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魔術師たちよ  作者: 八神あき
二幕 ショルツ邸にて
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送還の魔法

 ダンは岩を砕き、槍を作る。

「意外と器用ね」

「僕だって魔術師だからね。そっちの準備は?」


 ルウは結界で学園一帯を覆い、中を調べていた。

 通常の探知魔法よりも精度は高いが、大量の魔力を消費する。

「上々よ。ただ、これで魔力も脳みそも使えなくなるから、ぜっっっったいに敵はこっちによこさないでね」

「約束しよう」

「あー、もう、ほんとしんどい! おりゃ!!」

 ルウはもうひとつ結界を張る。細長い管状の結界だ。

 ダンのいる位置から学園中心部の真上まで続いている。槍の通り道だ。


「あれの範囲内に入ると結界も破れるのかい?」

「ええ。けど、魔道具自体に強度はないでしょうから、真上まで誘導できればあとは大丈夫よ」


 ダンは肩回りをストレッチし、槍を構える。結界の起点に槍を合わせた。

 そして、全力の投擲。

 全身の筋肉を使い槍を加速し、投げた。


 衝撃波が木々を揺らす。槍の先端が空気を押しつぶし、プラズマが発生。白い光を帯びる。

 光の槍は結界の中を滑り、目標の真上まで来た。結界の端点を通りぬけ、重力さえも味方につけて地上へと落ちる。


 槍は学園の中心にある塔を貫き、破壊し、地下まで到達。

 設置されていた魔道具を破壊した。


 術式を阻害する魔力の爆発が消える。


 その瞬間、ルウは結界内のすべてを知覚する。

「うっ、なに、これ……!」

 さっきまでは、疲弊はしていても笑える余裕があった。

 その余裕が消える。


 学園の中は、地獄だった。

 魔法を使えない生徒はホムンクルスの敵ではない。一方的な殺戮になる。

 内臓を飛び散らす死体。首を刎ねられた死体。瓦礫の下で圧死する死体。


 2208の死体と、394の生き残りと、265のホムンクルス。

 すべての情報が脳に注ぎ込まれる。


 同時に、ダンもそれを知覚した。テレパシーを応用し、知覚を共有していたからだ。


「これは……ひどいな」

「お……うええ……っ」

 ルウは内容物のない胃液を吐き出す。魔力は突き、頭も回らない。

「よくがんばった。あとは休んでいてくれ。……敵はひとりも近づかせない」

 ダンは、走り出す。


 城壁を破壊し、中へ。目の前に出てきたホムンクルスを殴った。頭部は吹っ飛んでいく。

 瞬きするほどの時間で、城壁の前にいたホムンクルス4人を肉塊に変えた。


(君たちにも事情はあるのだろうか……加減する余裕はないっ!)


 ダンは止まることなく次の敵へと向かった。


ーーーーーーーーーー


 ファナは激しい痛みで目を覚ました。

 記憶が曖昧だ。今どこにいるのかわからない。


 何をしていたのか、必死に思い出そうとする。

 学園を出て、父に殺されそうになって、そして……。


 殺した。悪魔に身をゆだね、父を殺した。この手で、この体で。

 その先はわからない。完全に意識を乗っ取られた。

 なら、なぜ今自分は起きている?


 だんだんと体の感覚が蘇ってくる。

 固い床に寝ている。ごろごろした石が背中に突き刺さっている。そして、声が聞こえる。

「……いっ! …先輩!」

「………………く、れあ……?」

 声の主は、クレアだった。泣きながらファナの体を揺すっている。


「なん、ですの? なぜ、泣いてますの?」

「だって……だって、先輩が、ファナ先輩、怪我だらけで、急に壁壊して飛んでくるし。魔法が使えなくなって、みんな殺されて……私、ホムンクルスだからって言われて、ここに閉じ込められて」

「よくわかりませんが。……つらかったのね」

 頭をなでる。クレアは驚いてファナの手を取り、強く握った。


「でも、それよりファナ先輩こそ、どうしたんですか?」

「魔術の進歩に伴う痛みですわ」

「危険な実験ダメって言ったじゃないですか」

「そう、ですわね……ごめんなさい。……私にも事情がったのよ」

「じゃあ教えてくださいよ! そしたら一緒に考えました。ファナ先輩もアルフレッド君もリサも、なんでみんな大事なことは言わないんですか!? プライド高い人の気持ちって、わかんないです……」

「怖いのよ。弱みを見せるのが。……つけこむ隙を狙う人ばかりだったから」

 自嘲して笑うファナを、抱きしめた。


「なんでみんなそんな生き方ばっかり……いいじゃないですか、サボっても。弱くても。それで憎んだりしません」

「ええ、そうね。……その通りよ。バカなのよ、私も、アルフレッドも。賢いのはあなただけね」

「急に褒めないでください……」

「今私、珍しく弱気ですの」

「見ればわかります」

「ねえ、クレア。……私ね」


 ファナが言いよどんだ直後、轟音が鳴り響いた。

 隕石でも落ちたような衝撃。建物が震える。

「え!? な、なにこれ!?」

 クレアはファナを守るように抱きしめる。


「っああ!」

「あ、ご、ごめんなさい! 痛かったですか!?」

 ファナが苦悶の叫びをあげる。首を振り、クレアを突き飛ばした。

「……逃げて! 離れて、お願い!」

「どうしたんですか!?」

「あいつよ、またあいつが、目覚めた……! 離れろ!!」


 暴れるファナを抱きしめる。

 細い腕に力を込めて、必死に抑え込む。

「なにが起きてるのかわかりません、けど! 離れたくないです! ひとりにしたくない! 今までずっとひとりだったんでしょう!?」

 ファナの意識がかき乱される。


 名門貴族に生まれ、幼いころから競争にさらされてきた。

 落ちこぼれが詰め込まれた小屋を見せられ、恐怖を植え付けられた。

 親に、家に見放されるのが怖くて、ずっと努力してきた。他人を蹴落とすこともいとわずに。


 なのにクレアは泣いてくれる。こんな自分のために、悲しんでくれる。


 ファナの感傷などおかまいなしに、悪魔は息を吹き返し、ファナの心を深海へと引き込んでいく。


 ファナは、送還の呪文を唱えた。悪魔を魔界へと強制的に帰す呪文。

 悪魔が抵抗し、ファナの意識を奪おうとする。


 消えかかる意識を、クレアの声が、抱きしめられる感覚が、繋いでくれる。


 呪文を唱えるにつれ、怖くなってきた。

 悪魔を追い出せば、魔力も失う。自分の魔力を捨てた以上、もう二度と魔法は使えない。

 魔法を捨てる。それは、今までの自分すべてを捨てることだ。


 けれど、呪文を唱え続ける。

 今までの全部より、大事なものができてしまったから。

 これさえあれば他には何もいらないと思ってしまったから。


 最後の一節が終わる。

 悪魔がファナの体にしがみつこうとするが、悪あがきにすぎない。魔界から伸びた腕が悪魔を連れ去っていく。


 頬に一筋の涙が伝う。

「……クレア、大好き」

 気力の糸が切れ、意識を失った。

 後悔はなかった。

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