ホムンクルス
三日後、ようやく資料室の片付けが終わる。
リサは久しぶりの自由を手に、部屋でのんびりとしていた。二人部屋だが、クレアはアルフレッドと魔力授受の研究をしているのでひとりぼっちだ。
「……ひま」
勉強してろと言われたのだが、30分もすれば飽きる。
「よし! 今日の分終わり!」
自分に言い聞かせ、部屋を出た。廊下には西陽が差し込み、女子生徒たちが歩いている。
何をするでもなく歩いていると、後ろから声をかけられた。
「リサじゃん。なにしてんの?」
ノンだった。手を振って駆け寄ってくる。
「ノン、久しぶり。別になにも。暇だったから」
「クレアは? 一緒じゃないの?」
「クレアはアルと勉強してる」
「なるほど。レベルが違いすぎて混ざれなかったのか」
「皆まで言わないでよ! 悲しくなるでしょ!」
うわーん、と鳴くと、ノンが背伸びして頭をなでてきた。
「よしよし、哀しき阿呆よ。わかるぞ、この学校、上のやつらはほんと化物だからね」
「ノンも、もしかしてアホ仲間?」
「私の成績は下から十番目より上に行ったことがない」
「心の友!」
「ふぎゅう!」
感極まって抱きしめると、ノンは苦しそうに悲鳴をあげた。
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場所を移し、食堂。
無料のコーヒーとパンを頼み、二人は空いている席に座る。
「ノンは競技会出るの?」
「どうかなー。まだ迷い中。リサは?」
「あたしは出るよ、試合の方。ノンは出るならどっち?」
「私はホムンクルスだからねー。試合には出れないかな。まあ、物理で殴るだけのスタイルでもいいなら別だけど」
「ホムンクルス……ノンもなんだ?」
「そうそう、クレアとおんなじ。ま、私は演算能力特化型じゃないから、あんなに頭よくないけどねー」
「演算能力特化?」
「クレアから聞いてない? クレス家っていえば純粋種の家系として有名だと思うけど」
「ごめん、ホムンクルスのことぜんぜん知らなくて」
「私が言うのもなんだけど、不勉強だね」
ノンは呆れるも、説明はしてくれるようだ。
「試験管で創られた人間、それが私たちホムンクルス」
「……機械ってこと?」
「ちょっと違うかな。ゴーレムって術式で物理的なボディを動かしてるんだよね。けど私たちは体と術式が不可分。肉体は人間そのものだけど、中枢神経と生体術式が一体化してるの」
「じゃあノンも試験管の中で生まれたの?」
「んにゃ、人間と同じ、お母さんの腹から生まれた。ここがミソだよ、リサくん」
「どこがミソなの、ノン先生?」
「私たちに使われてるのは自己増殖型疑似生体術式。ようするに子供が作れるんだよ。そこがゴーレムとの一番の違いかな」
「じゃあ、一番最初のホムンクルスって、だれが作ったの?」
「ルイ・エザルカ。人類史上最高の魔導士。最初の個体はすごかったらしいよ、生体術式はルイエザ本人の脳みそをコピー。人間離れした身体能力と無制限の魔力。最強生物だね」
「ルイエザて。……って、あれ? ホムンクルスって魔法使えないんじゃなかったっけ?」
「私たちはね。生体術式って、親のものが完璧に子供にコピーされるわけじゃない。少しずつ変質していく。変化が積み重なるにつれて、魔法を使えなくなった。身体能力と頭脳でも個体ごとにバラつきがある。バラつきは遺伝するから、頭がいいホムンクルスばっかりを掛け合わせると演算特化型の家系になる。身体能力特化型も同じだね。特化型の中でも完全にどっちかに振り切った家系を純系って呼ぶんだよ。ちなみに、戦闘能力特化型なんて家系もあったらしいよ」
「それって、身体能力とは違うの?」
「戦いって頭も使うから、いい感じのバランスだったんでしょ。家の中だけに伝わる戦闘技法なんかもあったらしいし。ま、そのうち世界史で習うよ」
「世界史? なんで?」
「シュディック家の反乱って事件があったんだよ。ホムンクルスが人間より下の立場に置かれてることに対する反乱。すごいよ、成人個体はたった80人だけだったのに、鎮圧に送られた魔術師は二千人。これを壊滅状態にした。ま、最後には負けちゃったんだけどね。……って、面白い話でもないか」
リサが難解な顔をしているのを見て、話を切りやめる。それからニヤリと笑った。
「ねえ、気分転換行かない?」
「気分転換? って、どこに?」
「外」
「え、それっていいの?」
「いいよ、バレなきゃ!」
ノンはリサの手を取り、引っ張る。
「ちょ、あたし停学中なんですけど!」
「授業に出ちゃダメなだけでしょ。外に出ちゃダメなんて言われてない!」
「もう!」
口ではそう言いながらも、リサは笑っていた。




