柔法と爆弾
ユーリは爆薬の材料を手に戻ってくる。
「屋敷の図面もあったよ」
羊皮紙の巻物を床に広げ、あぐらをかいて調合をはじめる。
アルフレッドは図面に目を落とした。
「爆薬ができ次第、ここを出て二手に別れる。リリアがワインセラーへ突入。俺らは爆薬を仕掛けてパーティ会場の壁を破壊、下のやつらを逃がしつつ、敵の布陣を崩す」
「え!? 別れるんですか!?」
「一か所だけ攻撃しても守りを固められる。複雑な局面を作ったほうが寡兵には有利だ。それに、俺らがいたところで足手まといだからな」
「ええー……。私らのところに敵が来たら?」
「がんばれ」
「根性論!? それでも魔道学園のエリートか!!?」
「そうだ。さっさと支度しろ。下の制圧が終わればこっちにも来る。じっとしててもジリ貧だ」
「うええ……やだよお……死にたくないよお。恋人欲しかったよー……」
逃げ道を塞がれ、ユーリは泣きべそかきながら手を動かす。
アルフレッドはリリアに視線を向けた。
「で、俺らのルートだが」
「西側の廊下が守りが薄いですね。3人。身体能力特化型もいません」
リリアが断定すると、ユーリが顔をあげた。
「え、なんでそんなのわかるの?」
「足音を聞けば、重心の置き方やリズムで」
「それもう魔術越えてるね。リリアさんって何者?」
「しがないメイドです。アルフレッドさま、これを」
リリアは細長い鉄の塊を渡す。
「文鎮?」
「手ごろな重さです。先も尖ってますし。使い方はわかりますね?」
「ああ、なるほど」
アルフレッドは右手で文鎮を握り、軽く振るって重さを確かめる。
文鎮が何になるのか、ユーリにはさっぱり理解できない。
だがもう聞くのも面倒なので、言われたことに黙って従うことにする。
粛々と作業を進め、いくつかの爆弾が完成した。
「ではアルフレッドさま。ご武運を」
リリアはアルフレッドの頭をひとなで、部屋を出ていく。
アルフレッドはわずかに頬を赤くした。それを隠しながらユーリに指示を出す。
「俺らも行くぞ」
「私、やっぱここで隠れてていい?」
「敵が来たら逃げ場がないが。まあ、好きにしろ」
「ついていかせていただきます。はい」
二人は部屋を出る。物陰に隠れながら廊下を進むと、ホムンクルスがいた。
約20歩の距離。窓際から外を見ている。
(……動きそうにないな。くそ)
背中ではユーリが息を殺している。
振り向き、人差し指を立て、ユーリと、ついで床を指す。
(お前はここにいろ)
(……床に爆弾仕掛けろ? いや、私死ぬくない?)
ユーリが迷っていると、アルフレッドが走り出した。
ホムンクルスが気づく。
「お前、魔術師か!」
そう言って、瞬間には距離を詰めてきた。拳を固める。
速い。目で追えるぎりぎりの速度。
アルフレッドの脳裏に走馬灯がよぎる。
リリアに教わった時間を、一瞬で再体験する。
ホムンクルスは床に足をつけるや、腰をひねる。右肩がわずかにこわばる。視線はアルフレッドの首元。
アルフレッドは首をかがめ、拳をよける。
パンチを出したことで、ホムンクルスの体重は右足に乗っている。その膝を踏み潰すように蹴った。
「ちっ」
ホムンクルスは舌打ちし、左のフックを出す。
アルフレッドはそれをよけると、壁にあたった。大理石の壁にひびが入る。
当たれば即死。
沸き起こる恐怖心を抑え込み、敵の動きに集中する。
拳が壁にめり込んだことで、次の動作が一瞬遅れた。
アルフレッドは敵の左手をくぐって外に出る。ウェイトを仕込んだ右手で、敵のこめかみに鉄槌打ちを入れた。
尖った文鎮の先端が、こめかみにめり込む。
「あがっ!?」
ホムンクルスは血を流しながらも、いっそう目をぎらつかせて闘志をたぎらせる。態勢を立て直しつつ右のストレート。
アルフレッドは敵の腕にそっと右手を添えた。わずかに体重を下げつつ威力を受け、受けた手で螺旋を描いて外へ流す。
ホムンクルスは自分の力で重心を崩し、たたらを踏む。
その刹那、人中にウェイトの先端を叩きこんだ。
ホムンクルスは血を噴き出し、白目をむいて倒れる。
力無く投げ出された足を蹴る。反応はない。気絶したようだ。
ほっと一息つくと同時に、アドレナリンが切れて右手が痛み出した。
見れば、敵の攻撃を受けた部分が赤黒く腫れている。
「まあ、習いたての柔法じゃこんなもんか」
速く先へ進もう。ユーリを呼ぼうと振り向いたときだ。
ユーリが爆弾を作動させていた。
アルフレッドのほうへ走ってくる。その背後で爆発。
「って、ちょ、おま、えええ!? なにやってんの!?」
「言われた通りやったよ!」
「言ってねえよ!! いや、えええ!?」
頭を抱える。
廊下の先から足音が近づいてきた。
「なんだ!? なんの爆発だ!」
敵の声。しかも複数いる。
「ああ、くそ!」
「わ、きゃあ!」
アルフレッドはユーリを抱きかかえる。
そして、爆発でできた穴に飛び込んだ




