表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
17/68

国境

 学園はイルセナ王国の北西部にある。

 北は海岸、東には国境沿いの森。残りの二方は街が広がる。


 二人は南側の街へやってきた。

 石畳みの通り。両脇には四角い家が規則正しく建ち、街灯がぽつりぽつりと並んでいる。

 街灯を結ぶ線はゆるやかなカーブを描いて西へ進み、交差点へ。四つの道が交わるそばには広場。静観な住宅街とは対照的に活気がある。二人の足は自然と活気に吸い寄せられていく。


 500メートル四方の、石が敷き詰められた空間。中央には喫茶店があり、他にも食事の出来る店がちらほら。


「リサ、お金持ってる?」

「ない」

「しょーがないなー。待ってて」


 ノンは出店のひとつに並んだ。店主は肉の塊を薄くスライスしてパンに挟み、レタスやトマトなどの野菜、最後にソースをトッピングする。見た目は完全にケバブだ。


「はい、これ」

「いいの? ありがと」

「うむ」


 ノンは頷き、近くにあったベンチに腰掛けた。リサも続く。


「グライツスクエア。来たことある?」

「ううん。はじめて」

「ここらじゃ有名な観光地だよ。むかーしの戦争で勝った貴族さまを記念して建てたとこ」


 ノンが広場の入り口にある塔を指さす。頂上ではブロンズの青年が剣を持って睨みを利かせていた。


「あの街灯ってさ、魔力で動いてるの?」

「そうだよー」

「魔力の授受って難しいんだよね? 魔道具が動くのって、なんかおかしくない?」

「拒絶反応は人体で起こるからね。魔道具はそんなこと気にしなくて平気」


「じゃあ魔力の授受って、二人には申し訳ないんだけど……あんま意味なくない?」

「そ。だから研究進んでないの。まあ、魔道具は簡単な術式しか使えないから、魔力授受にも一定の需要はあるけどね。それにしてもリサさんはほんとに何も知りませんな」

「すみませんねえ、田舎生まれなもので」

 言うと、ノンは何かを思いつき、ふふんと笑った。

「じゃあ、国境も見たことない?」

「ないけど、どうしたの?」

 リサが首をかしげると、ノンは笑みを深める。

「面白いもの見せてあげる」



ーーーーーーーーーー



 レンタルのスクーターに乗り、通りを駆け抜ける。街を抜け、森林地帯に入った。

 遠目に塔が見える。石造りの巨大な塔だ。どんどん近づいてくる。そこが目的地らしい。


 塔の入口でスクーターを降りた。ノンに手を引かれるまま中に入り、らせん階段を登る。


「ここ、だれもいないの?」

「いないっちゃいない」

「どういうこと?」

「国境のそばだからな。たぶん感知はされてる」

「意味わかんないんだけど!」

「見せてからのが説明しやすい!」


 走る速度をはやめる。身体能力が高いのは本当らしい。リサは軽く息があがる。

(階段ダッシュとか、最後にやったのいつぶりだろ)

 部活を思い出していると、最後の段に到達。


 頂上は腰の高さまでの壁と屋根だけ。縁に立つと眼下の景色が一望できた。


「おー、壮観」


 どこまでも続く緑の海。地平線の果てにうっすらと太陽の縁が見える。藍色の空には鳥……にしては大きすぎる、鳥の姿をした何かが飛んでいた。


 よく見れば森にも見知らぬ生き物がいる。真っ赤な巨人や、歪な緑色の人間。けっこう物騒だ。


「あれって、魔物?」

「だねー」

「……ここ、危なくない?」

「いや、世界一安全」


 その言葉の意味はすぐにわかった。


 巨人の一体が塔に近づいてくる。小さな獲物でも追っているのか、歩きながら地面を叩く。のそのそ歩いているように見えるが、一歩が大きいのでスピードはかなり速い。あと500メートルといったところか。


 突如、地面から巨大な手が出た。巨人を握りつぶし、死骸を放り投げる。巨人が追っていた四足の猛獣も叩き潰した。


 仕事を終えると手は地面に帰る。あとには撒き散らされた魔物の血だけが残る。


「なにあれ」

「バーバラ・エザルカ。ルイ・エザルカの子孫。国防大臣で、世界最強の魔術師。ひとりで国境線を全部守ってる」

「……すごいね」

 それしか出てこなかった。


 魔物たちはときおり国境へ近づくも、そのたびに巨大な腕が排除する。異世界に来た時は魔物とのバトルなんかも想像していたのだが、それが叶うことはないらしい。


 ぼんやりと暗くなる空を見ていると、ノンがいなかった。

 慌ててあたりを見回す。すぐに見つかった。塔の反対側で街を見ている。


「綺麗だね」


 隣に立つと、サイドテールがぴょこんと跳ねた。


「わかりやすい眺めでしょ」

「なにが?」

「あれ」


 ノンは魔道学園を指さす。こうして見ると巨大な城だ。周囲を威圧するようにそびえたっている。街には煌々と明かりが灯り、人々の喧噪さえ聞こえてきそうだ。


「魔術師が支配して、民衆は生活にいそしむ。で、その下」


 目を凝らすと、街の外側にも居住区があっな。明かりはなく、建物もぼろぼろ。明るい街にへばりつく、暗い街。


「ホムンクルスの街。人間に作られて……道具とされて、さげすまれも、それでも離れられない」


 ノンはリサを一瞥し、自嘲気味に笑う。


「平等化政策でホムンクルスも市民権を獲得できるようになった。けど、法が変わっても社会は変わらない。おかしな話でしょ。……リサはどう思う?」


 問われ、ふとアルフレッドとの会話を思い出す。


「……現状を変える勇気もなく、仲間同士で傷をなめ合って『今のままでいい』ってごまかしあう。自分の意思じゃ何もできない無力なやつら」

「へえ、うまいこと言うじゃん」

「アルくんが言ってたんだよ。それが、アルくんの見てきた世界なんだって。そういう意味では、人間もホムンクルスも同じかもね」

「答えになってなくない?」

「ダメだった?」


 リサが問うと、ノンは首を振った。


「……帰ろっか」


 学園に戻ったのは消灯時間ぎりぎり。こっそりと門を抜け、寮に忍び込んだ。

 無事、教師には見つからずに済んだ。その代わりクレアにメチャクチャ怒られた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ