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魔術師たちよ  作者: 八神あき
二幕 ショルツ邸にて
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死闘

 二人のホムンクルス、ロウディとラックは爆発を聞いて駆けつけてきた。

「クメル!?」

 ラックは廊下に倒れている仲間を見つけた。

 顔中から血を流し、意識を失っている。


「魔力は使えないんじゃないのかよ」

「魔術師側にいたホムンクルスかもな。なんにせよ、注意したほうがいい」


 ラックは廊下にできた穴に駆け寄る。

「この下だ!」

「待て。お前はノンに知らせてこい。こっちは俺が見てる」

「ビビってんじゃねえよ! 逃げられたらどうする!」

「冷静になれ。屋敷の構造は覚えただろう? この下は執務室、窓はない。袋のネズミだ」

「しっ! 声が聞こえる。二人だ」

 ラックが穴に近づき、耳を澄ます。


 その時、足元で爆発が起きた。

 床が崩れ、二人は階下に落ちる。

「くそ!」

 ロウディが着地すると同時、爆弾が飛んできた。拳大で、パイプの中に火薬が入っている。


 ロウディは瓦礫を投げた。爆弾にぶつかり、弾き飛ばす。

 ラックは床に落ちたきり動かない。


 仲間の生死を確認する間もなく、敵の魔術師が距離を詰めてきた。

(こいつか、クメルをやったのは!)

 ロウディは警戒心を強める。ただの人間に見えるが、すでに仲間二人がやられている。油断はできない。


 間合いに入る直前、アルフレッドは隠し持っていた瓦礫を投げる。

 瓦礫はロウディの目へまっすぐ飛んでいく。当たったところで害はないが、視界はふさがれる。

「ちぃっ!」

 ロウディが瓦礫をどかすと、アルフレッドが消えていた。


 後方から風切り音。

 ロウディは反転しながらアルフレッドの裏拳をよける。

(何か持ってる。鉄の錘? そうか、あれで急所を)


 ロウディは笑う。

 腕は立つようだが、手の内は割れた。


 拳を振り切ったアルフレッドの頭を狙い、回し蹴り。

 アルフレッドは回った勢いそのまま地面に手をつき、馬蹴りでロウディの背中を突き飛ばす。


 ダメージこそ入らないが、片足立ちだったせいでバランスが崩れた。

(こざかしい!)

 ロウディは回し蹴りをした足を地面に叩きつけ、力づくで態勢を整える。


 そのままさらに半回転し、後ろ回り蹴り。

 だがアルフレッドはそれを読んでいた。


 さらに姿勢を低く、地面に寝そべって敵の蹴りをかわす。

 そして、大きく足を振り上げたロウディの、金的を蹴った。

「はうぅ!?」

 ロウディがびくりと体を震わす。


 アルフレッドは蹴った勢いで体を跳ね上げ、身をひねりながら、ロウディの顎を蹴り抜いた。

 ロウディはその蹴りを耐える。技量では負けている。だが、しょせんは生身の魔術師、攻撃は通らない。


 顎を引き、アルフレッドの頭部に拳を振り下ろす。

 アルフレッドはよけるも、肩にくらった。

「あがっ!?」

 その一撃で骨は砕け、右腕は使えなくなる。


 文鎮を落とした。金属音が鳴り、転がっていく。

「手こずらせやがって!」

 アルフレッドの首をつかむ。


 アルフレッドは敵の顎に膝蹴りを入れるも、なんのダメージも与えられない。

「どうした、手品は終わりか? 魔術師」

 力をこめると、アルフレッドの喉が嫌な音を立て、顔が紫色に変色していく。


 口に溜まった血を吐きつけた。

 ロウディの目に入り、うっとうしそうに瞬きする。


 視界が閉ざされた一瞬、アルフレッドの左手が閃いた。

 ロウディの目に、ペーパーナイフを突き刺す。

「あああああああああああああ!!!」

 執務室に落ちてあったものをベルトに挟んでいたのだ。


 ロウディはアルフレッドを放し、目を押さえる。

 アルフレッドは飛び起き、蹴りでペーパーナイフを押し込む。


 ロウディが後ろへよろけていく。その隙に瓦礫を拾い、殴りつけた。

 ペーパーナイフは眼底を突き破り、脳に達した。


 ロウディは倒れる。

 血が滔々と流れだす。ぴくぴくと痙攣し、血だまりに波が立つ。


 アルフレッドもまた、その場にひざまずいた。

 右肩は砕け、喉もつぶれかけている。頭が破裂しそうだ。音はろくに聞こえず、思考も回らない。


 立ち上がろうと一歩踏み出すも、全身をさいなむ激痛で二歩目が出ない。動きがとまる。

 仮想空間とは違う、本物の痛み。

 目の前に転がる死体が、殺し合いをしているのだという現実を突き付けてくる。


 やめたい。

 戦いたくない。今すぐ部屋に戻ってリリアのそばで本を読んで温かいベッドで、安全な場所で、眠りたい。


 左手で震える体をかき抱く。

 息が荒い。体が限界だ。もう休みたい。


 きつく目を閉じると、リリアの姿が浮かんだ。

 だから、立ち上がる。もう少しだけ、がんばる。


 後ろから、ユーリがおっかなびっくり近づいてきた。

「あ、アルフレッドくんー? だい、じょうぶ? なわけないよね……」

 呼吸に意識を集中していると、少しずつ冷静さが戻ってくる。痛みも壊れた体も、レイヤー一枚隔てた向こうに遠ざかる。

 視界が不気味なほど鮮明になり、自身を俯瞰しているような錯覚に陥る。


 意識が、凪ぐ。


「ああ、大丈夫だ」

「だい、じょうぶなんだ……えっと、どうしたらいい?」

 アルフレッドは出口に向かって歩き出すのと同時、扉が開いた。

 ホムンクルスの一団がいた。

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