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魔術師たちよ  作者: 八神あき
三章 魔神の復活
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告白

 とんでもなく時間が空いてしまって申し訳ないという気持ち。orz

 二人、連れだって外へ出る。

 違和感にはすぐ気づいた。自転車が消えていたからだ。


 盗まれた、違う。すぐ近くに気配。


「久しぶり、彩。なんか元気になってんじゃん」


 物陰からガラの悪い女子生徒が出てくる。

 彩は身をすくませた。

「か……金井、さん……」

「覚えててくれたんだ、うれしいー」

 金井が手をあげると、周囲に隠れていた仲間たちが出てきた。その数、10を上回る。


 同じ学校の制服。八割がたは男で、ガタイはいい。武器を持っている者もいる。

 梨沙は彩の前に出る。

「梨沙……」

「大丈夫。中に隠れてて」

「で、でも………」

「大丈夫。あたしのほうが強いから」

「うん……」


 二人のやりとりを見て、金井は口笛をふく。

「かっこいいじゃん」

「どーも。よく言われる」

 金井が手を振り下ろす。

 十人が梨沙に襲い掛かる。


ーーーーーーーーーー


 自転車をこぎながらあくびをひとつ。

「自転車、近くにあってよかったね」

「遠くに持っていくのも面倒だったろうからね」

 梨沙は額に傷ができていた。後ろに乗った彩が手を伸ばす。


「綺麗なのに……」

「ちょっと怪我してるくらいがかっこいいでしょ」

「中二病?」

「うるさ」


 梨沙の軽口に、答えはない。

 彩はしばし迷ったのち、まったく違うことを口にした。

「……えっと、もうホテル、だけど」

 言われた途端、梨沙は赤くなる。緊張でハンドルがおぼつかない。冷や汗が流れる。

「…………よし」

 ハンドルを掴み直す。右へ傾けた。

 自転車で駐車場に入るのがどうにも、落ち着かなかった。


 自転車を降りてからの記憶は断片的。

 廊下を歩いた、扉をくぐった、シャワーを浴びて、頭が真っ白になった。


 正気に戻ったのはベッドの中。

 薄暗い室内、空調の音だけが響いている。


 隣には女の子の体。自分のとはぜんぜん違う、細くて白くて、綺麗。

 彩は静かに眠っている。頬にかかった髪をどけると、吐息を漏らして抱き着いてきた。


 ふわふわとした感覚。この部屋が世界のすべてで、世界には自分と彩の二人だけしかいないような安心感。

 何年も張り詰めていた糸が、ぷつんと切れた。


「…………梨沙? 泣いてるの?」

「……起きてたの?」

「今起きた」


 彩はそっと、涙に触れる。

「憑き物が落ちたみたいな顔」

 一瞬で体に力が入る。理解してもらえた安心感と、見抜かれた恐怖がないまぜになる。

「知ってる? 梨沙ってずっと、泣きそうな顔してたんだよ?」

「怖い顔って、ずっと言われてたけど」

「最初はちょっと怖かったけど。……けど、だんだんわかってきたの。何かとても、哀しいことがあって、それを守ってるって」

 彩に抱き着く。肌を押し付け、足を絡ませる。


「そう、かな……そうなのかな」

「うん。踏み込んでいいのか迷ってた。いつか、自分から話してくれる日がくるかもしれないって」

 梨沙の頭をなでる。


 その瞬間、梨沙は飛び起きた。押し込めていた記憶があふれ出す。

 そうだ、こんなのは嘘だ。世界はもっとずっと残酷で、恐ろしくて、理解の及ばない他者にあふれている。

「ど、どうしたの!? 梨沙……」

 心配そうな顔。優しい目、心から好いてくれる人の目。それが、記憶の封をこじあける。


 咳込んだ。頭が割れる。眩暈がする。


 首を振った。そして、抱きしめられた。

 幼子をあやすように、梨沙を抱きしめ、背中をさする。

 ゆっくりと、緊張が解けていく。恐怖も不安も、怒りも焦燥も、抜け落ちていく。

「あたしは、お姉ちゃんを殺した」


 するりと口から流れ出た。


 家が厳しかったこと。姉だけは優しかったこと。

 姉に勧められて空手を始めた。褒められるとうれしかった。だからがんばった。

 そして、あの帰り道、姉は死んだ。

 私をかばって死んだ。私のせいで死んだ。

 大好きな、お姉ちゃんを殺した。


 話している間、彩はずっと頭をなでていた。

 罪のすべて、さらけ出す。だれにも渡すまいと抱え込んでいたすべて、なくなって、空っぽになる。

 残るのは、虚ろな器。糸の切れた人形。


 彩はいつまでも、抱きしめてくれた。

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