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都心の迷宮  作者: 天ノ風カイト


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11/12

引き込みと導き

 既に列車は停止していた・・・。

S駅のホームで、悲劇を目前にしそうになっていた人々は、たった今起きた命の救出劇に、数秒の間、信じられないといった状態になった・・・。

しかし、それを見た全ての人達が極度の緊張から解放された瞬間、ワッと歓声が上がり、同時に大きな拍手が沸き起こった!!


 事の始まりから体力を使っていた沢谷は、その体力を使い果たしたのと同時に、救出の成功という結末に安堵あんどし、腰が抜けた。

それは、止まれなかった列車が通り過ぎて行くのを目で追っていた時からだった。


 引き上げた男の重い背中の圧力を押し退けようとしながら、兎美子は、少しイライラとしていた。

それは、自分がこれまで霊が見えない振りをしてきた努力が、今日のこの瞬間、水泡に帰したと悟っていたからだった。

そう、髪を乱し仰向けに倒れ込んだ彼女の目にはサングラスは掛けられてなかった。

今の勢いで顔から外れ、しかもそれが慌てて駆け寄った人に踏まれて割れてしまっていたからだった・・・。


【ネエサン ツギハ オレ ヲ タスケテ ナ?】


倒れた姿のままで兎美子が声がしたホームの端を見ると、薄笑いを浮かべた味悪い若い男の地縛霊が、止まった列車とホームの隙間から顔を出し、スカートの中でものぞき込もうとしてる様に兎美子の様子を窺っていた・・・。

(あ~あ・・・・引っ越すしか無いな・・・。)

兎美子はそう思い、圧し掛かる男の体から自分の体を引き抜こうと再び試みた。

すると、左の太股に生暖かさを感じ「え!?」っと声を上げた。

「ウソでしょ・・・・。」

引き上げた男性が失禁したのは、その温度と少しずつ広がり始めた臭いとで疑いようの無い事実であった・・・。


 封念は、一先ひとまずは、眼前の命を救う手助けを出来たのは良かったとしながらも、ここに巣食う地縛霊の怨念は、自分一人でどうにか成るものでは無いと感じて居た。

いや、封念は自分の力でこれらの霊達を全て成仏させられるとは始めから思っては居なかったし、そもそも成仏へと導く力の根源は自らの修行のに因ってお釈迦様のお力添えを得る事だと考えていたのだったが・・・。

「死したお前達もまた、現世では魂を磨く修行者であったのにな・・・。」

封念は、やるせない気持ちが胸に沸き起こりそうに成るのを感じ、とっさに念仏を唱えた。

僧侶たるは、如何なる時も心を乱しては成らぬからだった・・・。


 失禁してる自分を感じながらも、助けられた男はそれを止められないで居た。

「ちょとーどけて!!」

後頭部から怒鳴る兎美子の声に、男は「ああ!・・・は・・はい!!」っと素っ頓狂(すとんきょう)な声を出して答えた。

しかし、体の前で抱えてるカバンが指に張り付いたようになってどうにも体を動かすことができなかった。

実は彼は、飛び降りた瞬間、襟首を掴まれた宙吊りに成った時に背中をホームの縁にぶつけた衝撃で我を取り戻していたのだった。

しかし、その寸前までの『死にたい!』と思っていた自分の感覚と、迫りくる列車に跳ね飛ばされて死ぬ寸前になっている自分とが結びつかなくなり、思考と身体も硬直してしまっていたのだった。

しかし、その硬直化が、結果として彼が助かった要因でもあった。

鞄をガッチリと抱き締めた格好で硬直したお陰で、スーツの襟首を引っ張られた時に、上着がズリ上がるの最小限にしていたからだった。

(会社での仕事が嫌になって・・・・それで、会社に行きたく無くて・・・・。)

引き上げられた男が、混乱した思考の中で、そこまで思い出した時。それ以上は思い出さない方が身のためとも言えた事まで、彼は思い出してしまった・・・。


(そうだ・・・そう思って此処で電車を待って居たら・・・・。声が聞こえたんだ・・・・)

【ソンナ カイシャ ヤメチマエ オレタチガ オマエ ヲ ラクニ シテヤルカラヨ】



 兎美子に怒鳴られながら、彼は、改めて自分のとった行動と、それに至らせた奇妙な声に恐怖した。


彼の身体は、今になって勝手に震え出した・・・。


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