ファナ・ドゥーラン
廊下に出ると、クレアはリサに詰め寄る。
「リサ! あんまりアルフレッドくんのこと刺激しないほうが……危ないよ?」
「だから扱いよ。野生動物か」
「なんであんなにこだわるの? そりゃ、一緒にやってくれたら心強いけど」
「それもそうなんだけど。アルって友達いなさそうだから、気になって」
「アルフレッドくんにはリリアさんがいるから、それでいいんじゃない?」
「そのリリアさんが『ご学友は作るべきです』って言ってたし。やっぱ同年代の友達って大事だと思うんだよね」
「……リサって、爪弾き者にやさしいよね」
「別にそんなことないと思うけど。まあ、仲よくできたほうが楽しいでしょ」
話していると資料室に到着。クレアが水晶板に数字を入力すると扉が開いた。
「この扉、ちょっと身体強化すればぶち破れそうだよね」
「魔法で強化はされてるよ。まあ、リサなら突破できるだろうけど。でも、やると退学だから」
「退学は嫌かも」
「退学じゃなかったらやるつもりだったの?」
扉をくぐると広大な空間に出た。
壁際は本で埋められ、中央にはテーブル。そこから放射状に机が伸びている。天井まで伸びるはしごは移動式。壁際にぐるりとめぐる足場が二階と三階を作っており、天井はドーム状。夜なのに採光窓からは光が差し込んでいる。
「壮観だね」
「本読まない人でもそう思うんだ」
「思う思う。昔、イギリス旅行行ったとき大英図書館とか行ったし。借り方わかんなくてなんもせずに帰ったけど」
借りれたところで英語はもちろん読めないし、そもそも日本語の本も読まないのだが。
「騒がしいですわね、ここをなんだと思ってるのかしら」
二人の会話を、棘のある声音が遮った。
二階を見ると人影。二人を睨みながら降りてくる。
「見ない顔ね。もしかして鍵を外したのかしら? だとしたら退学ね」
「違うって。ちゃんと許可もらったの。アル……アルフレッド君に」
「アルフレッド?」
その名前に反応したのを見て、クレアが口を開く。
「は、はい! えと、こんばんは。ファナ・ドゥーラン先輩」
リサはクレアの顔を見る。それからファナという少女を見た。
身長は小さい。140センチ前後。顔立ちは整っているが、吊り上がった目つきのせいでキツイ印象を与える。手も足も細く、リサの半分もない。上位生であることを示す金の縁取りのあるガウンを着ていた。
「私たち、甥のアルフレッドさんに許可をもらっています。騒がしかったことは謝りますので、ご容赦ください」
「甥!? え、兄じゃなくて!?」
「あなた失礼ですわね」
ファナの額に青筋が立った。
「品性のない成り上がりと、魔法をつかえないなりそこない。なるほど、あの落ちこぼれとはお似合いですわね」
「落ちこぼれ?」
「そうですわ。あんな家に捨てられた人間に、家名を名乗らないでいただきたいものですわね。ドゥーラン家の名前に傷がつきますわ。もっとも、あなたのような平民に、家名を重んじる気風は理解できないでしょうけど」
「ねえクレア。こいつの顔面にパンチくれていい?」
「やめなよ、この人の序列は二位だよ! アルフレッド君より上だよ!」
「大丈夫だって。あたし前よりもっと強くなってるから」
「ちっ…耳障りですわね」
ファナが指を鳴らす。
クレアが消えた。
リサは周囲を見渡す。どこにもいない。さっきまで隣にいたクレアが、声も姿もない。
「なにしたの?」
「さあ、なにかしら。おバカさんは知ってることが少なくて大変ね」
リサは全身に魔力をめぐらす。探知魔法を使い、全方向を警戒。
「あらあら、物騒ね。私が何をしたっていうのかしら?」
「今すぐクレアを返してくれるなら許してあげるけど?」
「怖い怖い。そんなに怒らないでくださいな。悪いことはしてませんわよ。人になりそこなった、魔法の使えない欠陥品をひとつ処分しただけですもの」
「本気で言ってるの?」
「本人だって消えたほうが幸せでしょう。学園にいたって肩身が狭いだけですわ。ホムンクルス風情が調子に乗って……。少し追い詰めればすぐにやめるかと思ったのに、しぶとく耐えたものですわね」
リサは怪訝な顔をする。
「あら、勘が悪いですわね。皆まで言うのは面倒ですけれど、簡単に言えば免疫作用ですわ。なりそこないや落ちこぼれという異物を排除するためのね。まあ、アルフレッドの方は失敗しましたけど。いずれ私が手ずから潰してさしあげますわ」
リサはもう話を聞いていなかった。
こいつはぶん殴る。




