パーティへ
出発当日の朝、リサの属する中隊は校門前の広場に集合していた。
鉄製の門は朝日を浴びて輝き、煉瓦を敷き詰めた地面に馬車が並んでいる。
馬車は七両。先頭から騎士団の乗る馬車。二両目から五両目までが招待された生徒らの乗る馬車が三台。次に食料などを乗せる輜重車。最後にまた、騎士団の車だ。
リサが乗るのは先頭。
リサは一般生徒を誘導する係にあたっていた。出発時刻が近づくと、ぽつりぽつりと生徒らがやってくる。一人ずつ名簿と照らし合わせ、馬車に乗せていく。
出発五分前。
前の馬車二両は埋まり、残るは一両。
贅沢なことに、この一両にはひとりしか乗らない。
どんなクソ野郎だと、名簿をめくったのと、その人物が現れたのは同時だった。
「アルくん?」
見慣れた生徒、アルフレッド・ドゥーランが、リリアとともに立っていた。ひとりではなく保護者同伴だった。
「しっかり守ってくれよ?」
「……守る必要ある?」
アルフレッドは鼻で笑い、馬車に乗り込んだ。
時計台の鐘が鳴り響き、門が開いた。
出発だ。
馬車の移動は一日半。夕方までに街を抜け、森の中で一拍。翌日の昼前に着く予定。
つつがなく初日の移動距離をこなし、街道からそれた空き地に馬車を並べる。今夜はここでビバークだ。
空き地の周囲は森で、人家などはない。
宿泊の準備も騎士団の仕事。輜重車から食料を下ろし、大鍋で調理。一般生徒らに配る。
配食を終え、ようやくリサは食事にありつけた。小麦で作った団子入りのスープと、チーズだけの簡素な食事を手に、手ごろな大きさの石に腰掛けた。
街道を眺めながらスープをすすっていると、隣にハルターが腰を下ろした。
「ひとりか?」
「まあね」
「……友達、いないのか?」
「やめて、哀れみの目で見ないで。せっかく都会離れたから自然見ようと思っただけだから」
リサがまくしたてると、ハルターは「そうか」とだけ言って食事を始める。団長だからといって特別なものはなく、リサたちと同じスープとチーズだけだ。
「招待組って、優秀なんだよね? あたしら守る必要ある?」
「研究者として優秀なのと、戦いが強いのは別だ。君だって、研究者としてはからきしだろう?」
「あたし、団長に赤点取った話したっけ?」
「言動でわかる。君は脳筋だろう」
「脳筋…いや、まあ、そうだけどさ。……団長って、たしか三位ですよね?」
「ああ、ファナが抜けたから、繰り上がりでな」
「アルくんより強いんですか?」
「いいや、負けるだろうな。直接戦ったことはないが。こと一対一の試合において、彼の強さは頭抜けている」
含みのある言い方に、リサは首を傾ける。
「アルフレッドくんと戦って、厄介なのはなんだ?」
「うーん……フィジカル? 手数の多さかな? 頭もいいし……」
「もし、アルフレッドくんが何かひとつ魔法を使えなくなるとすれば、何が一番弱体化する?」
「………………幻覚、かな?」
我が意を得たりと、ハルターはうなずく。
「脳筋だと言ったのは謝ろう」
「どうも。で、それがなんなの?」
「幻覚魔法についてどれくらい知ってる?」
「超むずいってことくらい。本物に見える幻覚を作るの自体難しいし、術式が複雑だから時間がかかる。普通は戦いながら使える魔法じゃない」
ハルターは頷き、地面に絵を描く。
「これが幻覚」
「……なんのモンスター?」
「人間のつもりだったんだが……まあいい。私が見ている場所から見るのと、君の場所から見るのとでは見え方が違うだろう?」
「そりゃ、多少はね」
「その多少が、幻覚魔法だと致命的だ。幻覚魔法は対象がひとりであることが前提。複数人の相手に同じ幻覚を見せることはできない」
「……だから一対一の試合なら強い?」
「もちろん、並の魔術師なら大人数でかかったところで返り討ちだろう。彼の体術は達人レベル。召喚魔法の発動速度もファナを除けば最速だ。けど、戦闘に特化した魔術師が三人もいれば殺すのはさほど難しくないよ」
そういうものだろうか。
リサは釈然としないが、武術に関して水掛け論をするつもりはない。何が正しいかなど実際に戦わないとわからないし、この手のことで言い合うとたいていろくなことにならない。
アルフレッドと戦ったのは入学してまもない頃。あれから一学期が過ぎ、夏休みも終わった。
あれからお互い成長している。特にアルフレッドは、ニーナの喉元に刃を突きつけられるほどに強くなった。
勝てるだろうか。
戦いたい。リサの腕がうずく。
次の試合は二学期の半ば。それまではお預けだ。




