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  作者: ぴのり
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捻挫

朝から力が入らない。この空虚からずっと抜け出せないでいる。


唯からの誘いに今回は乗ることにした。

カットソーの白いシャツに黒のパンツ、ハイヒールを履いた。

日の当たるところに出るのは久しぶりだ。世界が黄色く見える。



サラダを突付きながらあきらとの今までの経緯を話した。

結婚破棄にした白と妊娠した女から慰謝料を取ったこと、結婚まで至らなかったこと。

少しずつ、昔話になり。少しずつ、昔の男の話になった。

ふった、ふられた。天秤が右に傾いたり左に傾いたり。

ソフトドリンクが次の店ではカクテルになった。

心の中では社会的に抹殺されたと思っていたが、勤めていた会社の世界からの退場だけに思えてきた。


それでも、心の奥底は釈然としなかった。


互いに繋がっていると思っていた白との時間。

白の相手を憎んだ頃もあったけど、今となっては男への憎しみだけ。


唯と別れて、新婚生活を送るはずだったマンションに帰宅する途中のことだった。


ブレザーを着た男がよろけて不意に横から押された。

右足で踏ん張ったつもりだったが、ヒールが折れ、そのまま倒れた。

「きゃ」

痛みで声がでない。かかとが膨らんでいく。

『すいません』の声が掛かり、その男がバックから白い帯を取り出し、いきなり私の足に巻き始めた。

何が起こったかわからない。男はしきりに謝っている。

髪が目に掛かるほど長い、ぼさぼさの頭。見覚えのあるブレザー。

幼稚園から大学までストレートでいける有名私立の学生だ。


なに、このガキ。

「何すんのよ!」と声を出そうとしたが、でない。今までの辛さと痛みと相まって涙が流れてきた。

折れたヒール、汚れてしまったシャツ。


立ち直るきっかけを唯に作ってもらったのに、いきなりの奈落。

私の怒りは頂点に達していた。


私はブレザーの襟を掴むと、「携帯と身分証を出しなさい」と男に言った。

あっけにとられた男は『すいません』と謝るだけだった。

そして身分証と携帯を取り出した。

「じゃあ、学生証と携帯は預かっておく」と言って、男の手から奪い取った。

「返して欲しなら、明日、親と謝罪に来なさい」

私はタクシーに乗って救急病院へ向かった。


うかつにもマンションの住所を教えてしまった。




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