死闘
二人のホムンクルス、ロウディとラックは爆発を聞いて駆けつけてきた。
「クメル!?」
ラックは廊下に倒れている仲間を見つけた。
顔中から血を流し、意識を失っている。
「魔力は使えないんじゃないのかよ」
「魔術師側にいたホムンクルスかもな。なんにせよ、注意したほうがいい」
ラックは廊下にできた穴に駆け寄る。
「この下だ!」
「待て。お前はノンに知らせてこい。こっちは俺が見てる」
「ビビってんじゃねえよ! 逃げられたらどうする!」
「冷静になれ。屋敷の構造は覚えただろう? この下は執務室、窓はない。袋のネズミだ」
「しっ! 声が聞こえる。二人だ」
ラックが穴に近づき、耳を澄ます。
その時、足元で爆発が起きた。
床が崩れ、二人は階下に落ちる。
「くそ!」
ロウディが着地すると同時、爆弾が飛んできた。拳大で、パイプの中に火薬が入っている。
ロウディは瓦礫を投げた。爆弾にぶつかり、弾き飛ばす。
ラックは床に落ちたきり動かない。
仲間の生死を確認する間もなく、敵の魔術師が距離を詰めてきた。
(こいつか、クメルをやったのは!)
ロウディは警戒心を強める。ただの人間に見えるが、すでに仲間二人がやられている。油断はできない。
間合いに入る直前、アルフレッドは隠し持っていた瓦礫を投げる。
瓦礫はロウディの目へまっすぐ飛んでいく。当たったところで害はないが、視界はふさがれる。
「ちぃっ!」
ロウディが瓦礫をどかすと、アルフレッドが消えていた。
後方から風切り音。
ロウディは反転しながらアルフレッドの裏拳をよける。
(何か持ってる。鉄の錘? そうか、あれで急所を)
ロウディは笑う。
腕は立つようだが、手の内は割れた。
拳を振り切ったアルフレッドの頭を狙い、回し蹴り。
アルフレッドは回った勢いそのまま地面に手をつき、馬蹴りでロウディの背中を突き飛ばす。
ダメージこそ入らないが、片足立ちだったせいでバランスが崩れた。
(こざかしい!)
ロウディは回し蹴りをした足を地面に叩きつけ、力づくで態勢を整える。
そのままさらに半回転し、後ろ回り蹴り。
だがアルフレッドはそれを読んでいた。
さらに姿勢を低く、地面に寝そべって敵の蹴りをかわす。
そして、大きく足を振り上げたロウディの、金的を蹴った。
「はうぅ!?」
ロウディがびくりと体を震わす。
アルフレッドは蹴った勢いで体を跳ね上げ、身をひねりながら、ロウディの顎を蹴り抜いた。
ロウディはその蹴りを耐える。技量では負けている。だが、しょせんは生身の魔術師、攻撃は通らない。
顎を引き、アルフレッドの頭部に拳を振り下ろす。
アルフレッドはよけるも、肩にくらった。
「あがっ!?」
その一撃で骨は砕け、右腕は使えなくなる。
文鎮を落とした。金属音が鳴り、転がっていく。
「手こずらせやがって!」
アルフレッドの首をつかむ。
アルフレッドは敵の顎に膝蹴りを入れるも、なんのダメージも与えられない。
「どうした、手品は終わりか? 魔術師」
力をこめると、アルフレッドの喉が嫌な音を立て、顔が紫色に変色していく。
口に溜まった血を吐きつけた。
ロウディの目に入り、うっとうしそうに瞬きする。
視界が閉ざされた一瞬、アルフレッドの左手が閃いた。
ロウディの目に、ペーパーナイフを突き刺す。
「あああああああああああああ!!!」
執務室に落ちてあったものをベルトに挟んでいたのだ。
ロウディはアルフレッドを放し、目を押さえる。
アルフレッドは飛び起き、蹴りでペーパーナイフを押し込む。
ロウディが後ろへよろけていく。その隙に瓦礫を拾い、殴りつけた。
ペーパーナイフは眼底を突き破り、脳に達した。
ロウディは倒れる。
血が滔々と流れだす。ぴくぴくと痙攣し、血だまりに波が立つ。
アルフレッドもまた、その場にひざまずいた。
右肩は砕け、喉もつぶれかけている。頭が破裂しそうだ。音はろくに聞こえず、思考も回らない。
立ち上がろうと一歩踏み出すも、全身をさいなむ激痛で二歩目が出ない。動きがとまる。
仮想空間とは違う、本物の痛み。
目の前に転がる死体が、殺し合いをしているのだという現実を突き付けてくる。
やめたい。
戦いたくない。今すぐ部屋に戻ってリリアのそばで本を読んで温かいベッドで、安全な場所で、眠りたい。
左手で震える体をかき抱く。
息が荒い。体が限界だ。もう休みたい。
きつく目を閉じると、リリアの姿が浮かんだ。
だから、立ち上がる。もう少しだけ、がんばる。
後ろから、ユーリがおっかなびっくり近づいてきた。
「あ、アルフレッドくんー? だい、じょうぶ? なわけないよね……」
呼吸に意識を集中していると、少しずつ冷静さが戻ってくる。痛みも壊れた体も、レイヤー一枚隔てた向こうに遠ざかる。
視界が不気味なほど鮮明になり、自身を俯瞰しているような錯覚に陥る。
意識が、凪ぐ。
「ああ、大丈夫だ」
「だい、じょうぶなんだ……えっと、どうしたらいい?」
アルフレッドは出口に向かって歩き出すのと同時、扉が開いた。
ホムンクルスの一団がいた。




