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見なければ見えないも同じじゃない?

 同年同日(8月下旬)。午前7時43分。

一人の女性が、通勤の為にS駅へと向かっていた。

彼女の名前は『月見つきみ 兎美子とみこ

年齢は32歳。独身。職業カウンセラー。


『月見でウサギ』とは、出来すぎた名前だと彼女は自分でも思っていた。

『彼女も』とは、当然回りからもそう思われてたので、彼女はどこに行っても年上からは『ウサギちゃん』と呼ばれて来たからだった。

年下は当然のように『さん』付けで呼んできたが。年上だけで無く、同年代からもウサギに『ちゃん』付けされ呼ばれたのは、彼女が子供の時から気が強かったからだったろう。  

そんな今の彼女の服装は、平日の朝の通勤時間では回りの人達から少し浮いた感じに見えた。

簡単に言えば『ちょっと派手』だった。

スカートタイプのスーツ姿ではあったのだが、OLとかが着る濃紺や黒、グレーを基調とした物では無かったからだ。

今日の彼女のスーツは赤を基調としていた。

左肩には黒いショルダーバッグを掛けている。

その姿は、夜なら水商売の様に思われただろうし、昼間なら派手な個人経営者の様に見えたのだが、個人経営者と言うよりは個人事業主と言った方が、彼女の社会的な位置付を表すのには合っていた。

それは、彼女の仕事であるカウンセリングと言うのが、世間一般的なカウンセリングとは違っていたし、彼女は相談者以外の誰にも雇われてはいなかったからだ。

彼女は何処かの学校や病院や施設に勤めてる訳ではなかった。

フリーランスのカウンセラーなのだったが、しかし、それだけでは少し説明が足りなかった。

それは彼女の職業に活かされる資格はそれだけであったが、それよりも何よりも、彼女は『霊能力者』だったのだ。


職業:霊能力者・・・? 


そうした職業が世間では認められて無い事は彼女も百も承知であった。

だからこそのカウンセラーだった。

しかし、紛い物(まがいもの)も多い、この業界にあっても、彼女のカウンセラーという肩書きは『本物』であった。

それは詰まり、彼女は自称カウンセラーではなく、資格を持ったカウンセラーだと言う事だった。

しかし、世間的には自他ともにカウンセラーと称する職業の彼女は、そのカウンセリングにおいて最も重視するのは『霊視』であるのは、自分と、昔からの久しい友人以外は知らない事であった。

それは彼女はこの能力によって、何処どこぞの宗教法人法は勿論、宗教団体にも所属しては無かったので、カウンセラーの能力の中に『霊視できます』等と書くのは、マイナスのイメージにしか成らないと知っていたからであった。


つまり、彼女のカウンセリング方法は1割りが問診等を中心とした本来のカウンセリングだが、その他は霊視によるものだった。

これは多くの悩める人々を救うには大いに役に立っていたのだが、表向きはカウンセラーとして相談に乗っているので、相談者や患者に解決方法を伝えるのは、生きてる人との関わりであるならば比較的楽な場合が多かったのだが、そうで無い場合は非常に困難を極める事となっていた。

簡単な説明をすると、相談者が直面してる日々の問題が、人間関係等よりも、カウンセリング業とは別の業界(世界)で『霊障』と呼ばれる様な事が原因であった場合、どうやって霊を静め、慰める儀式等を行うかが問題となるからだった。

相談を受けたカウンセラーが患者に「神社でお祓いをしてもらって下さい。そうすれば良くなりますよ。」とか「先祖の墓が在るお寺に行って、手を合わせて来なさい。お経もあげて貰いなさい」等と言っては、きっとその相談者は二度と兎美子の前には現れないばかりか、その後の相談者も激減する事だろう。


そんな風に世間の隙間を縫う様にして、他人を救うという自分の役目を果たしてた兎美子であったが、この霊視出来る能力のお陰で、苦労が絶えないのも又、先のとおり事実であった・・・。


それとは同じか違うかの判断は、能力を持つ当事者に成らないと分からないかも知れないが、彼女の苦労は日常生活の全てに影響していた。

それは彼女の霊視する能力は『常に発動』してるものであったからだった。

つまり、本人の意思とは無関係に霊が見えるのだ。

これは、霊が見えない人達に対して多くの恩恵を与えてくれる個人に備わった特別な能力だったのだが、等の本人にとっては、煩わしいばかりだと嘆きたくなる事もあるものだった・・・そう、特に多くの霊が未練を引きずっいる『この場所では』・・・。


 「出張での仕事がある日だけだとは言え・・・。毎回毎回・・・本当に気が滅入る。」

仕事の依頼を受けた相談者の都合で電車での移動を余儀無くされた兎美子は、回りを歩く都会慣れした人達と競う様に早足でS駅に向かっていた。

都心に在る自宅兼オフィスの最寄り駅がS駅で、依頼者の待つ場所に行くにはS駅で電車を利用するのが最も安上がりで効率的だったからだ。

駅の出入口の100メートル程手前で、兎美子は左肩に掛けてるショルダーバッグを右手で引き寄せ、自分の胸の前で中の物を探った。

バックの中から取り出したのはサングラスだった。

兎美子はサングラスの耳掛けを手早く開くと、片手で直ぐに掛けた。

『念入りのサングラス』

彼女がそう呼んでいる愛用のサングラスは、本当は愛用というよりは、護身用の道具であった。

再び急ぎ足に成った兎美子がS駅に入り奥に進むにつれ、それは多いに役立った。

駅構内にたむろする霊達が、幾人も見え始めたからだ。

戻る体を既に無くした、この世での拠り所(よりどころ)を持たない筈の人々の霊は、その寂しさを紛わせる様にして、ある者は通路の脇や端に座り込み。ある者は、まるで生きてるかの様にして目的地に急ぐ素振りで歩いてたりもした・・・。

まだ自分が死んだ事に気付かずに生きてるつもりで歩き回る霊は、兎美子にとってはおおむね安全な存在であったので気に止める事は無かった。

厄介なのは、自分が死んでる事に気が付いて居ながら、何時までも、この世に居続ける霊逹であった。

その多くは、この世に未練を残した浮遊霊であったが、いわゆる地縛霊も混ざって居るから厄介だったのだ。

浮遊霊の多くは、あの世に旅立つキッカケを見付けられないのでさ迷ってるのだが・・・・。

地縛霊は違う。

それは、他者の仕業であれ自らの仕業であれ、強烈な未練を残し死んだが為に、その死んだ場所に対して異様な執着をもって居るからだった。

地縛霊の厄介な所は、その死後の期間が長ければ長い程に、あの世に行った時には、その付けを自らの魂で支払わなければ成らないと、心の何処かでは知っているところであった。

詰まりは、本当はこんなところに居てはいけないし、生者死者問わず、回りの人々を巻き込んでは成らないのに、自らの辛さを紛らわす為だけに我が儘(わがまま)を押し通すのは罪だとは知っているのに止めないからだった。

兎美子は、そうした事を見抜いて居た。

だからこそ、地縛霊である彼らに係わる危険性も分かって居た。

そこで、サングラスである。

毎日、自宅の神棚に供え、お祈りをし、特別な念を掛けたサングラスを掛けると、彼らからは兎美子の視線が見えないのだった。

すると、霊逹にとって兎美子は他の多くの人達と同じく自分達が見えてないと思うので、無視されるのである。

これがもし、霊逹が見えていると知れると、彼らは自分の救済を求めて兎美子の前に群がってくるのである。

その多くは自業自得でこの世に留まってる霊逹である。

自らの人生を振り返り、あの世に旅立つ事を決意さえすれば、たちまちに、この世から消え、あちらの世界で魂の審査が行われるのだ。

本来それが、この世に生を受けた最大にして最後の目的なのだが・・・・。

「なの・・・・だがな・・・・。」

輪廻転生の為と云うべき魂の流れ・・・そうした事に思いに馳せながら、兎美子は霊が見えない人々にその姿を紛れ込ませながら、ホームへと急いだ・・・。


ここはまだ、兎美子にとっては序の口だった。

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