後悔が生んだ邪念と怨念
僧侶封念がホームへの階段を上り切った時。彼の眼には淀んだ魂から成る渦の様なモノが見えていた。
「これらの淀みが、生前は真っ当な人間が作り出したモノだと言うのが悲しい事だ・・・。」
封念は、自らの呟きで一度休んだ経の続きを唱える。
そして、左手に線路を見ながらホームを歩き出した。
見れば、もう少しでここに電車が到着するらしく、多く人々がスマホを片手に整然と並んで居た。
この場に居合わす無数の無縁仏に向け、封念は経を唱え続けた。
封念には霊の姿が見えている訳では無かったが、朝の通勤ラッシュ時刻にも拘らず異様な空気が辺りを包んでるのは感じて居た。
それでも心動かす事無く、彼は経を唱えながら歩き続ける。
そうして1分も歩かない内に、封念は辺りの空気が変わったのを感じた。
それは、急変と言ってよかった。
【ソレナラ ツライノハ ヤメテ ラクニ ナロウヨ・・・】
直後!経を唱える封念は凄まじい勢いで駆け出した!!
立ち居並ぶ人々と、歩きスマホをする人々の位置と動きを先読みして走る!
その姿は、老体は愚か、常人の成せる業では無かった!!
走りながら鈴を懐にしまった封念の姿は、この時、この先で。今、何が起こっているのかを知っているかの様だった。