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魔術師たちよ  作者: 八神あき
一幕 競技会編
12/68

二位

 数人の男子生徒がアルフレッドを突き飛ばした。人通りのない廊下、壁際に倒れたアルフレッドを囲む。

 目の前にダリーがしゃがみこんだ。アルフレッドの髪をつかんで目を合わせる。

「なあ、掃除しといてって言ったよな? なんで言うこと聞かないんだ? 他にすることなんてないだろ?」

 アルフレッドの見立てではダリーのほうがよほど暇人だ。刹那的な楽しみのために遊んで過ごすことのどこに生産性があるのか。

 だが、言い返す時間は与えられなかった。

 頬を殴られる。

「あれー? おっかしいなー。頼もしいメイドさんは助けに来てくれないなあ」

うずくまるアルフレッドの腹を蹴る。周りで傍観してた生徒たちも攻撃に加わった。

 ダリーはアルフレッドの胸倉をつかんで持ち上げる。

「これで学習したか? 次から友達の頼みはっ―いっでえ! 離せ、くそ!」

 アルフレッドはダリーの手に噛みついた。肉がえぐれるほど歯をくいこませる。みぞおちをなぐられ、意識が昏倒し、投げ飛ばされた。

「くそが!」

 言って、ダリーは炎を放つ。アルフレッドの顔に当たり、左半分が焼かれた。焦げた肉の匂いが蔓延する。

「あああああああああ!!」

 叫び、地面をのたうち回った。

「おい、魔法はまずいだろ」

 取り巻きのひとりが言うも、ダリーは制止の声など振り払う。

「知るか! 家に捨てられた落ちこぼれ貴族なんてかばうやついねえよ!」

 ダリーはアルフレッドを見る。ガウンに顔をこすりつけ、必死に炎を消そうともがいている。

 再び炎を出した。手の上で弄びながらアルフレッドに近づく。

 ダリーはにやりと笑った。


 ――二年後、春休み開け最初の試合。

 仮想空間内ではダリーとアルフレッドが対峙していた。だが関係性は逆転している。ダリーは口を焼かれ、腕をもぎとられ、降参することもできず恐怖の表情を浮かべている。

 こんなはずじゃなかった。いつも通り、ただただ圧倒的な魔力で蹂躙するはずだった。

 幻覚、局所的な身体強化、そんな小手先のごまかして覆せる実力差じゃない。

 アルフレッドは淡々と距離を詰めてくる。土くれを握り、薄い板状にした。アルフレッドが魔力を流すと、土が金属へと変わっていく。

 ダリーは驚愕に目を見開いた。変成術、元素魔法を錬金術を極めたことだけができる、原子の変質。学生が使えるようなものじゃない。

 口が焼かれていなければ、幻覚だと叫んだだろう。だがアルフレッドの握る刃物が本物だということは、すぐに実感することになる。

 アルフレッドが剣を振るう。焼けただれ、一枚の皮膚になったダリーの唇が切り裂かれた。

「ああああああああああああ!」

 顔を抑えて絶叫する。すぐに顔を殴られた。ハンマーをぶつけられたような衝撃。歯が砕け、舌がつぶれる。

「ま、まいっt!」

 降参の言葉を言い終える間もなく、水の被膜が顔を覆う。

 許して、助けて、俺が悪かった、もうしない、どれだけ叫んでも、水の中ではすべて泡となって消えていく。

 アルフレッドがはじめて笑った。いびつな、あざける笑み。

「聞こえんな。せめて人の言葉をしゃべってくれよ、劣等種」

 この日から、アルフレッドの無敗記録がはじまった。三年が終わるころには、学年最強の地位を確固たるものにする。

 高等部との合同試合では、上位生にすら勝利。ニーナ・エザルカにこそ負けたが、魔術師にとってエザルカ家には勝てないことは常識であり、不名誉にはならない。むしろ、ニーナが手加減しなかった数少ない相手として、高等部では噂になるほどだ。

 いじめられっ子だったアルフレッドはいなくなり、だれからも畏怖される存在へと変わった。


――――――――――


 リサが炎を放った。だがファナの手前1メートルで見えない壁に阻まれ、消えてしまう。

 続いて全方位から炎の矢を浴びせるも、結果は同じこと。

 今のリサにはわかる。風魔法だ。空気を操って炎を消してる。

「たしかに、火力は高いですわね。まあ、だからどうしたという話ですが」

 リサの周囲の床がめくれ上がり、覆いかぶさってくる。よけると、背後に気配。

 さっと身を下げる。頭上を太い腕がかすめた。振り返りざま馬蹴りを食らわす。

 それは黒い鬼だった。

「やりなさい、ロマーノ」

「ぐおおおおおおおおおお!」

 鬼、ロマーノは赤い目を爛々と輝かせ、リサに襲い掛かってくる。リサの胴ほどもありそうな腕が振り回されるが、リサは危なげなくかわす。

「まだ物足りなそうね」

 ファナはそう言って、呪文を唱え始めた。複雑な術式が描かれ、世界の扉を開く言葉が発せられる。

 朗々と続く呪文はぴたりととまり、ファナは凶悪な笑みを浮かべる。

「ラガベル」

 青い竜が現れた。硬いうろこに覆われ、空中に浮かぶ巨大な蛇。ファナの周りでとぐろを巻き、指示を待つ。

 ファナがそっと竜の目元に触れた。

「あの女を食らいなさい」

 言下に、竜は飛び出す。リサを一飲みにせんと口を開き突進した。

 リサは竜の口へ業火をぶち込む。わずかに動きが鈍った。その隙にロマーノを蹴り飛ばし、二体から距離を取る。そこへ氷の刃が飛んできた。ファナは無数の刃を作り、リサへ浴びせかける。

 ロマーノの気配が消えた。次の瞬間、背後に現れ、リサに殴りかかる。

(妙な能力ね)

 パンチをよけ、がら空きになった胴に炎を叩きこむ。ロマーノは絶叫しながら身もだえする。とどめを刺そうとするも、鬼の体が霧のようになって消えた。

 ラガベルの口から青い炎が放たれる。リサはかわすも、その先の地面が棘上に変わる。魔力を身体強化に回し、棘を蹴り砕いた。

 入口が音を立てて開く。入って来たのは金属製の人形、ゴーレムだ。

「時間がたつほど不利ですわよ」

 ファナは嫌らしく笑う。

 リサは遠距離から高温の炎を放った。だがゴーレムは無傷。

「炎使いとわかって呼び寄せたんですのよ。対策してあるに決まってるでしょう」

 ゴーレムの手は刃物になっており、リサに切りかかる。

 アルフレッドと比べて魔力は多いのだろう、攻撃力の高い魔法を次々と繰り出す。

 だが、不思議と余裕があった。自在に姿を消せる鬼、巨大な竜、炎に態勢のあるゴーレム、殺傷性の高い魔法を使う術者。これだけの数を相手にしながらも、戦いにくさを感じない。

 考え、その答えに到る。連携だ。個々の敵は強いが、連携が取れていない。ひとつずつ対処していれば負けることはない。てっきりこちらの隙を引き出すための誘いかと思っていたが、その様子もない。

なら、過度に警戒する必要もない。

 ゴーレムが二つの刃を振り下ろす。リサがそれを受けると、背後からロマーノが迫ってくる。だが、やはりタイミングがずれている。

 ゴーレムの顎を蹴り上げた。丸い金属の頭がひしゃげて飛んで行った。ゴーレムの態勢が崩れた隙に刃から逃れ、体のひねりを使って胴体を蹴り込む。ゴーレムは破壊されて動かなくなる。

 ロマーノとは一足の距離。だが迎撃態勢は整っている。手のひらで圧縮していた炎を解放。体を消す時間を与えず鬼を消し炭に変えた。

 頭上から竜が迫る。リサは地面がへこむほどの脚力でジャンプし、竜の頭上に現れた。空中で身をひるがえし、竜の天頂に膝蹴りを入れる。

 竜は地面に叩きつけられた。リサは横たわる竜の頭をつかみ、内部で炎を炸裂させる。

 竜のあらゆる穴から炎が溢れ、体を大きく震わせると沈黙。

「え、う、嘘……レベル7の悪魔ですわよ……?」

 ファナは後退りした。リサが一歩進むと、尻餅をつく。次の手を打たねばならないのに頭が働かない。ラガベルを一瞬で倒した女に勝てるイメージが浮かばない。

 考えれば考えるほど混乱が加速する。なんでもいいから何かしないと。そう思った矢先、リサが鼻で笑った。

「なんだ、こんなもんか。警戒して損した」

「は、はあ…?」

「アルくんのこと手ずから始末するんだっけ?」

 またも鼻を鳴らす。冷たい微笑。

「よく言えたね。こんなに弱いのに」

「なん、ですって」

「いいよ。待ってあげる。召喚魔法は時間かかるんでしょ? 一分でも一時間でも。ほら、一番強いの出しなよ」

「舐めるな!」

 景色が変わる。図書館は消え、何もない荒野にひとりで立っていた。

「幻覚か」

 ファナは残りのゴーレムに指示を出す。幻想に囚われたリサから離れた。リサの目には現実世界の光景は見えず、音も聞こえない。

 二体のゴーレムが到着。リサに飛び掛かった。

 真っ白い炎の柱がゴーレムを飲み込む。肉体は溶け、内部の術式すら破壊された。完全なスクラップとなったゴーレムはリサの左右に落下。地面を転がっていくと、壁に当たって動きを止めた。

 リサはファナへ向かって歩みを進める。

「これでなんとかなると思ったんだ。大した脳みそだね、先輩」

「は、あ、……あああああああああ!!」

 ファナはめちゃくちゃに魔法を放った。炎を出し、物を操ってぶつけ、部屋にストックしてあるすべてのゴーレムを使った。

 すべて無駄なあがきでしかなかった。リサの炎はすべてを飲み込み、消し去る。強化された肉体は傷一つつかず、魔力は底なし。

 化物、ファナはそう口ずさむ。

「ずるですわ、ずるですわ、ずるですわ! なんなんですの、その魔力量! ありえない、こんな……こんな差があって、どうしろっていうんですのよ! ずるですわ、そんなの……っ」

 涙さえ浮かべながら叫び続ける。

 リサが一歩進むと、ファナは「ひっ」と悲鳴をあげる。

「アルくんは言い訳にしなかったけど?」

 リサの姿が消える。一瞬でファナの目の前に現れ、拳を作った。移動したスピードを拳に乗せ、正拳を突く。

「いやあ!」

 ファナが悲鳴をあげ、拳は鼻の先でぴたりととまった。

「あ、ああ……」

 ファナが気を失う。スカートから水が流れ出た。

「……やりすぎたか」

 リサは鼻を覆う。あとでなんとかしよう。

 ファナが気絶した途端、探知魔法に反応があった。リサは階段を登り、二階を覗く。手すりの陰にクレアが眠っていた。

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