孤独と孤高
リサはクレアを抱え、アルフレッドの部屋に入る。
「どうされたんですか?」
「リリアさんごめん、ちょっとクレア頼んでいい?」
「それは構いませんが。……焦げ臭いですよ?」
「え、マジ? まあいいか」
匂いのことは置いておき、廊下の奥にある書斎に入る。机の前ではアルフレッドが物憂げに座っていた。半分閉じた目をリサに向ける。
「また来たのか」
「アル、さっきファナに会った。んで、倒した」
「そうか。叔母さまか。弱かったろ」
「うん。油断誘ってるのかと思ってめちゃくちゃ警戒してたんだけど、ほんとに弱いだけだった」
「あの人は研究者肌だからな」
「ありゃ、かばうんだ。意外」
「違う。相手の畑で叩き潰さないと心は折れん」
「あ、よかった。ちゃんと性格悪かった」
リサがくすりと笑う。
「別によくはないと思うが……で、結局なんの用だ」
「聞かせてくんない? アルのこと。家族と仲悪くて、クラスメイトからも敬遠されてるアルのこと」
「聞いてどうする」
「リリアさんが言ってたでしょ。ご学友は作るべきですって。まずは腹を割って話し合おう」
「じゃあお前がまず腹を割れ」
それもそうだ、とリサはうなずく。
「あたしさ、大好きなお姉ちゃんがいたんだよね。家は厳しかったんだけど、お姉ちゃんは優しくしてくれた。できの悪いあたしと違って頭よくて、美人で性格までいいんだもん。みんなから好かれてた」
「それはけっこうなことだな」
「うん。で、あたしが中学……14歳のとき。目の前で死んだの。事故で」
アルフレッドはリサの目を見る。
「今でも憧れてる。お姉ちゃんみたいになりたいんだ。強くてかっこよくて、だれより優しかったお姉ちゃんみたいに」
「……貴族の家では、幼少期に選別が行われる。才能のない人間はまびかれ、選ばれた子供だけに集中して教育を行う」
「まびかれる?」
「殺してたらしいぞ、昔はな。今は、離れに押し込めるだけだ。狭い建物に、ろくな教育も受けてない人間が何十人も住んでる。日に一度、食べ物が届けられるほかは顧みらえることもない。……俺は書斎に忍び込んで魔法を学んで、逃げ出そうとした。一度目は失敗したが、二度目はメイドに助けられた。一緒に外に出て、その日暮らしをしながら勉強を続けた。そうしてここに入った。これ以上何か知りたいか?」
「ひとりにこだわる理由かな」
「離れにいたとき、最初は年長のやつらに声をかけた。一緒に逃げようってな。けど、そいつらは何もしなかった。むしろ怒られたよ、余計なことはするな、大人しくしてろって。俺が行動しはじめると、束になって抑えてきやがった。現状を変える勇気もなく、仲間同士で傷をなめ合って『今のままでいい』ってごまかしあう。自分の意思じゃ何もできない無力なやつら。人間ってのは群れると堕落する。それだけだ」
今度こそ話は終わりだと、リサの顔を見る。
リサはぞっとするほど冷たい表情をしていた。つまらなそうな視線をアルフレッドに向ける。
「なんだ、ただ安心したいだけじゃん」
「あ?」
「群れると堕落する? それってつまり群れなきゃ崇高だって思ってるんでしょ。自分はなれ合いをしてるやつらとは違うんだって、見下して安心したいだけでしょ?」
アルフレッドの瞳に怒りが宿る。睨みつけるが、リサはとまらない。
「研究で成果あげてるのってチーム? 個人? それとも結果を出すことより自分の価値観を守ることの方が大事?」
「それは……っ、違う!」
「そうは見えないよ。自分の見てきたことばかりに囚われて、過去に縛られて。いつまでも立ち止まってたら、あたしはもっと先に行く。追いつけないくらい先まで」
アルフレッドは目を見開く。立ちかけていた足に力が抜け、椅子にもたれかかった。肘置きを握りしめる。
「リリアを……」
「なに?」
「うるさい! リリア、リリアを呼べ! 今すぐだ!」
叫んだ途端、リリアが飛び込んで来る。呆気にとられるリサを残してアルフレッドを抱きしめた。
アルフレッドは怯えた子供のように、リリアの胸にしがみつく。リリアが頭をなでると、不安げに瞳を揺らしてリリアの首に腕を回した。
大きく息を吐き、リサに視線を向ける。
「……明日、また来い。今まで調べたことはまとめておけ」
その答えを聞いて真っ先に反応したのはリリアだった。安堵の息をはき、リサを見て微笑む。
「わかった。クレアに伝えとく。……ごめんね、強く言って」
「るっさい。謝るな」
言って、アルフレッドは目を閉じた。




