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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
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クレアの戦い

 瞬く間に燃え上がる感情ではなかった。

 初めて会ったとき、変わった人だなと思った。ただ明るくて、とんでもなく魔力の高い、普通の子。


 人に創られた、人ならざる者。魔法を使えない不完全な存在。なりそこないの人間もどき。


 魔道学園に入学できた、それだけでよかった。

 憧れることはあった。神に才能を与えられなかった人が、己の意思と努力だけで突き進んでいく姿は、かっこいい。眩しいくらいに。

 けど、追いかけようなんて気にはなれなかった。


 彼女との出会いがすべてを変えた。


 はじめてできた友達。学園にはほかにホムンクルスはいるけど、少し話すくらいの仲でしかなかった。私は現状に満足していたから、満足しなくちゃって思ってたから、これ以上を望むことなんてできなかった。


 そんな諦念を、彼女は粉みじんに破壊した。

 踏み込んで、手をとって、一緒にがんばろうって言ってくれた。あんなにも強いのに、私に頭がいいねって言ってくれる。


 時間をかけて木をくべて、恥ずかしさも戸惑いも、嫉妬も怒りも全部糧になって、いつしか消せない炎になっていた。


――――――――――


 三日続いた魔術試合のあと、一日休みがある。

 クレアはアルフレッドの部屋で最後の準備をしていた。


 クレアにとって一番の課題、それは緊張だ。何百人もの前でしゃべるなど、考えただけで身震いしてしまう。

「四秒吸って、四秒とめて、四秒かけて口からはく。そして四秒とめて、また繰り返しです。……その調子です、肩の力も抜いて、丹田だけで体重を支えてください」

 クレアはリリアに頼み、緊張しないための方法を教わっていた。

「緊張など所詮は筋肉の作用。呼吸で強制的に力を抜けばおさまります」

「ありがとうございます。……ちなみにこれ、緊張以外でのその、ぎこちなさというか、動悸が激しくなるのも防げますか?」

「そうですね、恐怖や焦りといった感情にも有効だと思います」

「はは……発想が兵士ですね」

「それと、休息も大事です。ホムンクルスとはいえ、睡眠は必要ですから」

 ホムンクルスは人間よりも睡眠時間は少なくて済む。だがまったく必要ないわけではない。


 ここ一週間、クレアは働き詰めだった。台本通り読むだけでも難しいのに、質疑応答の練習まで含めると時間はいくらあっても足りない。

 アルフレッドもいるが、自分ひとりでも対処できるくらいのレベルに達したかった。

「アルフレッドくん、すごいですよね。試合にも出るのに……」

「この程度で音を上げるような鍛え方はしていませんから」

「え、リリアさんが鍛えたんですか?」

 リリアはこくりとうなずく。

「そうなんですね。えーっと、身体強化寄り、ですよね? リリアさんって」

「そんなところです」

 身体能力特化型のホムンクルスは武芸にも秀でている。体の使い方がうまいので、運動全般得意だ。

「アルフレッドくん、まだ起きませんかね?」

 先日、ニーナとの試合を終えたアルフレッドはいまだベッドから出てこない。仮想世界で戦っても身体的な疲労はないはずだが、精神は疲弊しているのだろう。

 ちなみにリサも寝ているが、休みはいつも昼まで寝ているので気にしなかった。

「昼過ぎには起きるかと。必要でしたら起こします」

「いえ、明日でも大丈夫です。……私も、午後からはちょっとあれなので」

 クレアがおよび腰で言うと、リリアがうなずく。

「先ほども申しました通り、休息は必要です。眠れなくても、別のことをするだけでも休まりますから」

「は、はい! そうします!」

 クレアはぺこりとお辞儀をして部屋を出た。


 競技会四日目は休日だが、イベントもある。

 舞踏会だ。


 学園は貴族たちの社交の場でもあるので、ダンスホールも備えてある。

 試合を終えた生徒たちの休息と、後半に行われる発表会への激励を兼ねたパーティが開かれる。

 参加は自由。競技会に出ない人間にとってはただのイベント。これをきっかけに普段言えない感情を伝える生徒も多い。

 そこまで大胆なことをするつもりはない、というかリサへの感情がそういうものだという確信もない。


 少し前のクレアなら、きっと何もしなかった。

 けれど、今は少しだけ、踏み出してみようと決めた。


 階段を駆け下り、寮へ向かう。扉の前で一拍置き、髪を整えた。

(って、なんで自分の部屋入るのに緊張してるのよ、私は!)

「ただいま。リサー……って、あれ?」

 部屋にはだれもいない。朝、出るときは二段ベッドから半分落ちながら眠っていたはずだ。


 布団に触れる。冷たい。

「……タイミング悪いなー、もう」

 リサは気分屋なので、帰って来る時間は予測がつかない。寝間着姿でふらりと出ては野良猫に出くわし、小一時間じゃれ合って来ることもあれば、制服姿で出てすぐに戻ってくることもある。

「部屋で待つのが無難かなー。んー……」

 クレアは考える。下手に探しに行ってすれ違いになっても面倒だ。

 こういうとき召喚魔法が使えれば便利なのだが。

「とりあえず待ってよう」

 机に座る。水晶板を取り出し、発表用の資料を開いた。


 ホムンクルスは必要な睡眠量が少ない。

 クレアはこの一週間、合計4時間足らずしか寝ていなかった。

 それは今日の午後を開けるためであり、憂いなくリサを誘うためだったのだが。


 準備が裏目に出ることもある。


 資料を読んでいるうちに睡魔がやってきた。ごつんと机に頭をぶつける。痛みに顔をしかめるも、すぐに眠気の波に流された。


 さらに悪い事に、眠りについてすぐ体が柔らかくて暖かいものに包まれた。疲労が溶け出していく。惰眠をむさぼるリサの気持ちがわかってしまった。

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