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魔術師たちよ  作者: 八神あき
三章 魔神の復活
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片隅で

 高校一年の8月に転校生とは奇妙なことである。

 親の転勤か、はたまた問題でも起こしたか。


 東堂梨沙は後者だった。

 喧嘩の傷跡も癒えぬまま、片田舎の高校へ現着。

 顔に痣があるせいで話しかけられる事もない。初日からぼっち飯である。


 コンビニ袋を片手に校内をぶらつく。

 じりじりと鳴くセミの声、校庭には蜃気楼が立ち上る。

「……あっついな」

 パタパタと制服をあおいで、校舎の北側、影になっている場所へ向かった。


 足を進めるにつれ、人気が遠ざかっていく。

 北側は山に隣接しており、フェンスで仕切られてはいるが、枝が敷地へ飛び出してきている。

 フェンスと校舎に挟まれた空間に人だかりがあった。


 5人の男女が、ひとりの女子生徒を取り囲んでいた。

 女子生徒はうずくまって腹を蹴られる。うめき声をあげるが、抵抗はない。

「うーわ……どこも変わんないな」

「あ? 誰だお前」

 男子生徒が振り向く。梨沙の姿を認めると、失せろとばかりに顎をしゃくった。


「ねえ、あんた」

「んだよ、なんか用かよ」

「そっちの頭の鈍そうなのじゃなくて、倒れてる子」

「あ? 喧嘩売ってんのか?」

 声を荒げられ、梨沙は鼻で笑う。

「買う金あんの?」

 挑発すると、男が梨沙へ向かって歩み出る。

 後ろでは女子ふたりがクスクス笑いながらスマホを向けていた。


「寄んないでくれる? 暑いしキモイ。自分らの顔が醜いって自覚ある? ……ああ、性根の方が醜いか」

「失せろよ」

 肩を突き飛ばしてくるも、重心を落とすと簡単に踏ん張れた。


 梨沙が吹っ飛ぶ姿を想像していた男は怪訝な顔をする。

 梨沙は男の正中線に張り手を食らわした。

「うお!?」

 叫び声をあげ、後ろに吹っ飛ぶ。横にいた二人は顔を見合わせた。

「だっせえ、お前なに負けてんの?」

「うるせえ! ぶっ殺してやる!」

 殴りかかって来た。梨沙は斜め前に進むだけでそれをかわす。足をかけると、男はすっころんだ。


「わかんないかなあ? 全員で来たほうがいいよ。あんたら弱いから」

「舐めんな!」

 二人が一斉に殴ってくる。梨沙は体格の小さいほうに狙いを定めた。拳をくぐりながら距離を詰め、アッパーで顎を撃ち抜く。

「ぐっ!?」

 動きが鈍った隙に首を掴んで膝蹴り。互いの体の位置を入れ替えて蹴り飛ばすと、もうひとりの男を巻き込んで倒れていった。


「おおおおおお!」

 最初の男が雄たけびをあげて殴りかかってくる。

 梨沙はそれを、黙って受けた。頬に拳がめり込む。

 二度三度と殴られるが、その場から一歩も動かない。四度目を殴ったあとで、男のほうが気圧されてあとじさった。

「な、なんだよ、お前……」

「よける気なんなかったの、弱すぎてさ」

「は?」

 梨沙は一息で距離を詰めた。正拳を握りしめ、男の鼻面に叩き込む。


 男は血を噴き出して倒れた。起き上がろうとするもふらついて力が出ない。

「こうやって殴るの。ほら、やってみな?」

 梨沙はしゃがんで男の前に顔を差し出す。男は拳を握るも、震えていた。梨沙を見て、仲間を見て、首を振る。

「わ、悪かったよ。俺らが悪かったから」

「悪かった? え、別にあたしなんも言ってないけど? 人を殴るの楽しいんでしょ? わかるよ、あたしもそうだもん」


 梨沙が男を覗き込んでいる隙に、女子のひとりが棒きれを持って近づく。

「だあ!」

 掛け声とともに、梨沙の頭を殴った。


 梨沙はゆっくりと振り返る。

 無造作に手を伸ばし、首を掴んだ。女は目を白黒させながら梨沙の手を引き離そうとするが、力の差は歴然。


 梨沙は首を掴んだまま、もう一人の女に投げつけた。撮影していたスマホが宙を舞い、二人はフェンスへ転がっていく。


 梨沙が女を相手している隙に男三人は立ち上がり、背を向けていた。

「逃げんなよ! 弱いやつ相手じゃないとイキれないの? だっせえな! 飯食ってクソまき散らすだけの蛆虫どもが! たまには格上に盾突いて見ろよ!」

 中指を突き立てる。


 男のひとりが足をとめた。他の二人が制止するも、拳を固めて梨沙に向かう。

「そうだよ、そうすりゃいいんだよ!」

 男の攻撃をよけ、軽く額を小突いた。男は怯えながらもタックルをかます。梨沙は受け止めるもじりじりと押され、フェンスにぶつかった。

 仲間の奮闘を見て残りの二人も向かって来た。


 梨沙はそれを見て、笑った。

 足の指に力を籠め、大地を掴む。男の脇腹に手を差し込んだ。

「むん!」

 そして、投げた。技術でもなんでもない、ただの力技。

 男をフェンスにたたきつけ、顎を殴って仕留める。


 残りの二人はもはや勢いを殺せない。梨沙へと吸い込まれてくる。

 ままよと覚悟を決め、拳を振り下ろしながら踏み込んだ。梨沙は相手の膝に足裏を添え、体重が乗った瞬間に踏み抜いた。

「あぎゃああああああ!?」

 膝が逆向きに90度曲がる。男は絶叫しながら倒れ込んで来る。こめかみを殴ると回転しながら吹き飛び、泡を吹いてぴくぴくと痙攣した。


 もう一人の顎に本気のアッパーをぶち込む。男は膝をつき、二度と起き上がらない。


 倒れた三人の男を見て、梨沙は冷静になる。

「……初日からやらかしたな。……まあいいか」

 いじめられていた女の子に近づく。彼女は完全におびえていた。もっとヤバイやつに絡まれたとでも思っているのだろう。


 梨沙は女子生徒に手を差しのべる。

「立てる?」

 返事はない。


 梨沙はやにわに女子生徒を抱き上げた。

「わっ」

 女子生徒は反射的に梨沙の首に腕を回す。

 顔が近づき、目があった。

「へえ、かわいいじゃん。名前は?」

「え、あ、えっと……九条」

「あたし梨沙ね。下の名前は?」

(あや)、ですけど……」

 梨沙は先ほど投げた女子二人に視線を向ける。


「彩に手出したらあたしに喧嘩売ってんのと同じだから。おっけー?」

 二人は何度もうなずく。


「行こっか」

 梨沙が笑いかけると、彩は不安に瞳を揺らし、うなずいた。

週一で更新していたのですが、しばらく休みます。申し訳ありません。

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