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魔術師たちよ  作者: 八神あき
三章 魔神の復活
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窓を隔てて

 梨沙はひとり、廊下に立っていた。

 床の冷気が足を伝わってくる。窓の外は雨。薄暗くどんよりとした雲から、終わることなく雨が降り続いている。


 あの日からどれだけ時間が経ったのかわからない。

 記憶は断片的で、つぎはぎされて頭の中に散らかっている。

 病床で泣く両親、低く響く読経、骨壺に治められる小さく白い小枝。


 後ろの部屋では両親が小声で話している。ときおり母のすすり泣きが聞こえ、父が慰めていた。

「いつまでも泣いていたって仕方なよ。あの子を見習えとは言わないけど」

「……あんなのと一緒にしないでください! 涙一つ見せないで、薄気味悪い。目の前で肉親が死んだっていうのに……」

 それに続いて、母は決定的な一言を放った。父は眉をひそめるも、たしなめはしない。


 窓の外に目を向けると、陰気な少女と目が合った。

 母の言う通りだ。薄気味悪い。

 今までずっと嫌いで、理解できなかった。けれど今日はじめて、思いが一致した。

「……ほんと、あたしだったらよかったのに」

 慌てて目元を抑えた。ずっとなんともなかったのに、なんで今。


 戸惑いながら部屋へと走る。まだだ、まだ我慢しろ。

 扉を閉めるや布団にもぐり込む。

 涙が流れた。毛布で目元を抑える。こんなに悲しいのに、泣いているのに、頭をなでてもらえない。

「違う、違うよお姉ちゃん。そうじゃないよ。なんで、なんでお姉ちゃんなの。そんなのだれも望んでない。逆だよ、バカ」


 口にしたところで、本当はわかっていた。

 バカなのは自分だ。自分が不注意で、頭が悪くて、自分勝手だから、姉が身代わりになった。

「……やっぱりまちがってるよ、こんなの。……あたしが、死ねばよかったのに」

 やはりまちがっているのだ、こんな世界。絶対に。


 目が覚めると涙は枯れていた。

 久しぶりに道場へ行くと、みんな心配してくれた。

 けれど梨沙は振り向きもせず、巻き藁に向かった。

 藁の巻かれた板に、拳を打ち付ける。

 何度も何度も、血が出ても、周りがとめても打ち続けた。


 その日から、梨沙は練習に打ち込んだ。まるで憑りつかれたように。

 兄弟弟子は梨沙を恐れた。師も手を焼いた。


 やがて敬遠されるようになった。組手でも喧嘩でも、梨沙の相手をしてくれる人はいなくなった。

 それでもよかった。もうこの世界には、だれもいないのと同じ。


 たったひとりの存在は、もういないのだから。


 梨沙はひとりになった。

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