1.
短編になります
少しでも楽しめたら嬉しいです。
わたくしソフィア・エレノアはこれから稀代の悪女として処刑されます――――
わたくしの生家。エレノア家は地方侯爵家とは言え譜代の臣として長らく王家に仕え忠義と言うのを最も尊ぶ家でした。
そんなエレノア家の忠義に応える形で先々代の王であるアルジェント陛下が生まれたばかりのお孫様の婚約者として私を指名してくださったのが齢3つの頃だとお母様から聞き及んでおります。
そこからしばらくすると将来の王太子たるアルフレッド殿下に嫁ぐための厳しい王太子妃教育が始まりました。
もちろん王太子妃になるための教育は一朝一夕には行かず子供だった私は何度も逃げ出そうとしました。最後は泣き喚いて自分から婚約破棄まで訴える始末でした。しかし、そんな私を変えてくれたのが、その時初めてお会いし、まだ齢2つになったばかりのアルフレッド殿下が見せてくれた純粋無垢な笑顔でした。私は幼いながらもこの方を守らねばとの思いを抱き、それからは心身共に捧げる覚悟で王太子妃教育に取り組みました。
その甲斐もあり自他共に認めて頂ける王太子妃に近づいたと思っておりました、今思えば恐らくそれは私の驕り高ぶった卑しい心根そのものだったのでしょう。
最初のすれ違いはアルフレッド殿下の王立学園入学の時から始まっていたと思います。既に学園を卒業していた私はアルフレッド殿下の補佐も兼ねて臨時の講師として学園に赴任しました。まだ王族とは言え遊びたい時期のアルフレッド殿下につい厳しく接してしまい言われた言葉があります。
「ソフィは僕自身ではなくて王族としての僕しか見ていないんだね」
今、思い出しても心が痛みます。私は王家としての責務を押し付けるばかりでアルフレッド様自身に寄り添う事が出来ていなかったのです。
そこから、段々と歯車が狂い始めました。厳しく接するばかりの私をアルフレッド殿下は疎ましく思うようになり、次第に私以外の方に御心を許すようになっていったのです。その時、きっと私は嫉妬により意固地になっていたのでしょう、アルフレッド殿下の御心を理解するよりも王族としての体面………いえ私自身のプライドを気にする言葉を掛けてしまい、よりアルフレッド殿下の御心を傷つけていったのです。
しかし、愚かな私は気付くことが出来ませんでした。盲目的に王家の在り方や高貴な者としての責務を説き、それに反発するようにアルフレッド殿下は私を露骨に避けるようになりました。きっとその時、アルフレッド殿下の御心は完全に離れてしまったのでしょう。
「ソフィは僕の家庭教師なのかい?、もし未来の妃だと言うなら少しは僕の気持ちを理解して心休める言葉をくれてもいいのに」
そう言われて初めて気付くことが出来た始末です。そして、その時にはもう遅かったのです。アルフレッド殿下は私とは違い心優しいベネフィクト家の令嬢、フローライン様に心を移し、もう私を見てくださることはありませんでした。それでも諦めの悪い私は身を引こうとはせずアルフレッド殿下の名誉のためと言い訳し変わらずアルフレッド殿下と接する愚行を繰り返すのです。
そんな己の事しか考えることの出来ない私に罰が与えられるのは必然でした。アルフレッド殿下が王立学園を卒業する際に行われた宮廷晩餐会で正式に私との婚約破棄を発表しました。最初は王族とは言え一方的に婚約破棄を突きつけたアルフレッド殿下に避難が集まりましたが、己の至らなさがもたらした結果だと自覚していた私が真相を説明しアルフレッド殿下の名誉は保たれました。反面、私は批難される側になってしまいましたが、それは利己的な私には当然の報いでした。ただ最後に頂いた殿下の言葉は今でも胸に刺さって抜けることはありません。
「ソフィ、いやエレノア嬢、ようやく貴方の柵から解放される貴方などを少しでも愛したことが私にとって一番の間違いだった」
そう言われたときは流石に立っていることが出来ず、うずくまり涙を流してしまいました。でも、こんな不出来な娘にお父様とお母様は体面など気にせずに手を差し伸べ涙を拭ってくれました。親不孝な娘に生まれたことを優しいお父様とお母様に何度懺悔してもしたりません。
婚約破棄された私はお父様の計らいでエレノア領に戻ることになりましたが途中でアルフレッド殿下の失脚を目論む反乱分子の情報を掴み事になり。自分自身の至らなさのせいで婚約破棄された手前、少しでもアルフレッド殿下のお役に立てればと一計を案じて私は婚約破棄を逆恨みしているとして、反乱分子達の組織に潜り込むことに成功しました。
しかしこの組織はアルフレッド殿下失脚どころか国家転覆を目論む危険な組織でした。尚更、放っておけなくなってしまった私は、その中で確実に信頼を得て行き、またたく間に幹部まで上り詰めました。途中、人に言えないような汚い仕事もやってのけ穢れ切った私ですがアルフレッド殿下への敬愛だけは失うことはありませんでした。
私はエレノア領に王国中の反乱分子を集結させ反乱軍として蜂起させ、その旗頭の役割を担いました。そして、いよいよ王国に牙を剥こうとするその時、領軍を引き連れた父上が鎮圧に駆けつけてくれました。突然の急襲に元々烏合の衆だった反乱軍はあっという間に散り散りになり、主だった幹部はお父様の部隊に捕縛されました。もちろん私もです。お父様は黙ったま頷くとその場を去りました。最後まで我儘を許して下さり感謝しかありません。
私達は直ぐに裁判に掛けられ、主だった幹部たちは責任を私に押し付けてくる無様な有り様でした。その覚悟なき姿はやはり本気で国を変えようとは思っていなかったようです。私は己がしでかした罪に従い極刑を受ける覚悟は出来ていましたので今更、冤罪が重なろうと気にもしませんでした。
予想していた通り私には極刑が下りました。
処刑方は市民による投石の後に火炙りと言う、罪深い私に相応しい処刑の仕方でした。幸いなことに処刑されるまでの日々は穏やかで死刑囚とは思えない対応を受けました。もしかするとお父様が手配してくださった最後の優しさだったのかもしれません。そして今日この日を迎えて………
わたくしソフィア・エレノアはこれから稀代の悪女として処刑されます。
最初は市民の不満を晴らす代わり身として石を受けました。覚悟していたとはいえ裏切り者の罵声は石以上に私の心を打ち据えました。投石が終わるとそのまま磔にされ足元に薪が積み重ねられ、いよいよ自分の死が目の前に迫っているのを実感しました。でも、もう私には思い残すことは無いのです。
確かに妃としてアルフレッド殿下のお隣を歩く夢は叶いませんでしたが、臣下として最後にお役に立つことが出来たのですから、忠義の臣エレノア家の者としてこれ程誇りに思うことはありません。
ですが最後に願わくば
『アルフレッドさま、末永く幸せでありますように……』
私は燃え盛る炎の中でそう祈るのでした。
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