すれ違う
クレアは布団の中で身をよじる。まだ眠気はあるが、脳は完全に復活しているのを感じる。すぐにでも資料の続きを読めそうだ。
伸びをして、掛布団をどけた。
はっとして窓を見る。夜だ。
ベッドから駆け降りた。机にはサンドイッチとメモ。
『おつかれ! 寝なさすぎはダメだよ! せっかく肌綺麗なんだから、ちゃんと寝な!』
「……やさしい」
サンドイッチをほおばる。
「って、違う! ダンス!! って、いやいや、せっかく作ってくれたし」
もぐもぐと残りのサンドイッチを食べ、部屋を出た。
この日のために用意していた服も、化粧品も、部屋に残したまま。寝起きの髪で、アルフレッドの部屋から帰って来たままの汚れたローブで、つっかけたサンダルをぺたぺた鳴らして夜の廊下を走る。
ダンスホールに入る直前、自分の恰好に気付く。羞恥が胸を満たす。
正面玄関を避けて脇にある出入口から入り、人気のない場所を通って二階に上った。
ダンスホールは吹き抜けになっており、二階からは下の様子が見渡せる。
きらびやかな衣装が咲き乱れるホールの中、リサの姿を探した。
いた、すぐに見つけた。ひとりだけ制服姿のままだったから。悪い意味でよく目立つ。
「なにやってんのよ、もう」
苦笑し、すぐに眉を寄せた。一緒に踊っている女子生徒に見覚えがあったからだ。
黄色いドレス、金色の髪留めでサイドテールを留めている。小さくてかわいらしい、活発な笑顔の少女。
「……ノン」
ピアノの音に合わせて踊る二人はときおり相手を変えるが、パートナーとして踊っていることは明白。
声をかけてもいいのだろうか、せっかく楽しんでるのに邪魔じゃないか、リサなら許してくれるだろう、けどそのやさしさに甘えてばかりでいいのか。
感情が渦巻き、出口を失い、わだかまる。
手すりにもたれ、顔を伏せた。
「…………ほんと、タイミング悪い」
最初から誘っていればよかった。いくらでも時間はあった。けど恥ずかしいし、当日誘ってびっくりさせてみたいし、きっといつ誘っても断られないから。リサなら応えてくれるから、勝手に甘えて、後回しにした。
自分のせい。だれを責めるいわれもない。
「あなた、ドレスコードも知らないの? これだから平民は」
高圧的な声音。
顔をあげると、赤いドレスの少女が近づいてきていた。
「えーっと…ファナ先輩?」
「なんですの、その間抜け顔は」
ファナは顔をしかめる。
「なにがですか? あ、そういえばリサと喧嘩したんでした、よね……?」
「他人事ね。……ああ、そういえば、あなたすぐ気絶したのね」
クレアはリサとファナのやり取りを聞いていない。ただ図書室で大喧嘩して大目玉をくらったことだけは聞いていた。
ファナは舌打ちひとつ、クレアを足元からねめまわす。
「ひどい恰好ね。服を買うお金もないのかしら。それとも反骨精神を表しているつもり? 安っぽいことね」
「……先輩は、綺麗なドレスですね」
「当然ですわ。これ以上、ドゥーラン家の家格を落としてたまるものですか」
ファナは髪を払い、クレアを睨みつける。
「わたくし、分不相応が嫌いですの」
「えーっと、どういうこと、ですか……?」
「魔法を使えないホムンクルスが入学したり、選別にあぶれた落ちこぼれがドゥーランを名乗ったり、不愉快極まりないですわ。それと、ドレスコードを守らない非常識者も。生まれはどうしようもないでしょうけれど、外見くらいはちゃんとなさい」
「……はい」
クレアの返事に満足したのか、ファナは踵を返した。
こつこつと、足音を響かせながら遠ざかっていく。
クレアは再び手すりにもたれた。階下ではリサや、他の生徒たちが楽しげに踊っている。
「……ちゃんと、できるかなあ」
ひとりつぶやき、目を伏せた。




