。

「タム、お茶を淹れましょうか?」

「お願いします」

ジャックの呼びかけに軽く返事をしてから、タムは居ずまいを正してマヒロを見た。その様子に思わずマヒロも姿勢を正してタムを見返す。

「マヒロ様、久しぶりにお会いしてすぐ、こんなことを申し上げるのは恐縮ですが‥」

「え、どうしたの?」

素直に問い返すマヒロにタムは一度唇を閉じ、ちらりとハルタカの方を見やってから言葉を吐いた。

「マヒロ様‥ルウェン様を、説得していただけませんか?」


「ルウェンを?」

「はい」

タムはマヒロの顔をまっすぐに見つめた。

「ご縁があって、こちらで働かせていただいています。正直色々な手続きや引き継ぎ、変更が山積しておりまして本当に人手と人材が足りない状況です。今まで、領政にも携わってこられたルウェン様の手助けがないと辛いところなんですが‥」

「‥‥ルウェンが、関わらないようにしてる、って感じ?」

ジャックに訊いていた話を頭に浮かべながら、マヒロは訊いた。タムは小さく頷いた。


タムから見ると、ルウェンは不思議な人物だった。どう見てもアーセルに対して忠誠を誓っているようであるのにどこか遠慮がある。マヒロに対して許されない罪を犯したのだ、と本人は言っているが、アーセルに訊けばマヒロはもうすでに許したのだからいいのだ、との一点張り。かといって二人が同じ場所で話し合うこともなく、間にタムが入っての間接的なやり取りが続くばかりだ。

アーセルからのルウェンに対する信頼は絶大で、あの殴り合いがあったことが信じられないほどだった。しかし、あまり詳しい事情を根掘り葉掘り聞くわけにもいかず、何とも腑に落ちない感覚で仕方なく二人の間に立ち折衝を続けて三か月近く経つ。

ルウェン自身は、もうすっかり主だった仕事からは身を引く覚悟ができているようで、可能であれば騎士団もやめたいと考えているようだった。さすがにそれは騎士団幹部からも猛然たる反対が出て保留にされてしまっているが、それほど今のルウェンは騎士団にもフェンドラ領にも執着をなくしてしまっている状態だ。

このまま放っておけばフェンドラ領自体からも出ていってしまうのではないか、と騎士団や屋敷にいる人々は危惧していた。


最もそれを危惧しているのがアーセルで、認定式や王位移譲の手続きなど様々な仕事が立て込んでいる状態のアーセルは、アツレンにいられること自体が少ない。ルウェンはアツレンで警邏や退異騎士の仕事をしているから、話をしたければアツレンにいる間しか機会はないのだが、そもそもルウェンが色々と理由をつけてアーセルに会いたがらない。

正直タムは困り果てていた。


「ルウェン様の能力やこれまでの功績は、色々な方からも伺っておりますのできっとこれからのフェンドラには無くてはならない人材なのだろうと思っているのですが‥私がルウェン様にお会いする機会もなかなかなくて。ひょっとしたらマヒロ様がお呼び出し下さったらさすがにルウェン様もこちらにいらしてくださるのではと思いまして、お願いをしている次第です」

疲れたような口ぶりでそう話すタムの表情には、本当にどうしていいやらわからないと言った雰囲気が見て取れた。それを見てマヒロも思わず小さなため息をついた。

「まあ‥ルウェン結構気にしてたっぽいもんな、あの時のこと‥」

「当然だろう」

それまで黙って話を聞くばかりだったハルタカが、いきなり口をさし挟んだ。腕組みをして憮然とした表情をしている。

「え?」

「マヒロに害をなそうとして準備をしていたのだぞ?‥本来であれば私がこの手で焼き払ってやりたいところだ。マヒロが望まぬと言うので我慢しているが、私はその者の名も口にしたくはないしその者の姿も目に入れたくはない」

「え~、ハルタカ‥」

「無論、マヒロにも会わせたいとは思わない」

そうきっぱりと言い切るハルタカの顔を見て、ますますタムがうなだれる。龍人(タツト)が番いを殊の外大切にし、それを害しようものなら国を亡ぼす勢いで報復するという話をタムも聞いたことがあった。これではルウェンを説得してもらう事など望めまい、と思ったタムはゆっくりと立ち上がった。


「大変失礼致しました‥では、ごゆっくりお過ごしください」

「え、いや、ちょっと待ってタム!」

慌ててマヒロがタㇺに声をかける。まだ自分は何も返答していないのに、ハルタカの言葉だけで断られたと思われるのは本意ではなかった。

「会うよ、ルウェンに。ルウェンと個人的に話もしたいし」

「マヒロ!?」

横でハルタカが目を剥いてマヒロを見た。マヒロはそれに構わずタムに向かって話し続ける。

「どこかに向けて、ルウェン来て~って言えばいい?どこ宛てにすればいいかな?」

「あ、ええと、では退異騎士団詰所の方に‥」

「わかった、えっとそくしんちょう?がいいの?」

「いえ、今速信鳥を扱えるキリキシャがおりませんので、普通に伝令を飛ばしていただければ」

「わかった、ジャック、あとで手紙を代筆してくれる?」

ジャックは嬉しそうに笑ってお辞儀をした。

「はい!すぐに便箋を取って参りますね!」

そう言って足早に団欒室を後にしたジャックを見ながら、タムはほっと息をついた。しかし、斜め横から恐ろしい視線で見られていることを感じ、どう対応しようかと思案する。

ハルタカは今や射殺さんばかりの目でタムを睨みつけていた。

そんなハルタカの様子に気づいたマヒロが、ハルタカを窘める。

「ハルタカ。顔怖いよ」

「マヒロ、しかし」

「ハルタカ。私は私の考えで行動したいと思ってるけど、ハルタカはそれをさせてくれないの?」

そう言ってじっと自分を見つめてくるマヒロの視線に、ハルタカはそれでも縋るように番いを見つめ返す。マヒロの揺るがない視線を受けて、ハルタカはふうと息を吐き目をそらした。

「‥‥わかった。しかし、その者と会う時は私も同席するからな」

「いいけど、絶対にルウェンを威嚇しないでね。後、基本的にハルタカは喋らないでほしい。ややこしくなりそうだから」

ぴしゃりとマヒロにそう言われ、ハルタカは不満そうにしながらも、大きな身体の背を丸くして縮こまった。


お読みくださってありがとうございます。

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