ヤンデレ彼女と彼氏くん
「はぁ……。まだ連絡来てないよ」
ドスン、とベットに突っ伏する。柔らかい枕が気持ちいい。けれど、私の気持ちは沈んだままだ。
私は早瀬唯。どこにでもいる平凡な中学3年生だ。私にはなんと―――彼氏がいる。
彼は平凡な私と違い、いわゆるスクールカースト上位の陽キャだ。そしてテニス部のエースでもあり、学級委員でもある。くるくるとした天然パーマで、身長は高め。チェシャ猫のように細い目で、少し猫背で気だるげ。だけど、本気の時はすごく一生懸命で、真剣で……。すごくかっこいい。本気で惚れるわ。それで……っと語りすぎた。
いやほんと。なんで私が付き合えたんだろうね。実はドッキリとか?そのくらいしか想像できない。彼からの告白だったから、有り得なくもない。罰ゲームで告った、とか言うのも有り得る。
まぁ、実際のところ聞いてみたのだが。
「俺のこと信じてないの?」
って誤魔化された。ちくせう。可愛いかよ。コロッと転がされた。
そんな彼氏だが。最近話してくれないのだ。ちなみにクラスメイトには付き合っていることは伝えていない。それでも「おはよう」とか、クラスメイトとしては話してたのに……。
なのに最近はめっきり。目があってもすぐそらされる。そして当てこするかのように他の女の子とは楽しそうに喋る。さらにLINEも、ない。いつもは3日に1回はあるはずなのに。
――そうして冒頭に戻る――
「やっぱり、ドッキリだったのかな……。でも、このままとか、絶対嫌だよ……」
目頭が熱くなる。涙が頬を伝う。
「……ううん。もやもやしたままよりも、行動だよ。本人に聞く……のは無理だから、とりあえず調査からだ。それから、考えよう」
そうして私の作戦が始まった。
まずは聞き込み調査だ。早速クラスメイトに、っと行きたいところだが。
あいにく私のスクールカーストは底辺に近い。いわゆる''クラスメイトA''くらいの立ち位置だ。そんな私がスクールカースト上位の彼について聞いて回ったら。
「はい、学校生活終了〜。お疲れ様でした〜」といった事案になる。
具体的には
「早瀬、あいつのこと好きなんじゃね? うわあ(笑)きっつ(爆笑)」
となるだろう。もしくは、
「あwいwつw。罰ゲームで付き合ってることまだ気づいてないwww。ウケるwww」
と言った事案に……。
そんなことが起こった暁には、本当に私の学校生活は終わりを告げる。今まで平穏に目立たず過ごしてきたのが、パァだ。
そこで私は考えた。考えに考え、朝から昼まで頭を抱えた。そしてお昼ご飯を楽しんで、お昼寝をして、おやつを食べて、悩み抜いた。
そこで思いついた。
――盗聴器を仕掛けたら良いのだと――。
いやぁ、これを思いついた時は我ながら天才かと思ったね。こんないい案を思いつくなんて。私のIQは1億くらいあるのかも。
ネット通販を見てみてみると、案外安価だと言うことがわかった。中学生のお小遣いでも何とか買える。早速購入。即日配達の通販を頼む。もちろんコンビニ受け取りで。親にバレたら困るしね。
そして追加で必要物資を購入。代金は合計すると結構な痛手だが、背に腹は変えられない。お年玉貯金を切り崩せばなんとかなる。
これらの物資は今日の夜9時に届く。幸いにも今日は日曜日。明日仕掛ければ1週間まるまる調査できる。
――やってやろうじゃん。罰ゲームか、本当か、白黒つけて、はっきりさせよう。
……とか豪語してても、期待しちゃうんだよなぁ。
ジリリリリッ!ジリリリリリッ!――バシッ。
「うぅん……。もう朝……? はっ、今日は作戦決行の日か。道理で暗いはずだよ」
現在は午前2時。まだ夜だと言ってもいい時間。辺りも未だ真っ暗だ。
ゴソゴソとベットから這い出し、着替え始める。着替えるのはもちろん制服ではなく、闇夜に紛れる黒いワンピース。そして、同じく黒のキャスケットを目深に被り、髪の毛を収納する。サングラスとかマスクだと流石に目立つので、伊達メガネをかける。
――よし。変装完了。
そして黒いリッュクサックの中に、盗聴器と昨日買った必要物資を入れる。ちなみに昨日買った盗聴器はキーホルダーに偽装してある。かなり奮発して超小型のやつを買ったからね。これならバレないし、しっかり聞けるだろう。
こっそりと窓を開け、用意していた黒い靴を履いて、家を出る。ちなみに私の部屋は1階にある。忍びでるのが簡単でありがたい。親に感謝だ。
さて目指すのは彼の家。家の住所は知っている。前に1度教えてもらったことがある。……さすがに行ったことは無いが。
私の家とは割と近い。歩いて10分ほどだ。なるべく人通りが少なく、暗い道を通る。防犯カメラ等は地方だからかほとんどない。コンビニに申し訳程度にあるだけだ。
そんなことを考えているうちに、彼の家に到着した。彼の部屋も私と同じく1階。前にそう言っていた。部屋の位置は流石に知らない。けれど窓から覗けば、わかってしまう。
なぜって?彼はカーテンを閉めない派だからだよ。意外と大雑把なんだよね。
さてまずは庭に侵入。私の背と同じくらいのブロック塀があるが、侵入は簡単。いくら文化部の私といえど、そのくらいなら乗り越えられる。なるべく音を立てないように、こっそり忍び込む。
……トサッ。よし、侵入完了。
さて次は彼の部屋だが。どこだろうか。早速右端から覗いていこう。
……ん。ここはハズレだね。物置かな? 明かりも着いてないし、ものがいっぱい詰まっている。
……さてお次はっと。にぎゃゃゃゃゃゃゃ!!お父さんとお母さんかな?キスしてる。それも濃厚なやつ。…一瞬お父さんと目が合ったかと思ったぁ。
……うん。よし。私は何も見ていない。そういうことにしておこう。
……気を取り直して。3つ目の部屋はっと。おっ。ここは正解だ。彼の部屋だね。窓の近くに学校のカバンが見える。彼はカバンに私があげたキーホルダーをつけてるからね。見間違えようがないよ。
部屋の中は真っ暗だし、布団も盛り上がってるから彼は寝ているようだ。安心して作業に取り組もう。
さて窓の鍵はっと。音を立てないように窓を動かす。
おぉ!かかってない。ラッキー!私のlack値カンストしてるかも!
解錠用の機械買っといたけど、使わなくて済んでよかった。使うの微妙に不安だったんだよね。使ったことないから。
早速窓を開ける。もちろん軋む音がしないよう、ゆっくりとね。次に窓辺にあったカバンを手繰り寄せる。そして、持ってきていた盗聴器入りキーホルダーと彼のキーホルダーを交換する。
私があげたものだからね。全く同じものを用意するくらい、おちゃのこさいさいなのさ!イージーなのさ!
盗聴器を仕込むのはアクセサリーとかも考えたけど、なかなか渡すハードルも高いし。校則緩いから、つけて行ってもOKとはいえ、なかなかつけてくれないだろうし。
まぁここまで考えられるのも私が天才だからだろうね! さっすが私! 冴えてるぅ〜!
よし任務完了!あとはバレないように帰宅して、二度寝をするだけ……。
ジリリリリッ!ジリリリリリッ!――バシッ。
「うぅん……。もう朝なの? まだ寝足りないんだけど。……はっ!学校に行かねば!」
どことなくデジャヴを感じながらゴソゴソとベットから抜け出す。早速制服に着替え、朝食のトーストを食べる。うん、美味しい。ついでに食後のコーヒーブレイクを楽しむ。そして耳にイヤフォンをつけ、髪で隠し、家を出発する。
ちなみにこのイヤフォンは盗聴器に対応していて、盗聴器で聞き取った音をリアルタイムで聞くことが出来る。私が財政危機に陥った原因は、こいつと解錠機が八割を占めている。なかなかにいいお値段がした。
あー、マイクテスマイクテス。ってこれは違ったっけ? まぁいいや。とりあえず音声はしっかり聞こえるようだ。
そんなことをしていると学校に到着。実を言うと、私の家は学校までめちゃくちゃ近いのだ。徒歩3分くらい。だからぼっち登校でも寂しくないね!
……それは置いといて。
教室に入り、カバンを片付ける。そして、本を取りだし読むふりを始める。
――よし!準備完了。これで誰にも邪魔されず、盗聴、もとい調査ができる。
さてさて、私のことをなんて言っているのかな?
まぁでもあんまり収穫はないかも。だってクラスメイトには秘密にしてるから。
――ガヤガヤガヤガヤ。
『おい颯太ー! 学校行こうぜー』
この声は彼の幼なじみの宮間くんの声。そして、颯太は彼の名前。どうやら学校に行くところのようだ。
『ふわぁ。はよ、みや。その某人気アニメのキャラみたいな呼びかけ何とかならないのかよ』
『おう。まあまあいいじゃねぇか。細かいこたァ気にしないでさ』
『いや良いんだけどね。毎朝起こしに来てくれてご苦労なことで』
『ほ、ん、と、それな! ……てかさ、お前彼女いんだろ?俺じゃなくてそいつに起こしてもらえよ』
『……』
『お、おう……。頼むからその顔辞めてくんねぇか? 割とマジでキツイから』
……ん?とりあえず2つほど確認したい。
まず、宮間くんが私達のことを知っていることについて。秘密にしてたはずなんだけどな。
……あー、思い出した! 確か親友には言うって言ってた気がする。なるほど。親友って宮間くんの事だったのか。幼なじみで親友とか羨ましいわ、宮間くんが。代わって欲しいんだけど。
ってそれは置いといて。
そして2つ目。宮間くん曰く「割とマジでキツイ顔」。これが何なのか。単に照れてるだけなら全然いい、というかむしろ嬉しいんだけど。私のことが嫌で顔顰めてるとかほんとやめて欲しいなぁ……。
とりあえず調査を続行するか…。
『ねぇみやー。今日って体育あったっけ? バスケだった気がする』
『ハッハッハ。颯太も耄碌したな。今日はお前の大好きなプールだぞ?』
『うぇ…。死んだ。俺は休む』
『颯太ホントカナヅチだからな。まァ頑張れよ。大爆笑してやるからさ』
『うっせ…はぁ…』
……なるほどなるほど。彼は泳げないのか。これはいい情報を聞いたかも。プールとかは誘うの控えといた方がいいかな? ……まぁ夏まで付き合ってたら、の話だけどね。はぁ……。
『まァそう落ち込むなって!人生何とかなるもんだぞ?……はっざまーす!』
『はよーございまーす』
お、どうやら学校に着いたようだ。道理で周りがガヤガヤしているわけだ。
――バタッ。…カタッ。……トントン。バタッ。
うーん音的に靴箱かな? ならもうすぐつくはずだ。私達の教室は1階にあるからね。
なんか普通の学校は3年生が最上階にあるらしいけど、うちの学校は反対だ。曰く、年上を敬え的な。という訳で学年が上がるほど、階段を登る労力が少ない下の階になるらしい。
…まぁいつの時代だよっていう感じだけど。
『ところでさ。言っておきたいことがあるんだけど』
…おっと。内緒話かな? えっこれ私聞いていいやつ?
『ん? なんだ颯太? トイレか?』
うん。君はホントに安定だわ。デリカシーについて1回調べてきて欲しいんだけど。
『違うよ。……俺さ、彼女のこと大好きだから』
……ふぁっ!? い、いきなりの不意打ちですって!!
『最近話してないけど、それはちょっと可愛すぎて照れてるだけだから』
……えっちょ…え? じゃあ私のことが嫌なわけじゃないの?
『だからさ、心配して盗聴なんてしなくていいよ?』
…え、バレてる……? そんなバナナ……。
「『ね、ゆーい?』」
…え、なんか声が二重に聞こえるんですけど。それに肩に感触が……。
私は怖々後ろを振り向く。するとそこには
満面の笑みを浮かべた颯太がたっていた。
「え……い、いつから?」
「もちろん最初から。だってゆいは考えてることがすぐ口に出てるんだもん」
「私…颯太の前で調査計画は立ててないよ?」
「うんそうだね。家の中で考えてたもんねー。おやつとかお昼寝とか挟みながらも一生懸命考えててくれてて……。めちゃくちゃ可愛かった」
「え……なんで知って……まさか」
「せーかいっ。俺は付き合ってからずーっと仕掛けてるよ? ホラ、ね」
そう言って彼は自分の耳と、私の左の小指を指す。彼の耳にはイヤホンが、私の小指には彼からもらったリングが嵌っている。
「だから……一生離さないよ? ゆーい?」
ちなみにこの後私達は周りからめちゃくちゃ揶揄われた。まぁ引かれなかっただけいいけど……。解せぬ。
彼氏くん、こんなヤンデレのはずじゃなかったのに……。
オチの都合上仕方なかったのです。