結界魔法
残念なのはダンの手の内が割れていることだ。
身体強化だけ。なら、地面との摩擦を奪えば何もできない。
レブルットは重力を消し、顔面に膝蹴りが叩き込まれた。
頭蓋が割れ、眼球が飛び出し、脳が半壊する。
(何が起きた!?)
たしかに重力は奪ったはず。しかしダンは大地を走り、攻撃を続けている。
(魔法が発動していない? ……そうか、この結界か)
街を囲んでいた結界に付与された効果だろう。
結界魔法は、現代魔術理論に組み込まれていない異端の術。使える術師は限られている。しかもこれだけ高度なものとなると、学園にはひとりだけ。
(ルウ・ルグランか。……なるほど、結界で重力操作を禁じ、ダンで仕留める。手強いな)
思わず笑みが溢れる。強敵の出現に心が浮き立つ。これなら自分の可能性を最大まで試せる。
本来、魔力生命体はそれぞれが持つ固有魔法しか使えない。
だが今は、ファナの脳がある。魔導学園でトップクラスの魔術師の脳。
瓦礫をダンにぶつけた。直後に足元を凹ませた。一瞬バランスを崩し、隙ができる。
空間に裂け目。魔界から二体の龍が飛び出し、ダンに喰らいついた。
学園最速の召喚術師であるファナ。さらに生体術式に組み込まれた魔界との接点を利用することで、発動速度を極限まで縮める。
ダンが龍を相手取っている隙に空へ舞い上がった。
龍を引き裂いたダンが狙いを定め、ジャンプした。あっという間に距離は縮まるも、二人の間に黒い壁が割って入る。
ダンは着地し、新たな敵を見据えた。
変幻自在の悪魔、ルドルグだ。
「見覚えがあるだろう?」
かつてダンはルドルグを操るアルフレッドと戦い、敗れている。
だがそれはアルフレッドとのコンビネーションありき。ルドルグ単体でダンを殺すことはできない。
ルドルグを出した目的はダンを殺すことではなく、足どめ。
再びの召喚魔法。自身と同じサイコキネシスを使う悪魔を二体召喚する。
レブルットは使い魔とともにサイコキネシスを発動させた。相乗効果によって強化された力で、一帯の瓦礫を操って巨大な竜巻を起こす。
無数の瓦礫はぶつかり合って砕け散り、人間の死体とも混じり合って醜く染まる。
視界は灰色に染まり、轟音が世界を支配する。
レブルットは操る物体越しに、触覚によって世界を見る。
荒れ狂う瓦礫、ダンとルドルグが戦っている。だが、見たいのはそれじゃない。
竜巻の範囲を広げる。街の全域を満たした時、見つけた。
何もないはずの空間が、瓦礫を跳ね除けている。
「やはり街を覆う結界と同質のものに守られていたか」
結界は、魔力探知には完璧なステルス性能を持つ。しかし、物質には干渉する。
これだけ高度な結界だ。維持するためには術者は必ず内側にいる。
これで位置は割れた。
「さて、ここからだな」
レブルットは遠隔で召喚魔法の基点を設定。魔界との界面で、結界に守られたルウ・ルグランを包んだ。
召喚のプロセスを逆転させる。彼方から此方ではなく、此方から彼方へ。ルウを包む結界を、魔界へと送った。
魔界とは完成した世界。一切の秩序が失われ、何事も起こらない世界。
そこに人間が行けばどうなるのかは知らない。自我が崩壊するのか、肉体が崩れ去るのか。その過程はどうあれ、結果としては死と同じ。
街を覆っていた結界が消失する。
「ははっ。はじめての試みというのにこうもうまくいくとは。優秀だな、この脳は」
竜巻を消すと、ダンがルドルグを仕留めたところだった。流動的な肉体を持つルドルグに打撃が通ったのは意味がわらかないが、ファナの記憶を通してダンが「鍛えた筋肉に不可能はない」と叫んでいる。本当に意味がわからない。
「だが、これで終わりだな」
重力を消失させる。ダンの体が浮かぶ。こうなれば赤子も同然。
「なんとかしてみろ、肉の男」
もはや飛ぶ意味もない。地面に降り立ち、留めを刺すための悪魔を召喚する。
魔界への扉が開き、炎の悪魔を呼び出す。
それと同時に、ダンが地面に着地。
「は?」
そして、音速のタックルが繰り出された。




