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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
19/68

最強のゴーレム使い

 競技会二日目。

 リサは順調に勝ち星を積んでいた。


 試合では順位がつけられるため、後になるほど実力の近い物同士がぶつかるようになる。二日目の午後ともなるとトップ層が選別されていた。


 優勝候補は四人。


 ニーナ・エザルカ。三年、序列一位、貴族。国防大臣バーバラ・エザルカの娘。

 ダン・ウェイド。三年、序列十位、平民。身体強化だけで上位生にまで上り詰めた異例の存在。

 リサ・トウドウ。一年、序列2988位、平民。

 アルフレッド・ドゥーラン。一年、序列七位、貴族。


 次の組み合わせが発表される。リサの相手はニーナ。


「一位の人じゃん」


 無意識に口角が上がる。席につくと、先にいた女生徒が微笑んだ。


「ニーナ・エザルカです。よろしく」


 ふわりとウェーブのかかった亜麻色の髪。純白のローブには金糸の縁取り。背はすらりと高く、豊かな胸元には家紋の入ったブローチを嵌めている。


「どうも。リサです」


 事実上の準決勝。隣ではダンとアルフレッドが向かい合っている。

 リサはゆっくりと息を吐き、瞳を閉じた。



ーーーーーーーーー



 仮想空間に入ると同時、リサは炎を放つ。


 ニーナの傍には銀色の人形、ゴーレムが立っている。迫り来る炎を前に、ゴーレムは主人の前に飛び出し、円盤へと姿を変えた。

 銀色の楯に守られ、ニーナは無傷。


「液体って、そういうことか」


 そのゴーレムの体は水銀。いかなる形にも変化し、分裂、合体も自在。


 リサが理解したのと同時。

 ゴーレムの体が分裂。無数の刃となってリサに襲いかかる。

 リサは魔力を身体強化に回す。鋭敏になった五感を頼りに攻撃をかわす。わずかな隙を見つけ、ニーナへ炎を放つも、ゴーレムに弾かれる。


(あー、もう! 戦い辛い!)


 魔力を練る。金属すら揮発させるほどのエネルギーが手のひらに踊る。

 ニーナの額めがけて撃ち出した。その射線上に銀色の礫が集まる。

 炎が二手に分かれ、礫の密集した場所を避けると、左右からニーナを襲った。


 ニーナは手元に残していた水銀を左右に展開、身を守る。


 炎が爆ぜた。ニーナの視界が炎に埋め尽くされる。リサは遠隔で魔法の起点を設置し、ニーナの頭上から炎の柱を振らせた。残った水銀がニーナの頭上を覆う。

 水銀のすべてが防御に回った。


 その瞬間、走る。ニーナの背後に回り込んだ。


(取った!)


 無防備な後頭部を狙って右の逆突き。


 だがニーナは反応した。振り向きながらの回し受け。そのままリサの腕を掴み、引きこむ。

 リサは体重を崩される寸前、踏みとどまった。肘を中心に右手を回してニーナの腕から逃れ、裏拳で顔面を狙う。ニーナは左手でそれを受けた。


 リサは裏拳を放ったままの腕の陰から、左の突き。それすら反応されたが、ニーナの意識は完全に上段へ向いている。


 ローキック。ニーナはぎりぎりで反応、足をあげてカットしようとする。

 その瞬間、リサは骨盤を回して腰を突き出し、強引に軌道を変えた。ハイキックに変形し、ニーナの顔面を狙う。


 ニーナは反応できていない。なのに手ごたえがない。疑問を抱くと同時にじんわりとした痛み。

 足先はニーナを捉えることなく、宙を飛んでいく。切断面から血が噴き出した。


 宙を舞っていた礫のひとつが刃物となり、リサの足を刎ねたのだ。


 リサは軸足に魔力を集中し、飛ぶ。同時にニーナへ向けて炎を放った。


(くそ! ゴーレム使いなのに本体も強いの!?)


 足を焼いて止血する。痛みで意識が飛びそうになる。歯を食いしばって耐える。


 ニーナがこちらへ来る。淡々と歩みを進めるニーナを、極大の炎が覆った。木々が消滅し、地面が沸騰する。


 リサは走り出す。炎が持続している間に少しでも距離をとる。次の一手を準備するために。



ーーーーーーーーー



 炎は収束し、景色は一変。

 大地には巨大なクレーター。表面はガラス化している。周囲の木々は熱波で消え去り、更地になっていた。

 クレーターの中央に、直径二メートルの水銀球。中からニーナが出てきた。周囲を睥睨する。


「本当にすごい魔力量ね。世界一じゃないかしら?」


 呟き、広範囲に探知魔法。リサはすぐ見つかった。


 ゴーレムを再び分裂させる。体積の8割は分割して直径10センチの球状にし、残りは一枚のボードに。

 ニーナはボードに乗った。ボードは宙に浮き、主人を乗せたまま空を飛ぶ。


 仮想空間に端はない。進めば進むほど、ランダムに地形が生成される。


 荒野をつっきり、山を越えて、ようやくリサを見つけた。

 洞窟の奥深く、両手を胸の前に合わせて仁王立ちしている。手のひらの間には圧縮された魔力。


 リサは額に汗を流し、体から放出される魔力を一点に集め、炎へと変換していく。


 ニーナは怪訝な顔をした。変換効率の高さが異常だったからだ。

 魔力を物理的なエネルギーに変える際にはロスが出る。現代魔術は汎用性を重視した結果としてロスが大きい。古典魔法はロスが少ないが、リサの変換効率はどの古典魔法よりも優れている。


(既存の魔術体系にない術式。……きな臭いわね)


 ニーナが登場したのを見て、リサは魔力の放出速度をあげる。炎は白を越えて、どす黒く変色しはじめた。

 小さな球のなかで魔素同士がぶつかりあい、エネルギーを四散させようとするが、新たに送られてくる魔力に押し潰される。


「爆弾……っ?」


 ニーナがそれの正体に気づいたとき、圧縮された魔力が解放された。世界が白く染まる。

 とっさにゴーレムの形を変え、自身を覆う。


 爆発は一瞬だった。


 防御態勢を解かず、ゴーレムに組み込んだ感覚器官で外の様子をうかがう。


 何もない。ただ真っ暗な空間が無限に続いている。


 仮想空間の自動生成が追いつかない速度で、世界を消滅させた。


 金属球の中、ニーナは座り込む。


「これ、勝ったのかなあ?」


 現実だったら、攻撃を防いだところで生存できる環境が残っているだろうか。


 異常な変換効率の術式、世界を消滅させるほどの魔力。


「リサちゃん、ね」


 その名を胸に刻み、現実世界へと戻った。

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