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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
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術式パズル

「まず、魔道言語について軽く説明するね」

 リサは身構えた。絶対に難しい話をされる。

「魔力を特定の軌道で動くようにする。たとえば三角形の軌道で魔力が流れ続けるようにするの。魔力が特定の軌道で流れると、対応した現象が起こる。三角形なら火が出るね」

 リサは実際にやってみる。けっこうでかい火が出た。

「これが魔道言語における一文字。逆三角なら水、三角形に横棒を足せば空気。術式は複数の文字の組み合わせ」

 リサはそれぞれやってみる。床が水浸しになった。

「おー。簡単じゃん」

「術式パズルでは一文字をさらに分解するの。たとえば二つの三角形を上下に切り分けると、ひし形も作れるようになる。ひし形は召喚魔法ではよく使われる文字」

 クレアが本を開き、召喚魔法で使われる術式の一例を見せてくれる。

 二重の円があり、内側の円に沿って蛇がらせんを描いている。その体には文字がびっしりと書き込まれている。

「この文字、どっちが下なの?」

「蛇のお腹側が下。背中側が上。術式は横書きもあるけど、基本的には円状で書くから、覚えておいた方がいいよ」

「これ魔力で書ける気しないんだけど」

 頭の中で文章を書くようなものだ。書く以前に覚えることすら難しい。

「それは練習してもらうとして。切り離した三角形二つと横棒一つがあれば、火、水、空気、土、ひし形のすべてを表せる。こうやって、文字を分割して、組み替えることで術式を構築できる魔道具が術式パズル」

 クレアは実物を見せる。手のひらサイズの円盤で、素材は水晶。

「私は魔力ないんだけど、リサは触れば使えると思う」

 術式パズルを受け取る。探知魔法を使うと中の魔力が確認できた。たしかに、バラバラになった図形が浮かんでいる。適当に選んで三角形を作った。

 鏡の上で炎が踊る。

「おー。すっご」

「でしょ!」

「これをアルが開発したの?」

「そうだよ。中等部の研究発表が商品化されるなんて、めったにないことなんだから」

 リサはいろいろな組み合わせを試す。火を出したり風を起こしたり、冷風を出せると気づいてからは服の下に突っ込んで涼む。

「ちなみにこれ、魔力の固定と流動を両立させるのも難しいんだけど、……興味ないよね」

 目を輝かせて解説していたが、リサの反応を見てやめた。

「ねえ、クレアは出ないの? 競技会」

 唐突に投げられた質問。クレアはぽかんと口を開け、一瞬置いてから手と首をぶんぶん振る。

「出ない出ない! 私なんか大したことできないし」

「そうかなー。アルにアイデアあげてたじゃん」

「ひとつアイデア出すのと、それを実現するのはまったく違うの! なんで急にそんなこと言うの」

「やー、なんか、楽しそうに話してたから。好きなのかなって」

「……自分で勉強するぶんにはね。人前で発表とか、そういうのはちょっと。リサはどうなの?」

「あたしは試合だけ出ようかな。面白そうだし」

「だと思った」

「ね、アルより強い人いるかな?」

「うーん。全学年参加だから、上級生は手ごわいかもね。たぶんニーナ先輩も出るし。他にも上位生は出てくると思うよ。まあ、アルフレッド君みたいな搦め手使う人は少ないから、リサなら火力で押し切れると思うけど」

「そうなの?」

「そうなの。みんながみんなアルフレッド君みたいになれるわけじゃないから。強い魔術師って、だいたいは魔力に恵まれてて、才能ある人ばっかり」

「それだと、アルが才能ないみたいじゃん」

 言うと、クレアは力なく笑う。

「入学試験の話したでしょ」

「ああ、うん。クレアが一位とったやつね」

「そう。そのときアルフレッド君が二位で、実技は逆。私が最下位で、アルフレッド君は下から二番目。魔力量も、一般人より少ないくらいだったらしいよ」

 つまり、紛うことなき落ちこぼれ。

「って、え? 魔力少ないの? けっこうすごいことしてたような……」

「幻覚魔法と召喚魔法は魔力消費が少ないの。でも術式が複雑だから、幻覚魔術を実戦で使える人はほぼいない。召喚魔法も同じ。身体強化も、普通は全身にかけるけど、アルフレッド君は必要な個所だけピンポイントでかけてる。徹底して魔力効率のいい戦い方をしてる。一年の時はどん底のいじめられっ子だったのに、三年になるころにはトップまで上り詰めてた。すごいよ、本当に」

「信じらんないんだけど」

「私も、信じたくなかった。一緒だと思ってた人がどんどん上がっていくんだもん。周りから見下されても、悪く言われても、アルフレッド君は少しもめげないで、最後には勝っちゃった」

 さっきと同じ、くたびれたような笑み。

以前、クレアをバカにしていた男子生徒を思い出した。落ちこぼれには何をやってもいい。劣っている人間をいじめるのは正当な権利。

くだらない人間はどこの世界にもいるものだ。

リサはクレアの手をとる。

「ねえ、やっぱりあたし、クレアに出て欲しい」

「でも……」

「見返そうよ! アルはやったんでしょ? クレアだってできるよ。魔力がなくたって、勉強なら得意じゃん! 怖いならあたしも一緒に出る。バカにするやつがいたらあたしが黙らせる。だから、そんな風に諦めてないで、一緒に戦おうよ」

「けど、けど……私はアルフレッド君と違う。それに……」

 クレアは言いよどむ。リサにまっすぐ見つめられ、意を決して口を開いた。

「私、ホムンクルスだから。人間が使うために作られた道具だから。同じ舞台には立てない。入学できただけで十分恵まれてるの! だから、これ以上なんていらない」

「嘘おっしゃい!」

 大音声。クレアはびくっと体を震わせる。

「十分恵まれてるなんて思ってないじゃん。絶対嘘じゃん」

「嘘じゃないし!」

「じゃあなんでアルフレッド君の話しするときあんな顔してたの! 研究の話しするときだってめちゃくちゃ楽しそうじゃん。自分でブレーキかけることないんだよ。たとえ恵まれてるとしても、それが諦める理由になんてならない。幸福すぎることに罰なんてない。そんなこと言うやつがいたらあたしが焼き払ってやる。クレア」

「……なに」

「びびってないでやってみようよ。大丈夫、あたしたち最強だから」

 クレアは深く息を吸い込む。否定する言葉、受け入れる言葉、いくつも脳裏に浮かんでは消えていく。ゆっくりと、感情を落ちつけながら息を吐きだした。

「ありがと」

 リサの顔が明るくなる。

「けど、遠慮しとく」

「なんで!?」

「リサは試合は強くても、研究なんてできないでしょ」

「う、それは…これからがんばればなんとか」

「二か月後だよ、発表会。最強って言うなら、ちゃんと一番取ってよね。私もがんばるから」

「もちろん! クレアは…」

「私は研究発表。二人とも一番になれたら、ほんとに最強だね」

「うん!」

 クレアは笑みを浮かべ、リサは勢いよくうなずいた。

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