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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
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すれ違う

 クレアは布団の中で身をよじる。まだ眠気はあるが、脳は完全に復活しているのを感じる。すぐにでも資料の続きを読めそうだ。


 伸びをして、掛布団をどけた。

 はっとして窓を見る。夜だ。


 ベッドから駆け降りた。机にはサンドイッチとメモ。

『おつかれ! 寝なさすぎはダメだよ! せっかく肌綺麗なんだから、ちゃんと寝な!』

「……やさしい」

 サンドイッチをほおばる。

「って、違う! ダンス!! って、いやいや、せっかく作ってくれたし」

 もぐもぐと残りのサンドイッチを食べ、部屋を出た。


 この日のために用意していた服も、化粧品も、部屋に残したまま。寝起きの髪で、アルフレッドの部屋から帰って来たままの汚れたローブで、つっかけたサンダルをぺたぺた鳴らして夜の廊下を走る。


 ダンスホールに入る直前、自分の恰好に気付く。羞恥が胸を満たす。

正面玄関を避けて脇にある出入口から入り、人気のない場所を通って二階に上った。


 ダンスホールは吹き抜けになっており、二階からは下の様子が見渡せる。

 きらびやかな衣装が咲き乱れるホールの中、リサの姿を探した。

 いた、すぐに見つけた。ひとりだけ制服姿のままだったから。悪い意味でよく目立つ。

「なにやってんのよ、もう」

 苦笑し、すぐに眉を寄せた。一緒に踊っている女子生徒に見覚えがあったからだ。

 黄色いドレス、金色の髪留めでサイドテールを留めている。小さくてかわいらしい、活発な笑顔の少女。

「……ノン」

 ピアノの音に合わせて踊る二人はときおり相手を変えるが、パートナーとして踊っていることは明白。


 声をかけてもいいのだろうか、せっかく楽しんでるのに邪魔じゃないか、リサなら許してくれるだろう、けどそのやさしさに甘えてばかりでいいのか。


 感情が渦巻き、出口を失い、わだかまる。

 手すりにもたれ、顔を伏せた。

「…………ほんと、タイミング悪い」

 最初から誘っていればよかった。いくらでも時間はあった。けど恥ずかしいし、当日誘ってびっくりさせてみたいし、きっといつ誘っても断られないから。リサなら応えてくれるから、勝手に甘えて、後回しにした。

 自分のせい。だれを責めるいわれもない。


「あなた、ドレスコードも知らないの? これだから平民は」


 高圧的な声音。

 顔をあげると、赤いドレスの少女が近づいてきていた。

「えーっと…ファナ先輩?」

「なんですの、その間抜け顔は」

 ファナは顔をしかめる。

「なにがですか? あ、そういえばリサと喧嘩したんでした、よね……?」

「他人事ね。……ああ、そういえば、あなたすぐ気絶したのね」

 クレアはリサとファナのやり取りを聞いていない。ただ図書室で大喧嘩して大目玉をくらったことだけは聞いていた。


 ファナは舌打ちひとつ、クレアを足元からねめまわす。

「ひどい恰好ね。服を買うお金もないのかしら。それとも反骨精神を表しているつもり? 安っぽいことね」

「……先輩は、綺麗なドレスですね」

「当然ですわ。これ以上、ドゥーラン家の家格を落としてたまるものですか」

 ファナは髪を払い、クレアを睨みつける。

「わたくし、分不相応が嫌いですの」

「えーっと、どういうこと、ですか……?」

「魔法を使えないホムンクルスが入学したり、選別にあぶれた落ちこぼれがドゥーランを名乗ったり、不愉快極まりないですわ。それと、ドレスコードを守らない非常識者も。生まれはどうしようもないでしょうけれど、外見くらいはちゃんとなさい」

「……はい」

 クレアの返事に満足したのか、ファナは踵を返した。

 こつこつと、足音を響かせながら遠ざかっていく。


 クレアは再び手すりにもたれた。階下ではリサや、他の生徒たちが楽しげに踊っている。

「……ちゃんと、できるかなあ」

 ひとりつぶやき、目を伏せた。

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