祖母
寝坊した!
《朝ご飯だけは皆で一緒に》がお婆ちゃんちの決め事だ。
初めてお婆ちゃんに起こされてしまった。
慌てて制服に着替えて階下の食堂に急ぐ。
知子お婆ちゃんと智寿子おばさんが席に座って待っている。
家政婦さんがご飯の用意をしてくれる。
「寝坊なんて珍しいわね」
「疲れがでてきたんじゃない?」
二人が心配している。
俺は頭をペコリとさげお味噌汁を頂く。
三人しかいないのに、この家は無駄に広すぎる。
どれだけの部屋があるのか数えたこともない。
二人いる家政婦は隣の離れに住んでいるし、智寿子おばさんの息子・玲宣さんは仕事が忙しいらしく半年に一度しかこの家に顔を出さない。
隣の離れから「行ってきます」と声がする。
家政婦二人とももシングルマザーで、その娘の声だ。
家政婦の一人和子さんは中高校生の娘が二人いて、顔は出さないが、挨拶だけはするようだ。
あっ!苗字を訊いたことがなかった。
もう一人の里美さんは五歳の息子が一人いて、保育園に行くために母屋にやって来る。
「おばちゃん、おにいさんおはようございます」
辿々(たどたど)しい挨拶が可愛い。
「連れて行ってきます」と里美さんが自転車で出ていく。
自分もそうだったからと智寿子おばさんがシングルマザーの人を優先的に雇っている。
勿論、家事特に料理が出来る人が条件ではある。
俺はご飯をかきこみながら席を立つ。
自転車で二十五分、ギリギリで大丈夫だ。
「雨降りそうだから車使いなさい」
「甘やかさないでいいよ」
「ところで学校の部活とかは?」
祖母の突然の問いに俺は動揺する。
「部活はしない。倶楽部はカメラ倶楽部かな?」
誤魔化す。
絶対にミステリー倶楽部などとは発言できない。
お婆ちゃんは不思議が大嫌いなのである。
俺は不思議の塊なのに……
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