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魔術師たちよ  作者: 八神あき
二幕 ショルツ邸にて
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リリア・シュディック

 時をさかのぼり、テロ発生直後。

 ショルツ家の無人部屋で、アルフレッド、リリア、ユーリは身を潜めていた。


 階下のパーティホールは阿鼻叫喚の地獄絵図。


「ど、どどどどどうしましょう!? ていうかこれ、どうなってるの!!?」

 ユーリは顔を真っ青にしている。普段は商館のお偉いさんらしくしているが、今は見る影もない。

「魔術師支配に不満の強いホムンクルスたちの蜂起だろう。ここには王侯貴族がそろってたからな」

「ずいぶん冷静だな、君は!」

 叫んだが、よく見るとリリアの手を握っていた。やせ我慢だろう。


 アルフレッドが不安に陥るのも当然だ。

 魔術師は魔術を使えるがゆえに力を持つ。

 魔術を使えない人間を支配し、強者としてふるまえる。

 そんな彼らが、力の根源を失ったのだから。


 ユーリもまた、不安を押し殺す。

「て、テロだとして……魔法が使えないのは?」

「魔素パルスだ」

「なにそれ?」

「俺もマイナーな論文で一度見ただけだ」

「そんなのよく覚えてたね」

「…………魔力譲渡の実験の際、魔界から魔力をくみ取ったんだが」

「けっこうクレイジーなことしてんね」

「何度か失敗してな。ゲートから出てくる魔力量が多すぎると術式が破壊される。系統外魔法の術式破壊と原理は同じだが。それを高出力でやってるんだろう」

「いや、それだとゲートも維持できないよね?」

「外から来る魔素の波を、術式の表面で断絶してるんだろうな」

「それだと術式の内部に動力用の魔力を内蔵しなきゃいけないじゃん。そんなことしたら全体の構造が狂って複雑な術はできないし、長時間稼働させられないでしょ?」

「さあな。そこまではわからん。ただ、現象としては単純だし、発生源はパルスの中心だ。そこに行けばわかる。屋敷の中心あたりに、守りが固そうな場所はあるか? 部屋でも倉庫でもいい」

「ああ、屋敷の構造知ってるかってそういう……あるね、地下にワインセラーが。平面座標で見たときはちょうど屋敷の中心部と重なるし、地下への階段から一本道」

「じゃあそこだな。どのくらいの人数でこもれる?」

「廊下と部屋含めても30人が限界じゃないかな? ワインセラーの中のもの全部だしても……百人は入らないでしょ」

「百人いたら地上部隊を増やす」


 必要な情報は集まった。アルフレッドは策を練る。

 リリアはアルフレッドの様子を黙ってみていた。どんな答えを出すのか楽しみにしているようにも見える。

(そういえば、リリアさん一番冷静だな。ホムンクルスの自分は殺されないから? いや、魔術師サイドにいる時点で敵認定されると思うけど……)


「実験室」

「え、実験室?」

「ショルツ家は魔道具生産の大手だ。研究室のひとつくらいあるだろう?」

「ちょうど隣の部屋だよ。ほら、そこの扉から直通」

「ちょっと行って爆発物作ってこい。できるだろ?」

「ええ!? ひとりで!?」

「こっちも準備がある」


 アルフレッドはそういうが、怖いものは怖い。

 どう言い訳しようか悩んでいると、リリアがにっこりと微笑んだ。

「大丈夫です。隣は無人ですから。近くに敵が来ればわかりますので」

「え、探知魔法使えなんじゃ?」

「普通に耳で」

「耳?」


 ユーリはあっけにとられる。

「耳って……え、いや、信用できます?」

 ホムンクルスは五感もすぐれていると聞くが、にわかには信じられなかった。

「安心しろ。昔、幻覚魔法使って奇襲したことあるんだが」

「仲悪いの?」

「返り討ちにされた」

「…………信じます」

 これ以上争っても無駄だと悟り、ユーリは扉の奥へ消えていった。


 ユーリがいなくなった途端、アルフレッドはリリアに抱き着いた。

 目をつぶり、リリアの体で耳を塞ぎ、強く抱き着く。

「よしよし。かわいいですね」

 リリアが頭をなでても、いつもの憎まれ口が帰ってこない。


 それはそうだろう。

 今までの戦闘は仮想空間内でのこと。怪我もしなければ死ぬこともない。

 はじめての実戦。

 しかも、魔法が使えない。運が悪ければ即死もあり得る。


「……世界一の魔術師になる」

「存じております」

「あのクソみってな家ぶっ潰してやる」

「はい、もちろんです」


 アルフレッドはリリアを見上げる。

「まだ死ねん」

「私より早く死んだらダメです。メイド不孝ですよ」

「お前いくつだっけ?」

「シュディック家は戦闘特化型ホムンクルス。戦闘に適した肉体年齢の期間が長いんです」

「それ、何度聞いても胡散臭いな」

 だが実際、リリアは会ったときから姿かたちが変わっていない。二十代前半の見た目のままだ。


「……おばあちゃん」

「お姉ちゃんと呼んでください」

「ぜってえ嫌だ」

 不機嫌に鼻を鳴らす。


 リリアは膝まづき、主人の手をとった。

 一変して厳かな雰囲気をまとう。


「死を(けみ)してなお、永久に変わらぬ忠誠を、あなただけに」


 リリアの手から、じんわりと熱が広がってくる。

 誓いの言葉が脳裏を反芻し、染みわたる。恐怖も不安も雑念も、消えていく。


「準備できましたか?」

「…………ああ、万端だよ」

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