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魔術師たちよ  作者: 八神あき
二幕 ショルツ邸にて
45/68

意地

 リサが稼げた時間は微々たるものだった。

 数人が逃げたところで、後ろからホムンクルスに頭を殴られた。


 脳が揺れ、立てなくなる。ろくに動けない。

 殺される。そのことに大した感慨はなかった。なんせ一度死んでいるのだ。


 リサは担がれ、部屋の中央に投げ出される。

 倒れて動けないリサの前に、だれかがやってきた。

 揺らぐ視界の中、足もとだけが見える。

「大丈夫?」

 聞いたことのある声。


 声の主は膝をつき、リサを抱き起した。

「……ノン?」

「そうだよ。驚いた?」

 赤毛のサイドテール、小さな体。

 魔道学園に在籍する、数少ないホムンクルスのひとり。

「……殺さないの?」

「うーん……そりゃ、リサが魔術師サイドにいると大戦力だけどさ。うちに来てくれるなら大歓迎」

「あたし、ホムンクルスじゃないよ」

「知ってる。けどこの世界の人間でもないでしょ。ぜひ仲間に欲しいなーって。個人的にもリサのことは好きだし」

「あたしもノンのことは好きだよ……。けど、仲間になるのは無理かな」

「じゃあ殺さなきゃいけないかも」

 リサは肩をすくめ、目を閉じる。


 無抵抗な姿を見て、ノンはわずかに戸惑う。

 しかし感情を押し殺し、短剣を抜いた。

「……デート、楽しかったよ」


 そのとき、爆音とともに壁が崩れた。

 漆喰が飛び散り、煙で周囲が見えなくなる。煙が晴れると、ぼっかりと穴。しかも廊下を挟んだ向かいの壁も壊れており、そのまま外へ続いている。

「や、やった! 逃げられる、逃げられるぞ!!」

 だれかが叫んだ。それを合図に、生き残っていた人たちが壁に向かって殺到する。


 ホムンクルスたちはそれを追った。それを見て、ノンが新たな指示を飛ばす。

「テッド、バラグス、穴を守れ! ほかの入口はすべてひとりでいい。魔術師を殺すことより配置を取り直すことを優先しろ! リュディ、グロスは廊下に出て偵察を!」

 それまで逃げる人々を追っていたホムンクルスは動きをとめ、ノンの指示に従う。


 リサはようやく焦点が定まって来た。ノンの注意が別のところを向いているのを確かめる。

 走るのは無理そうだが、ゆっくりなら動ける。


 思ったより回復が早い。脳震盪の症状は続いているが、それにしては体が軽い。

 もしかしてと思い、手のひらに魔力を集める。小さな炎が灯った。


 魔法が使える。


 紅の閃光が、逃げ道を塞いでいたホムンクルスを撃ち抜く。もうひとりに狙いを定めたとき、ノンが割って入った。

 リサの動きがとまる。

「無理しないほうがいいよ。魔法じゃ脳震盪は治らないでしょ?」

 それから、ホムンクルスたちに向きなおる。

「作戦の続行要件が崩れた。引き上げるぞ」

 ホムンクルスたちはそれぞれ近くの扉から離脱。


 ノンはリサのもとに戻る。リサは身構えるも、まだうまく動けない。かといって魔法では加減が難しい。

 リサが動けないでいると、額にキスされた。意味がわからず、ノンを見上げる。

「学園に潜入するとか、クソだるいって思ってたけどさー……。リサと会ってからは楽しかったよ。……じゃあね」

 そして、仲間たちのあとを追った。


 ノンの無防備な背中。リサに攻撃される可能性など考えてもいない。

「あー、もー……くそ、あたし弱すぎでしょ……!」

 無力感に襲われる。


 圧倒的な魔力など持ったところで、所詮は与えられた力。自分自身は何も成長していない。

 リサは四肢に力を込め、立ち上がる。まだ平衡感覚はおかしいまま。吐き気もする。

 格闘技をやっていた身だ。今動けば危ないことくらいわかる。


 それでもリサは踏み出す。もう見えなくなったノンの後ろ姿を睨み、前へ。

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