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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
2/66

初試合

 現実の肉体から力が抜け、ぐったりと椅子にもたれ込む。

 リサは真っ暗闇の中にいた。一条の光もない洞窟のように、何もない空間。

「あー、これがクレアの言ってた待機所か」

 試合が始まる前にひとつだけ、魔術を発動する準備ができる。発動前に時間がかかる召喚魔法などを使う人間が不利にならないための措置だ。

 とはいえ、リサが使えるのは速射性にすぐれた炎魔法だけ。

 考えた末、魔力をためまくって開幕ぶっぱすることにした。

 両手を伸ばし、魔力を集中させる。空間がいがみ、軋みをたて、温度が上がっていく。

 現れるのは極大の炎。鉄すら一瞬で溶解させるほどの高温。

「準備、できたらどうすりゃいいんだ?」

 首をかしげたときだ。

 再び景色は変わり、荒野に出た。

 魔術師同士の試合は仮想空間内で行われる。

 幻覚魔法の応用で作った空間に、テレパシーを拡張した術で意識をつなぐ。仮想空間だが現実と同じ物理法則が適用され、魔術師は現実でできることしかできない。

 怪我をすれば痛いが、外に出れば元通りだ。

 敗北条件は降参か、死んでから十秒以上たつこと。

 十秒以上、というのがリサにはわからないが、あまり深く気にしないことにする。

 リサから50メートルほど先には対戦相手のアルフレッド・ドゥーランが立っていた。

「じゃ、消し飛べ!」

 炎が放たれる。

 直径2メートルの炎が地面をえぐりながらアルフレッドに直進。

 だがアルフレッドの前に黒い壁が現れ、炎は中に吸い込まれた。あとには何も残らない。

 リサが次の攻撃を準備するより早く、アルフレッドの攻撃が来た。

 全方位から無数の炎が飛んでくる。

「やっば、マジか」

 リサは魔力を身体強化に回す。飛んでくる魔法をよけ、よけきれないものは炎で相殺。

 ようやく落ち着いたと思えば、空から岩石が降り、地面から巨大な芋虫が出てくる。

「ああ、もう! 忙しい!」

 岩石をよけ、芋虫を焼き殺す。

 リサが奮闘していると、突然首筋に冷たいものを感じた。

 直観で反対側に地面を蹴った。強化された肉体は10メートルもの距離を軽々と飛ぶ。

 首元に触れると、血。だが自分がいた場所には何もない。

 困惑していると、凶悪な芋虫が飛び掛かって来た。反射的に炎を出そうとし、踏みとどまる。

 リサが何もしないと、芋虫は鋭利な歯で噛みついてきた。顔をしかめたが、すぐ冷静になる。

 痛くない。

 まったく何も感じないわけではないが、ダメージを負うほどではない。

 そこで気づく。これ、幻覚だ。

 おそらく今まで見ていた攻撃と、アルフレッドの姿はすべて幻覚。本体は姿を消し、刃物で攻撃してきたのだろう。

「あー、そういう戦い方するんだ」

 してやられた。魔力も体力も削られた。

「けど、もう種はわれたしね」

 リサは自分の体を中心とし、全方位に熱波を放つ。草木は燃え、地面は焦げる。さすがに鉄は溶けないが、人間が食らえば無傷なはずがない。

 何度かの熱波を放ち、心の中で時を数える。

 1,2,3,4,5,6,7…

 あと3秒。そのとき、空から剣が飛んできた。

 咄嗟にジャンプしてよける。だがもちろん、剣は幻覚。

「しまっ…!」

 言い終えるより早く、今度は空中で刃物を押し付けられた。皮膚を切り裂き、肉に冷たい刃が食い込む。

 リサは首だけに魔力を集め、強化する。

 膨大な魔力のリソースを一点に集めたおかげで防げた。だがガードの緩んだ腹に重い一撃。

「げほっ!?」

 吹き飛ばされる。起き上がると同時に熱波を放った。

 連続して熱波を放つ。相手の姿が見えない以上、接近戦は不利。とにかく熱波を放って相手が近づけないようにする。

 だがそれはまったく意味のない行為だった。

 アルフレッドは空気を操って自分の正面だけ熱波を消していたからだ。これなら最低限の魔力でリサの攻撃を無効化できる。

 リサの目には自分の魔法が消されているようには映らない。むきになって熱波を出し続ける。

 アルフレッドの幻覚がいくら高度とはいえ、こう何度もやれば空気の流れに気づくはずだ。それに気づかないのはおそらく、風魔法を使えないから。

 というか、さっきから使ってるのは身体強化と炎魔法だけ。最初は元素魔法使いなのかと思ったが、どうやら元素魔法の中の炎魔法専門らしい。

 なら勝つのは造作もない。

 アルフレッドはリサの周囲の酸素を奪った。


 リサは突然息苦しさに襲われる。喉を抑え、膝をついた。

 アルフレッドの読み通り、リサは風魔法を使えない。火力でも身体強化でも、奪われた気体を取り戻すことはできない。

 苦悶の表情に顔をいがめる。

 舐めていた。正直、火力で押せば勝てると高をくくっていた。

 転生特典とやらで莫大な魔力をもらい、この数日で幾度となくクレアを驚かせたことで、自分が最強だとうぬぼれていた。

 だんだん視界は狭まってくる。意識が闇に飲まれそうになる。

 それでも足掻くことはやめたくなかった。

 この状態でできることなんて一つしか思いつかない。

 可能な限り広範囲を、最大火力で焼き尽くす。

 運が良ければ自分が死ぬ前に殺せる。最悪相打ちにはできるだろう。

 リサが魔術を発動する。

 世界は炎に包まれた。

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