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魔術師たちよ  作者: 八神あき
二幕 ショルツ邸にて
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実家とプライド

 競技会が終わると、すぐに夏休みが始まる。

 みなが帰省していく中、クレアには帰る場所がなかった。こっちに来た時は神の恵みで住む場所があったのだが、どういうわけかその家は消えていた。

 仕方ないので、クレアの家に泊まることにした。


 街の外れ、ホムンクルスの住居区域。

 繁栄する街とは違う、見捨てられた場所。

 集合住宅地の中の、狭い部屋。二人は料理の並んだテーブルを挟んで座っていた。


「競技会と一学期お疲れアンド一番おめでとー。かんぱーい!」

「うん、ありがと」

 クレアは両手でグラスを持ち上げる。中には果汁を絞ったジュース。


「そういやクレア、お父さんとお母さんは? 挨拶しときたいんだけど」

「いないよ。入学したすぐあとに死んじゃったから」

「……あー、えっと。ごめん」

「いいよ、別に」


 言って、クレアはサラダに手を伸ばす。リサは肉にしか手をつけないので、サラダは綺麗に盛り付けられたまま。


「だからもう、ここも手放しちゃってもいいんだけどね。部屋持ってると補助金も減っちゃうし。寮のほうがずっと暮らしやすい。……けど育った場所だから」

「そりゃ、大事にした方がいいよ! 卒業したら住めるし。なんなら一緒に住もう!」

「い、一緒に?」

 クレアの声が上ずる。

「冗談。そんな嫌だった?」

「へ!? い、いや、別にそんなイヤというかむしろありがとうというか別に全然まったく嫌ではないんだけど」

 リサの顔を直視できず、視線をさまよわせた。


 リサが部屋に来ると決まったとき、期待と不安が爆発した。

 部屋は綺麗だったろうか、狭い家だと嫌がられないだろうか。

 そんなことで、リサは失望したりしないだろう。それでも不安は際限なく膨らんでいった。


 自分はおかしいと思う。これは友達を家に迎えるときの緊張具合じゃない。

 なぜこんなにも感情に抑えが効かなくなるのか。その答えが欲しい。


 見つかるだろうか、夏休みの間に。

 見つかったら、もっと仲良くなれるだろうか。

 期待と不安を抱えたまま、一日目の夜は更けていった。


――――――――――


 一方、学園に残る生徒も少数ながらいる。家が遠かったり、家庭の事情があったり、理由はさまざま。


 アルフレッドは仮想空間へのアクセスルームで、リサとニーナの試合を見ていた。

 後ろから湯気の立つティーカップが差し出される。口をつけると、アールグレイの香りが鼻の奥に届き、疲れが緩和した。


 壁に埋め込まれた無数の水晶板が、それぞれ違う情報を映している。

 中央のものは試合の映像。他は計器だ。仮想空間内の気温、総面積、始まってからの時間、使用された魔力量などなど。


 画面の中のリサが魔力を凝縮し、爆発させる。

 計器がうなりを上げた。

 温度、魔力量、面積。すべての基準が乱高下する。


 アルフレッドの視線は、ただひとつの数字に向いていた。

 質量だ。仮想世界の総質量を表す計器。本来なら増え続けるだけの数字。


 爆発の直後、数字が減った。

「……ちっ」

 理解できず、舌打ち。


「どうなさいましたか」

「一度生成された地形は消滅しない。増えた質量は減ることはない。どれだけ粉みじんに砕こうが燃やそうが、小さくなるだけで、消えるわけじゃないからな。……なのになんで減ってる?」

 アルフレッドは仮想世界へ続く水晶玉に手をかざす。

 考えるだけでは答えは出ない。実験だ。


 たとえ研究のためであろうと、夕食を抜くことは許されない。

 体作りに厳しいりリサにたしなめられ、アルフレッドは実験を中断。アクセスルームから居住スペースへ戻る。

 廊下には10個の部屋が序列順に並んでいる。

 一位、ニーナ・エザルカ。二位、ファナ・ドゥーラン。三位、ルウ・ルグラン。四位、ハルター・グライツ。五位……。


 アルフレッドは二位の部屋の前で歩みを緩めた。ネームプレートが外されている。


 リサとの大喧嘩による減点。

 競技会で一位になれば処分は取り消すことになっていたらしい。

 だが、ファナは負けた。


 鼻を鳴らす。

 通り過ぎようとしたとき、扉が開いた。

 周囲に荷物を浮かせたファナが出てくる。アルフレッドを見るや、目を見開いた。

「なんの用ですの?」

「ごきげんよう、伯母上。てっきり目が老いて人の姿が見えなくなったのかと思ってましたよ」

 ファナは舌打ち。普段は無視していたことを思い出す。

「黙りなさい、落ちこぼれが」

「落ちこぼれ?」

 アルフレッドはにたりと笑う。そして、ファナに近寄った。

「あなたも同じでしょう?」


 今、ファナの順位は61位。決して悪い数字ではない。

 一般的な基準なら、いい方だ。

 けれど、ドゥーラン家は名門で、ファナは天才で、アルフレッドは7位だった。


「では、また会うことがあれば」

 それだけ言い残し、アルフレッドは立ち去る。


 ファナは拳を震わせる。

 家に帰っていないのもそれが理由だ。会わせる顔がない。親からも失望され、兄弟や従兄弟たちからは見下される。自分がアルフレッドを見下してきたように。

 学園で築いた地位も、家の中での立場も、すべて失った。


 アルフレッドとクレアに負けた理由。それは安全性だと伝えられた。

 精神を乗っ取られることへの恐れ。悪魔を身に宿すことへの忌避感。


「…………なら、証明すればいいだけですわ」

ブクマ、いいね等ありがとうございます。励みになります。

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