告白
とんでもなく時間が空いてしまって申し訳ないという気持ち。orz
二人、連れだって外へ出る。
違和感にはすぐ気づいた。自転車が消えていたからだ。
盗まれた、違う。すぐ近くに気配。
「久しぶり、彩。なんか元気になってんじゃん」
物陰からガラの悪い女子生徒が出てくる。
彩は身をすくませた。
「か……金井、さん……」
「覚えててくれたんだ、うれしいー」
金井が手をあげると、周囲に隠れていた仲間たちが出てきた。その数、10を上回る。
同じ学校の制服。八割がたは男で、ガタイはいい。武器を持っている者もいる。
梨沙は彩の前に出る。
「梨沙……」
「大丈夫。中に隠れてて」
「で、でも………」
「大丈夫。あたしのほうが強いから」
「うん……」
二人のやりとりを見て、金井は口笛をふく。
「かっこいいじゃん」
「どーも。よく言われる」
金井が手を振り下ろす。
十人が梨沙に襲い掛かる。
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自転車をこぎながらあくびをひとつ。
「自転車、近くにあってよかったね」
「遠くに持っていくのも面倒だったろうからね」
梨沙は額に傷ができていた。後ろに乗った彩が手を伸ばす。
「綺麗なのに……」
「ちょっと怪我してるくらいがかっこいいでしょ」
「中二病?」
「うるさ」
梨沙の軽口に、答えはない。
彩はしばし迷ったのち、まったく違うことを口にした。
「……えっと、もうホテル、だけど」
言われた途端、梨沙は赤くなる。緊張でハンドルがおぼつかない。冷や汗が流れる。
「…………よし」
ハンドルを掴み直す。右へ傾けた。
自転車で駐車場に入るのがどうにも、落ち着かなかった。
自転車を降りてからの記憶は断片的。
廊下を歩いた、扉をくぐった、シャワーを浴びて、頭が真っ白になった。
正気に戻ったのはベッドの中。
薄暗い室内、空調の音だけが響いている。
隣には女の子の体。自分のとはぜんぜん違う、細くて白くて、綺麗。
彩は静かに眠っている。頬にかかった髪をどけると、吐息を漏らして抱き着いてきた。
ふわふわとした感覚。この部屋が世界のすべてで、世界には自分と彩の二人だけしかいないような安心感。
何年も張り詰めていた糸が、ぷつんと切れた。
「…………梨沙? 泣いてるの?」
「……起きてたの?」
「今起きた」
彩はそっと、涙に触れる。
「憑き物が落ちたみたいな顔」
一瞬で体に力が入る。理解してもらえた安心感と、見抜かれた恐怖がないまぜになる。
「知ってる? 梨沙ってずっと、泣きそうな顔してたんだよ?」
「怖い顔って、ずっと言われてたけど」
「最初はちょっと怖かったけど。……けど、だんだんわかってきたの。何かとても、哀しいことがあって、それを守ってるって」
彩に抱き着く。肌を押し付け、足を絡ませる。
「そう、かな……そうなのかな」
「うん。踏み込んでいいのか迷ってた。いつか、自分から話してくれる日がくるかもしれないって」
梨沙の頭をなでる。
その瞬間、梨沙は飛び起きた。押し込めていた記憶があふれ出す。
そうだ、こんなのは嘘だ。世界はもっとずっと残酷で、恐ろしくて、理解の及ばない他者にあふれている。
「ど、どうしたの!? 梨沙……」
心配そうな顔。優しい目、心から好いてくれる人の目。それが、記憶の封をこじあける。
咳込んだ。頭が割れる。眩暈がする。
首を振った。そして、抱きしめられた。
幼子をあやすように、梨沙を抱きしめ、背中をさする。
ゆっくりと、緊張が解けていく。恐怖も不安も、怒りも焦燥も、抜け落ちていく。
「あたしは、お姉ちゃんを殺した」
するりと口から流れ出た。
家が厳しかったこと。姉だけは優しかったこと。
姉に勧められて空手を始めた。褒められるとうれしかった。だからがんばった。
そして、あの帰り道、姉は死んだ。
私をかばって死んだ。私のせいで死んだ。
大好きな、お姉ちゃんを殺した。
話している間、彩はずっと頭をなでていた。
罪のすべて、さらけ出す。だれにも渡すまいと抱え込んでいたすべて、なくなって、空っぽになる。
残るのは、虚ろな器。糸の切れた人形。
彩はいつまでも、抱きしめてくれた。




