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魔術師たちよ  作者: 八神あき
二幕 ショルツ邸にて
39/68

ドゥーラン家

 ファナはひとり、馬車に揺られていた。

 革張りのソファに身を沈める。窓から見る外は雨。


 今頃、クレアは学園で試験を受けていることだろう。


 車体を引いているのはレベル3の下級悪魔。ファナ自身が召喚したため御者はおらず、警備の人間もいない。

 周囲は飛行型の悪魔三体に哨戒させている。知覚能力に特化した悪魔も見張りにつけているので、人間に守らせるよりはるかに安全だ。


 なのにどうしてか、ファナの心は晴れなかった。


ーーーーーーーーー


 雨の向こうに巨大な屋敷が聳え立つ。

 二重の結界、無数の悪魔に守られた孤城。

 レベルの高い魔術師を多く輩出し、王家すら容易には手出しできない存在。


 ドゥーラン家の人間はほとんどが王立魔導学園に通い、そのほとんどが一位に君臨していた。

 もっとも、一位になれるのはその期にエザルカがいなければの話。


 だからファナは二位で満足していたし、家から咎められることもなかった。ニーナ・エザルカさえ卒業すれば一位は再びドゥーラン家のものとなる。

 しかし、ファナは失墜した。二位どころか、上位生の地位さえ失った。


 落ちこぼれとなったファナの目には、屋敷の門が断頭台に見えてしまう。


 ファナは建物の入り口で馬を止めた。車を降りる。


 ドゥーラン家の警備の厳重さは貴族の中でも頭抜けている。

 十年前、ドゥーラン家は何者かの襲撃を受けた。強力な爆発で屋敷の一部を破壊されたのだ。

 魔力の残滓は残っておらず、犯人は不明のまま。


 この事件は、魔術の名家を任ずるドゥーラン家に泥を塗った。

 以後、ドゥーラン家は結界魔術と悪魔を併用した警備体制をとるようになる。

「警備にどれだけ魔力を使うつもりなのかしら」

 ふと疑問に思う。


 大規模な結界に、多数の悪魔の使役。

 それだけの魔力をひとりで賄える人間がいるとすれば、リサくらいのものだろう。おそらくは数十人単位の人間で術式を維持している。

「……いえ、どうでもいいことですわね」

 首をふり、玄関を跨いだ。使用人に導かれ、当主の書斎へ向かう。


 書斎へと続く廊下は長く、薄暗い。

 一歩進むたび、足が重くなる。

 使用人の足が止まった。扉の横でファナに向き直り、一礼する。

「……下がっていいですわ」

 深呼吸してから、ノックする。

「お父様。ファナですわ」

 瞬間、魔力の流れ。鍵が開く。

 中に入った。

 さほど広い部屋でもない。壁際には蔵書が並び、窓際に机がひとつ。そこに初老の男性が座っていた。


 ラドルフ・ドゥーラン。ファナの父であり、アルフレッドの叔父でもある、ドゥーラン家の当主。

 在学中、三年間序列一位を保持した天才。魔力量のレベルは最高位の15。


 ファナは息を呑む。体に緊張が走り、手のひらが汗ばんだ。

「お、お久しぶり、ですわ。おとうさ」

 ファナの挨拶を手で制す。

「言い訳をしたまえ、我が娘よ」

「あ、あの……。少々、諍いを起こしまして。その罰として、減点されましたわ。けっして実力を落としたわけでは」

「そうか、では今でもエザルカに次ぐ力を持っていると」

 ラドルフの口調はあくまで穏やか。話しているうちに緊張感も和らいできた。

 ファナはうなずく。

「もちろんですわ」

「そうか」

 刹那、魔力の反応。

「では証明したまえ」


 ファナが答えるより早く、術式の行使は終わっていた。

 ファナは水中にいた。息ができない。


 悪魔だ、少なくともレベル12以上の、上級悪魔。

 いつ召喚を終えたのか、ファナには見ることすらできなかった。術式の発動速度が桁違いだ。


 ラドルフは椅子に腰かけたままファナを見やる。

「どうした、遠慮はいらない。反撃したまえ」

 ファナもまた、馴染みの悪魔を召喚するため術を構築する。


 手のひらの上で魔力を練り、魔導言語を描く。

 ぱりん、と術が砕けた。


 ファナは父の顔を見る。遠隔の術式破壊。

「まさか、これで精一杯というわけではないだろう。んん? まだ父に対して遠慮があるのか? 全力で抗ってみたまえ。それともなにか、この程度なのか?」

 冷笑。娘に対して軽蔑しきった表情を向ける。

「大した実力だな」

 実力、その言葉を強調し、鼻で笑った。

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