実家
朝、『おはよう』と猫なで声で挨拶してくるのは、”ロウ“と言う名の化け猫である。
見た目は短尾の三毛猫。ただ右眼に刀傷のある隻眼の猫だ。
勿論、妖の化け猫であるが、悪霊を消す時に紅き右眼を開き我々を助けてくれる。
江戸時代末期にうちの祖先(千部本)に助けられたらしく、『末代まで恩を返す』と言ったらしい。
呪われなくて良かった。
今のところ五年から四〇年位の間隔で転生を繰り返し、その度に新しい主人に名をもらっている。
今は弟の桜珠が主人になっているが、一年程前までは俺が主人で“九重郎”という名前だった。
“縁の糸”が切れた時の寂しい気持ちをお互いが持っている。
昨日入学式だったので、俺は制服姿を見せに実家に帰っていたのだった。
今は隣県の祖母の家に間借りして高校に通っている。
母方の祖母は離婚し陰陽師宗家の倉橋家とはもう縁を切っている。
また祖母の両親も兄も他界しているので、今は親友で兄の嫁となった登喜子さんと二人で暮らしている。
かなりの財産家らしく、かなり広い屋敷だ。
祖母の家には今でも運転手と家政婦がいる。
そこに間借りして、時々実家に帰る暮らしを俺は選択した。
一晩実家に泊まって今朝は九重郎ではなく……ロウが僕を学校まで送ってくれるらしい。
化け猫に変化し空を駆ければ一瞬だ。