2.
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いま目下で元婚約者だった女の判決が下される。
私に婚約を破棄された事を恨んで反乱まで企てたとの事で、他にも聞くに耐えない罪状が読み上げられる。最初はこんな女では無かった。幼い時には良く私の相手になってもらい一緒に色々なことをして遊んだ。歳上の彼女は私を優しく、温かく見守ってくれていたと思う。私もそんな彼女を好きになっていた。
彼女が変わったのは私が王立学園に入学してからだ、先に学園を卒業していた彼女は私の補佐を兼ねて講師として赴任してきた。そんな彼女は私に王族の立ち振る舞いなど学園内ではさして重要てはない事を細かく指摘してくるようになった。次第に彼女の存在が息苦しくなるようになり、私を王族としてではなく親友で同級生として見てくれる者たちに比べ王族と言う肩書ばかりに拘る彼女に不信感が募った。彼女は私ではなく王妃になれるのなら誰でも良いのではないかと。そう思うと彼女が仕切りに体面や王家の在り方などを説いてくるのも頷けてくる。私が好きだった優しく温かく見守ってくれた彼女はすっかり権力を求める卑しい人間になってしまったのだと思うと裏切られた気持ちで一杯になった。
そんな私を癒してくれたのがフローラインだった。身分は男爵家と低いがそんな身分差は関係なく私を一人の男として接してくれて慰めてくれた。親しくなった私はフローラインに彼女の事を相談した。フローラインは私のために怒ってくれ、裏切り者には仕返しをすべきだと訴えた。裏切りの代償として彼女の一番望むもの…王太子妃としての地位を取り上げたらどうかと提案してきた。流石に先々代が直々に決めた婚約を私の一存では破棄できないと伝えると、フローラインは考えがあると言って彼女との婚約を破棄するための計画を進めてくれた。
計画は学園卒業式前の宮廷晩餐会で行われた。計画に多少の不備があり一時は私が責められたが、彼女が全面的に非を認め無事に婚約破棄は成立した。私は裏切られた思いも込めて決別の言葉を叩きつけた。
そして、初めて泣き崩れる彼女を見た。いつも気丈に振る舞い動じることがなかった彼女が見せた初めての弱々しい姿だった。
しかし目下の前にいる彼女は昔の威厳を取り戻したかのように堂々とし散々悪辣なことを企んだ者共の首謀者とは思えない凛とした態度だった。
そんな彼女に判決が下された投石の上での火炙りで1週間後に執行される手筈となった。漠然と判決内容を聞きながら思い返すのは幼き日のあの頃のソフィの優しい笑顔だった。
死刑囚は看守達からぞんざいの扱われがちなので元婚約者の最後の慈悲として丁寧に扱うよう看守達にいい含めておいた。処刑当日は見るに耐えなかった。底辺まで落ちたとはいえ、かつては愛したこともある人がなぶられ焼き殺される姿を直視することは出来ないと思えた。フローラインは嬉々として私を裏切った報いだと言っていたが。私はそこまで深く憎むことは出来ずにいた。
せめて最後の瞬間だけでもと見届けられたらと火が焚べられる時の彼女の様子を覗き見た。額から血を流しながらそこにいた彼女は気丈な態度でも、堂々とした様子でも、ましては弱々しい姿でもなく、ただ優しく微笑んでいた。あの時と変わらない私が好きだったソフィの笑顔のままに。瞬間涙が自然とあふれ出た……
私はいまさらながら大事な物を失ったことに気が付いた。取り返しがつかない今この時になってようやくだ。私は自分の余りの愚かさに呪い絶望する。私はただの我儘でソフィから笑顔を奪っていた。本当はただソフィに笑いかけて欲しかっただけなのに自分の本心に気付かぬまま、その笑顔を曇らせ、あまつさえ遠ざけてしまった。周りの甘言にうつつを抜かし本意を悟ろうともせず自己満足のために行動する。そんな醜態を晒しておきながら一方的にソフィを悪と決めつけ弾劾した。そんな時でさえソフィは最後まで私を庇ってくれたと言うのに……
私は無駄だと分かっていながらもソフィに焚べられた火を消すために処刑場に向かう、途中で護衛の騎士に止められてしまい、私は騎士を押し退けようと足掻く、ただ目の前のソフィを少しでも楽にしてあげたくて火を止めたくて無様に足掻く。目の前で炎に包まれ人としての形をかろうじて保つソフィにただ謝りたくて無様に叫んだ。
「私の一番の過ちは貴方の愛情を疑ってしまったこと」
「貴方の献身に何も返すことが出来ない無能な私を許してくれ、済まなかったソフィ」
私はそのまま騎士に押し潰される様に地に這いつくばると嗚咽を堪えきれず惨めに泣き叫んだ。
突然の乱入者に市民も騒然とする中
ソフィアを包んだ炎だけは煌々と輝いていた。
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