招待状
夏休みは長い。その間に距離を縮められればいい。
最初こそ悠長に考えていたが、一週間も経つと焦りを感じてきた。
とはいえ、まだ20日以上ある。チャンスはあるはず。
残り20日、十分だ。
まだ二週間。なんとかなるだろう。
あと三日あればきっと。
そして、夏休みが終わった。
なんの収穫もなかった。むしろ前よりひどくなっている。
リサの顔を見るだけで顔が赤くなるし、意識しすぎて会話もぎこちない。体が触れるたびに驚いてしまうし、しまいには「変な薬でもやってる?」と心配される始末。
あのとき、思いを自覚して展望が開けた気がした。怖いけれど、どこへ進めばいいかはわかったから。
けれど今思えば、自覚したことがよくなかった。ハードルが二段も三段もあがってしまった。
学園の門をくぐり、寮に入るやベッドに飛び込んだ。意気地なしな自分へのやるせなさを、ため息とともに吐き出す。
「クレアー。あたし騎士団の説明行って来るね」
「……いってらっしゃい」
リサが出ていった途端、部屋が暗くなる。
寝そべっていると、ノックの音。
「…………だれ?」
重たい体を起こし、ドアを開けた。
教師が立っていた。
「あっ、こっ、こんにちは」
「クレスさん、今大丈夫?」
「は、はい!」
「そうですか。では、校長室まで来てください」
「……校長室、ですか?」
「はい」
教師は無表情でうなずいた。
――――――――――
革張りのソファーに身を沈める。
テーブルでは紅茶が湯気を登らせ、対面の椅子にはエルラン校長が座っていた。
「そんなに緊張しなくても」
「は、はい! すみまません!」
「さっそくなのだけれど、上位生になる意思はあるかしら」
「じょうい、せい……?」
なんのことかわからず、クレアはただその音の連なりを口にする。
アルフレッドの着ている黒いローブが頭に浮かび、ようやくその意味を思い出した。
「え、わた、わたしが、ですか!?」
「ええ」
エルランはうなずき、説明をはじめる。
二学期から評価方法が変わり、ホムンクルスはペーパー試験の比重が増えた。競技会の成果も採点が終わり、クレアが暫定十位となった。
序列は点数の順で決まる。しかし上位生だけは特別の試験を通過しなければならない。
試験は魔術試合とペーパー試験だが、クレアの場合、試合は免除。
「その分、試験の内容は難しくなりますが、どうしますか?」
反射的に断ろうとする。
けれど、ここでまた逃げたらいつまでも変われないままだ。
時間をかけ、ゆっくりとうなずく。
「よかった。それともうひとつ」
エルランは封筒をクレアに手渡す。
「これは?」
「招待状よ。あなたとアルフレッドに」
「招待状ですか……?」
封筒のあて名はクレアとアルフレッド。
裏返すと、送り主の名があった。
『子爵 ショルツ・フィン』
――――――――――
エザルカ家ある限り、イルセナが侵攻を受けることはない。
だが国内の治安維持には組織が必要だ。そのために二つの部隊がある。
ひとつは政府直轄の治安維持部隊。
もうひとつは魔道学園の生徒から成る騎士団。
校内の一室、団長が一年に対し騎士団について説明する。
団長の名はハルター・グライツ。三年の上位生だ。凛々しい顔立ちに金髪。細身だが引き締まり、身長も高い。腰には純白の剣を下げている。
「騎士団については以上だ。全員、自分の部隊はわかるか?」
騎士団は400人で、100人ずつの中隊に分かれている。リサは第一中隊。
「第一中隊の人間はさっそく仕事がある。来週行われる、ショルツ子爵主催で開かれるパーティの警備だ。そこで魔道研究についての発表があるのだが、うちの生徒が何人か招待を受けている。その警備にあたってもらう」
ショルツ子爵。
リサのフロッピーディスク並みの脳みそが遅い回転をはじめる。
(ショルツ、ショルツ……なんかどっかで……)
たっぷり五分も考え、団長が退出しようとしたときだ。
「ゴミカスクソ馬車野郎!」
思い出した勢いで口に出していた。
団長が振り返る。
「どうした、一年。やばい薬でもやってるのか?」
「それ部活でもよく言われた。けど大丈夫、風邪薬すら飲まないタイプだから」
「それは飲めよ」
リサは団長に名前を覚えられた一年生第一号となった。




