あなたがかわいいと言ってくれるから
体育館の舞台裏、生徒たちの待機場所。
「気合が入ってることは伝わってくる」
開閉一番、アルフレッドはそう言った。
クレアは縮こまって顔を赤くする。
「あ。はい、……えーっと、着替えてきたほうがいいでしょうか?」
「好きにしろ」
アルフレッドは常の制服姿。黒いガウンのおかげで威厳はある。
「あら、いいドレスじゃない」
先日聞いたばかりの声。
ファナだ。彼女もこれから発表らしい。
アルフレッドは小さく舌打ち。ファナもアルフレッドのことは視界に入っていないふりをする。
「そ、そうですか?」
今、クレアが着ているのは藍色のドレス。リサの「かわいい」という声が一番大きかった一着だ。レースがないので、エザルカ家のドレスだと気づかれないのもポイント高い。
「ええ、これなら注目も惹けるでしょうね」
「ひ、ひけちゃいますか……」
引きたくなかった。ひっそりと生きていきたかった。発表会に出ている時点で、矛盾した思いではあるが。
話しているうちにトップバッターの発表が始まる。
観客たちは大半が生徒。だが外部から来たと思われる人間もいる。魔道具企業の関係者、政府の役人、有能な人材を探す貴族。学園外からの注目度は魔術試合よりも高い。
クレアが観客たちの顔を見ていると、ひとりめが終わっていた。話の内容はちっとも頭に残っていない。
二人目、三人目の発表が行われるも、頭に入って来ない。ただ無数の顔だけが脳裏を埋め尽くす。
肩を叩かれた。
「うひゃい!?」
「っどわー、びっくりした」
「びっくりしたのはこっち!」
忍び込んできたのだろう、リサが後ろに立っていた。クレアの姿を見るや満足気にうなずく。
「やっぱり綺麗だね」
「なっ!?」
顔が沸騰する。会場のざわめきは消え、リサの言葉だけが耳朶を支配する。
四人目の生徒が帰って来た。アルフレッドが腰を上げる。
「じゃ、がんばって。あとで打ち上げしよ」
リサに背中を押され、クレアは舞台に上がった。
真っ白い照明に照らされる。
観客たちの視線が体中を突き刺す。
リサの言葉が耳に残っている。それだけで気を失わずに済んだ。
けど、それだけだった。
気づいたら待機室のベンチに座っていた。
終わった、そのことはわかる。けど、発表しているときの記憶がない。時間が過ぎたという自覚はある。だがその間の記憶は白く塗りつぶされていた。
どうにか思い出そうと目をつぶる。台本通りに話せた、はず。
質疑応答のとき、アルフレッドが話しているのをさえぎって早口でまくしたてた記憶がある。いや、それも定かではない。頭の中で思ったことをしゃべったと勘違いしているだけかも。
現実だと確信が持てるのは、終わった後にアルフレッドが「寝る」と言って消えていったこと。
ぴたりと、首に冷たいものが振れた。
「うひゃい!?」
叫ぶと、くすくすと笑い声。
「ほんっと、いいリアクションするよね」
「ちょっと、リサ!」
「はい、お疲れ様。よかったよ」
持っていたグラスを差し出される。それを見て喉がからからになっていたことに気づく。冷たい水を飲むと、頭もはっきりしてきた。
頭をなでられた。
リサが慈しむように、クレアをなでていた。
「お疲れ様」
「…………うん」
クレアは幼子のようにうなずいた。




