おしぼり
焼肉屋さんに入った。薫は今まで行った事がないらしい。他にも外食は無いと言ってた。
今の環境では当然の事と察しがつく。
焼肉屋さんに行く事を伝えると、最初は渋い顔をした。
お金を心配しているかもしれない。
「今日は焼肉を食べたいの、付いて来なさい」
「どうせ食べ放だから、好きに食べさせてあげる」
薫は頷いた。顔に嬉しさがにじみでてる。
この前買った服で行こうとした薫を着替えさせることにした。クローゼットから白の服を出すと、それを薫に着せた。焼肉のにおいがつくから、そのまま捨ててやる。
サイズが大きかったけど、袖を折ったりして大人っぽくしてみた。
薫は私の後を付いて来ようとしたので、横に並ばせる。折角の美形破壊力。私を照らしてもらおうじゃない。今日の薫は付き人の役目。お肉を焼く役。今まで、白のために世話を焼いたけど、今日は、薫に私の役をやってもらうつもり。
テーブルにつくと、タッチメニューを操作してドリンクを頼む。
ウーロン茶と炭酸。そして、牛タンとサラダ。運ばれてくると、乾杯をしてお肉を焼き始る。
焼きながら、焼き方を教え、タッチメニューの操作を教える。
食べたいのは脂め少ないお肉、サイドメニュー、ちょこっとホルモン系。
そして、次々と薫に注文し、薫は嬉しそうにお肉を焼いて、せっせと食べごろのころに私の小皿に置いていく。早いと注意!私の食べるスピードに合わせる事が大切ね。
1時間が過ぎた頃、薫がトングを持ちながら手持ち無沙汰にしていた。
「薫は食べないの?」と聞いた。
『碧さんの残りを頂いてます』と答えた。
私はお腹がいっぱいになってきた。
薫は注文と焼き役、余ったお皿の整頓で忙しかった。そして、話の相手をひたすらしている。話し出すと箸をおいて、しっかりと聞いている。自分が「おあずけ」をさせられている事すら気がつかない。下僕『薫』がペット『カオル』になってる。この子は、、、、。心の中でつぶやきながら。
「男の子なんだし、ご飯頼もうか?、食べたいでしょ?」と聞いた。
『はい』と元気良く答える。
「お肉は?」と聞くと
『まだ、残っているので』
「分かった」と言った。
本当に残り物でご飯でもと思ったけど、やめた。今日は会ってから、ちょっと意地悪。薫はいつも通り私のいう事をうのみにしてる。そして、ああ、そうか、、、。この子人の悪意が分からないだ。
「だったら、カルビも頼もうね」と言うと不思議そうな顔をした。カルビって知らないんだ。ふーん。
ごはんとカルビが運ばれてきた。脂肪と炭水化物は無敵よ!
勢い良くお肉を焼きだすと、ほとんど生に近い状態でタレに漬け、ご飯と一緒にかき込む。あまりの速さに驚いた私は思わず、「もっと頼もうか」と声を掛けて追加注文をだした。
「他のは?」と薫に聴くと。
『ご飯とカルビで十分です』との答えだった。
食べる・食べる。若い子ってこんなに食べるのと言うほど食べる。私より小さく華奢な体で、私より何倍も食べていく。喜ぶ顔と必死に食べる姿をみて、途中から私が焼いてお肉を薫に渡す。
それも、あっと言う間に消えていく。
ほどなく、冷たいオシボリが到着した。
私は何のことか分からなかったが、薫は『ずっと焼いてくれてたから、手が熱いから』と言って、はオシボリを広げて私の右手を覆った。
やめろ、その美形で優しくするのわ。
思わず、「ありがとう」と口に出してしまった。