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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
25/68

ドレス

 寮の自室、クレアは鏡の前に立っていた。手持ちの服を次から次へと体にあてる。


「たっだいまー! あー、食べすぎたー」

「おかえりー。食べすぎはいつもでしょ」


 突っ込んではみたが、リサは本当に朝見た時より太っていた。どれだけ食べれば一日で体形が変わるんだろう。


 リサはお腹を抱え、きょとんと首をかしげる。

「なにしてんの? 服?」

「うん。明日の発表で着る服。ちゃんとしたやつ探してた」

「ちゃんとした服かー…… ピアノの発表会みたいなやつ?」

 リサは床に散らばった服を適当に拾い、視界の中でクレアと重ねてみる。

「制服で行くのかと」

「そのつもりだったんだけど。……ドレスコードは大事かなって。アルフレッドくんにも恥かかせるかもしれないし」

「あー、ほうほう。なーるほ。たしかにねえ」

 リサは大仰にうなずいてみせる。胡乱な仕草だったが、クレアは服選びに必死で見ていなかった。


「アルくんは『服とかどうでもいい』とか言いそうだけどね」

「そうかな。貴族だし、気にすると思う」

「まあ、クレアが気になっちゃうのはわかるけど。……それにしてもクレア、制服以外の服少ないね」

「……制服とパジャマ以外の服って必要なの?」

「今度一緒に服買いに行こうか」

「リサ、お金持ってるの? 異世界のお金なんて使えないよ」

「いやー、試合すると稼げるとこがあるんですよ」

「それ非合法……どうせノンに教えてもらったんでしょ」

「え、ダメなやつ?」

 リサは問い返す。違法ギャンブルだという自覚はなかったらしい。

「夏休み前に騎士団の入団希望あるから、入ったら?」

「なにそれ」

「治安部隊。二学期から入れるの。お給料も出るよ」

「なにそれいいじゃん! って、そうじゃない、服だよ、服! フォーマルなやつなんてあたしも持ってないしなー。……あ、そうだ。ちょっと待ってて!」

 そう言って、部屋を飛び出す。


 クレアが呆気に取られていると、戻って来た。手には数着のドレス。

「え、これどうしたの?」

「借りた!」

 藍、緑、白、赤、色とりどりの生地がリサの両腕いっぱいに抱えられている。


 一着手に取った。なめらかな肌触り。レースの模様を見れば貴族のものだとすぐにわかる。

しかし、このパターンのレースには見覚えがある。最近見た? それともクレアでも知ってるくらい有名な……。

「って、エザルカ家!?」

「そうそう。ニーナさんから借りた。友達が発表会出るからーって」

「いや、待って待って待って、私が着れるわけないよね? エザルカ家だよ? 公爵家だよ?」

「そんなすごいの?」

「すごいなんてもんじゃないよ! 公爵家の中でも特別、王でも手出しできない相手だよ!?」

「そうなん? まあ、別にいいんじゃない? 服着るくらい」

「貴族に対する認識が違いすぎる!」

 クレアは頭を抱える。そういえばリサは異世界出身だった。この世界とは常識が違う。

「まあまあ、せっかく借りてきたんだし、部屋で試着くらい、ね?」

 押し切られ、クレアはしぶしぶながら袖を通す。


 軽い、それが第一印象。

 重厚な見た目と裏腹に、まったく重さを感じない。高級品ってすごい。

「おー! かわいい! 次これ」

「かわ…そ、そうかな」

「うん、かわいいよ。クレア超かわいい」

「ほ、ほんと?」

 顔が熱くなる。頭が心地よく痺れ、勧められるままに次のドレスを着た。藍色の、落ち着いたものだ。持ってきたものの中では地味なほう。

「おー。いいね、真相の令嬢って感じ。やっぱクレアこういうの似合うね」

「そりゃ、私は地味だけどさ」

「違うって。上品って意味じゃん。あたしだったら子供が着せられてるようにしかならないよ」

「そんな…リサのほうが、かっ……かわいい、し」

 リサの持っている服を一着取り、突き付けた。

「じゃあ、遠慮なく」

 リサはクレアから受け取ったドレスに身を包む。

 深紅の生地。リサがくるりと回ると、襞のついたスカートが燃えるように揺れ動く。


 炎が、舞った。


 ハイキックを終えたままの姿勢でリサはつぶやく。

「やっぱちょっと動きにくいなー」

「……たぶん、戦う事は想定してないんじゃないかな」

 動きやすいと言っても限度があった。

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