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呼ばれたわけ

何とか更新できました。そして何とか100話まで来ました!100の大台に乗ったのはこの話が初めてです。いつもお読みくださっている皆様、ありがとうございます。

ハルタカは座ったソウガイに目をやってから、マヒロの背中に手を添えてマヒロにも座るように勧めた。マヒロはされるがままに腰かけると、改めて目の前の龍人(タツト)を見た。


見かけだけなら高校生くらいに見える。背丈はマヒロと同じくらいかもしれない。ハルタカを知っているので、随分小さいように感じる。しかし、何とも言えない威圧感があって身体の小ささはしっかりと見なければ意識できない。

髪は美しい銀髪だが、まっすぐなハルタカのそれに比べて緩く波打っている。しかもとても長い。椅子に座っていると。無造作に背に広がっている髪が床下につくほどだ。

顔立ちも顎が細く少年のようである。切れ長の大きな金色の目、小ぶりな鼻筋。‥アジア人の顔立ちに見える。


「最長老さんって、日本人みたいな顔してる、んですねえ」

思わずそう言ったマヒロを、ソウガイは少しだけ金色の瞳に熱をのせて見た。

「‥お前も日本人か。西暦何年から来たんだ?」


西暦。

ここに住む人は、知らない概念。


「最長老さん、て‥」

ソウガイが机の上に左手を出すとそこにまたポン、とグラスに満たされた飲み物が出現した。白い指先でそれを手に取ると、喉を晒して飲んでいく。

かた、と机にグラスを戻してソウガイは言った。

「私もカベワタリだ。ここに来たのは‥‥ん、今から五千五百六十二年前だな。日本人で、そう‥‥西暦2210年、にここへやってきた」


マヒロは、頭の中で言われた数字を反芻していた。ぱっと頭になかなか入ってこない。マヒロの横でハルタカも小さく口を開けて驚愕の表情をしていた。

「最長老もカベワタリだったとは、知らなかった‥」

ソウガイはハルタカの方を見もせずに答える。

「まあ、今まで言ったことはないしな。それを知っていた龍人(タツト)たちも皆、もう寿命を返してしまったし。‥今生きている龍人(タツト)は誰も知らぬ」

マヒロはようやく口を開いた。

「あの、私がここに来た時は、西暦2024年でした。‥あなたは、私よりも未来の日本から過去のこの世界に来た、ということですか?」

ソウガイはマヒロを見た。

「‥そうだな。二十年ほど前にゴリキ統治国に現れたカベワタリも日本からのものだったが、その者は戦国時代からやってきたらしかった」

「なぜ日本人ばかりが現れるんでしょうか‥」

マヒロは思わずそう尋ねた。自分を含め、三人ものカベワタリが日本人だったことに驚きを隠せない。

ソウガイは少し首を傾げた。

「私がこの世界に来てからでも、何十人とカベワタリはやってきている。逆に言えば、私が確認している日本人はその中で‥ん、五人だけだ。しかも私が把握しているのは意思の疎通ができる、ヒト型の生き物だけだから、他にもたくさんいるのかもしれない。特に日本人ばかりが多いわけではない」


ヒト型の生き物、と言われてマヒロは唖然とした。確かに色々な世界からカベワタリがやってくるとしたら、ヒト型の生き物だけである可能性は少ない。

そこまで考えて、はっとした。あの気味の悪い生き物はどこからやってきているのだろうか。

「あの、ひょっとして、異生物もカベワタリの一種なんですか‥?」

ソウガイは少し目を見開いて、面白そうにその目を瞬かせ、マヒロを見た。

「ほう、面白いことを考えるな。‥‥しかし異生物については、まだ何も明かせない。たとえ龍人(タツト)であっても」

そう言ってハルタカの方を見るとにやりと笑った。その笑い方はまるで随分と年を取ったもののそれだった。


「話がそれてはいないか?カベワタリ。私に文句があったのでは?」

面白そうにそう言われ、マヒロはソウガイが自分を少し揶揄っているのだと初めて気づいた。

少し不機嫌そうな声になっているのを自分でも感じつつ返事をする。

「文句は、ハルタカについての扱いようにだけです。ハルタカは何も悪いことなんてしてない。私のせいです。どうしても罰したいなら私にしてください」

「マヒロ」

ハルタカが咎めるように声をかけてくる。そしてマヒロの手に重ねられたハルタカの手を、手をひっくり返してぎゅっと握った。


ソウガイはその二人の手をじっと眺めていた。そしてマヒロに声をかけた。

「お前は、どんな役割を持ってここに呼ばれたと思っている?」

マヒロはきょとんとしてソウガイを見た。言われていることの意味がすぐには理解できなかった。

「役割‥?」

「そうだ、役割だ。カベワタリは、大体何がしかの役割を持ってここへ呼ばれる。この世界(トワ)は綻びや欠けの多いところだ。それを補うために、世界(トワ)がカベワタリを呼び込む」

自分がこの世界に来た意味。

そこまで、考えてみたことがなかった。

確かに、何かの役に立ちたい、とは思っていたがそれとてこの先自分が生きていく上で必要だと思ったからだ。

世界に課せられた役割、なんて思いつくはずもない。そう考えて、目の前の少年のようなソウガイを見た。ソウガイもカベワタリ、であるのに龍人(タツト)でもある。


「最長老さんは、どんな役割だったんですか?」


そう訊かれて、初めてソウガイはその目にはっきりとした感情をのせた。

苦痛、そして悲しみ、諦め。

そのような色が、ソウガイの澄んだ金色の目や顔の上に表れ、少しずつ消えていく。

ソウガイはもう一度グラスを傾け、薄黄色のその中身を飲み干してふう、と息を吐いた。


「私の役目は、『ソウガイ』の継承だった」


今度はハルタカが目を瞠った。ハルタカにしても、この最長老と対面してここまで言葉を交わすのは初めての経験だった。姿でさえ、先日の邂逅を除けば今までしかと見たことはなかったのだ。

「『ソウガイ』の継承、とは‥どういうことですか?」

ソウガイはちらりとハルタカを見て、話すか話すまいか迷っている様子を見せた。そしてその横にいるマヒロにも目を滑らせると、「ふむ」といって両手の指を組んで座り直した。

「まずはお前の答えから聞こう、カベワタリ」

マヒロはそう言われ、ぐっと言葉に詰まった。

「え、っと‥まだここに来てから、一年も経ってないし正直役割とかはわからない、です‥。何か役割があるなら、それを果たしたいと思う、けど‥」

ソウガイがその先を促した。

「けど?」

マヒロはソウガイの方をじっと見た。もうソウガイの目に感情の揺れはない。この龍人(タツト)に言って通じるのかわからない、と思ったが、言わずにはいられなかった。


お読みくださってありがとうございます。


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