魔導学園のレベル
競技会開催の挨拶が終わると、溢れんばかりの歓声。学園が揺れ動く。
上位生たちが鎬を削る競技会も、成績を気にしない大多数にとっては楽しむためのイベントだ。特に研究発表は、騒ぎたい学生たちにとってはいい口実だった。
幻覚魔法の大衆への影響は映画の放映会。水魔法の学習法はまんま水遊び。雷は観客を楽しませるためのパフォーマンス。
ノリは完全に文化祭。
発表会は六日間にわたって行われる。最初の三日で試合が行われ、残りは研究成果。こちらは各教室で行われるアングラ発表会ではない。教室が採点し、順位もつけられる正式なもの。
学園祭の空気にあてられて、リサは完全に浮かれていた。
「おー、見て。下級悪魔展だって。キモ!」
下級悪魔がぎっしり詰まったガラスケースを指さす。芋虫のようなぶよぶよの腹に、歪な形の羽、10個の瞳が頭のあちこちについている。
「へー、たくさんいるね。呼び出すの大変そう」
「大変なの? ファナと戦ったとき、一分くらいででかいの出てきたけど」
「あの人、召喚師としては学園トップクラスだからね?」
トップ層とばかり関わっているせいでリサの感覚がバグっている。
「言っとくけど、魔術師ってみんながみんな上位生みたいなんじゃないから」
「ねえ、あれ面白そうじゃない? 本音を言わないと出られない部屋!」
リサの視線の先を追う。
「結界術って、マイナーすぎる。現存してたんだ……。いや、そんなことはいいから。試合、もうすぐでしょ? 準備したら?」
「メンタルコントロールだから! 普段通り振舞うことで練習通りのコンディション引き出してるから!」
欲望のままに振舞っているようにしか見えないが、スポーツ経験のないクレアには突っ込みにくい。買い食いをしているうちに時間になる。
試合会場はグラウンドに設けられている。椅子が向かい合って並べられ、中央に水晶玉。それが四セットある。
周囲には観専席が作られ、空中には仮想空間内の映像が映し出されていた。四つとも今はまだ無人の荒野だ。
リサは教師の指示に従って椅子に腰かける。相手は二年の男子。リサを見るや、メガネをくいっと押し上げる。
「どうも、ログリスだ。魔力量は8。君の噂は聞いてるよ」
「ご丁寧にどうも」
「お互いがんばろうね。ベストを尽くそう」
さわやかスマイルを向けられた。水晶球に手をかざし、肉体から力が抜ける。
真っ暗な世界。最初の一撃を準備するための控室。
最初は小手調べと行こうと思っていたのだが、ベストを尽くそうと言われた。なら加減するのも失礼だろう。遠慮なくベストを尽くさせてもらう。
術式を構築し、魔力をたぎらせ、試合がはじまった。
荒野に二人は向かい合う。距離は100メートル。
ログリスは悪魔を従えていた。幽霊のような見た目だ。
幽霊に物理攻撃が効くのかはわからないが、とりあえず魔法をぶっ放した。
直径5メートルもある炎がリサの両手から放たれ、地面を溶かしながら突き進む。大気を焼き、ログリスは目を見開き、ジュワッという音とともに蒸発した。
後には焼けた地面と、焦げ臭い匂いだけ。ログリスも悪魔もリサの視界から消えている。
だがまだ油断はしない。幻覚の可能性もある。
探知魔法には一切の反応がないが、身体強化は持続させる。五感をフル稼働して警戒していると十秒経ち、勝者のコールが鳴り響いた。
現実世界に戻る。向かいの席ではログリスが気まずそうな顔をしていた。
「えーっと、うん、まあ、そうだね。圧倒的な魔力があるなら単純な火力ってのは良い手だ。へんに策を弄するよりね。技術の勝負に引き込まれたらかえって不利になる可能性もあるし……僕も魔力は多いほうじゃないからね。まいったまいった。次もがんばってね」
男は早口で言い、立ち去る。
会場ではまだ三つの試合が映っていた。せっかくなので見て行こうと思ったが、すぐに飽きてクレアのもとへ帰った。




