悪魔
倒壊した屋敷の上、ファナは使い魔とともに立っていた。
破壊された屋敷のあちこちに気絶した人間が転がっている。逃げ遅れたドゥーラン家の魔術師や使用人たちだ。
ファナの眼前にはラドルフが倒れていた。あちこちから出血し、皮膚の一部は黒焦げになっている。
「疲れ……ましたわ……」
すべての敵を倒し、ファナは膝をついた。息が荒い。
戦いの途中で制御のコツを掴んだおかげで、悪魔の声はやんでいる。
使い魔を魔界に返し、身の内にある悪魔に再び封印を施した。コツを掴んだとはいえ、油断すればまた体を奪おうとしてくるだろう。力を解放するのは戦うときだけでいい。
緊張が緩み、がくりと頭を落とす。
少し休もうと、目をつぶった。
胸に痛み。
ラドルフが、手刀でファナの心臓を貫いていた。
ずるりと腕を抜く。ファナは倒れ、喀血。ラドルフを見上げた。
満身創痍だが瞳は爛々と輝き、戦意を失っていない。
「おとう、さま……?」
「甘いな。しょせん子供か」
ファナの頭を蹴り飛ばす。
ファナの首がありえない方向にねじ曲がり、地面を転がっていった。
「まったく、派手に壊してくれたな」
瓦礫の山と、気絶した使用人たちを見まわす。
修復に取り掛かろうとしたときだ。
死んだはずのファナの体が動いた。胸の穴から血を噴き出し、ねじくれた頭のまま、ぎょろりとラドルフを見る。
「しぶといっ!」
今度こそ殺そうと足を踏み出すも、強い重力に押しつぶされた。
動くこともできず、地面にのめりこむ。
ファナが、ねじくれた首を力ずくでもとに戻した。胸の傷が見る間にふさがっていく。
「あ、あはは、あははは!! いい、素晴らしい! これが人間の脳! 素晴らしい汎用性だ!」
その表情は、ファナとは似ても似つかない、邪悪なもの。
「お前らがどうして世界を秩序づけようとするのか不思議だった。しかし、たしかにこの方が力を応用しやすい。私の力で、よもや重さを操ることができようとは」
話しながら魔法の出力を上げていく。
ラドルフの身体強化にも限界はある。肺は押しつぶされて破裂し、頭蓋はギリギリと軋みを立てる。
痛みに堪えながら、ラドルフはファナに宿る何かを睨んだ。
「お前は……なんだ」
「私か? なんだろうな、この娘の記憶にある言葉を使うなら……悪魔、といったところか」
そう言って笑い、出力を最大にした。
ラドルフの体が圧し潰され、血肉が散乱する。
それに興味を示さず、悪魔は屋敷を囲む結界を見た。
「複雑だな。面倒そうだ」
舌打ち。感情表現の様式は宿る肉体に依存しているようだ。
レベル11の上級悪魔、レブルットは結界の解体に取り掛かった。




