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ラッキーパンチを狙えクズ!  作者: げんきだま
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死体には罪も財もない


 女はすこし考えて優しく笑った。


「それは君がそう思いたいんじゃないかな?」


「……どういうことだよ」

 

「君が自分のことを価値ある命だと思いたいから、君の言ったように思ってるんじゃないかってこと」


 その言い方だと俺が価値のない命みたいじゃないかと相澤は思ったが、女の言ったことは相澤の心にカチっと音を立ててはまったような気がした。

 

「命に貴賤はあるよ、君にとっては残酷かもしれないけど」


「残酷」

 無慈悲でむごたらしいこと、相澤に命について説くこと。

 らしい。

「うーん、そうだな、アリで例えよう。

君はアリを殺したことがあるでしょ? 故意か事故かは置いといて。

悔しいけどボクだってあるよ。

でも、ボクや君が殺した一匹は巣にとっていなくなってもあんまり問題は無いんだ。

だけど、もしボク達が殺したのが女王だったらどうだろう?」


 そんなのは知っている、巣のアリたちはどんどん不活性化していき最後には滅亡する。

 

「分かったかな、同じアリ一匹でも働きアリか女王かで巣の存続が決まるんだ

その差が」

 

「命の価値ってことか?」


「そう」


 女の言いたいことは分かった、だが俺と、いや、アリと人間は違うと相澤は思った。

 生まれたときから役職が決まってるアリと人間ではその話は成り立たない。

 相澤はそのまま女に告げた。


「いい加減自分をごまかすのも難しくなってきたね。

人間だって生まれたときからある程度決まってるよ」


「……そうかもしれんねぇけど、逆転があるだろ」


「それは逆転ができる環境に生まれたからだよ。

逆転人生とか言ってるやつは自分がもって生まれたことに気づいてないだけ

試合に勝つにはまず試合に参加していないといけないのは当たり前でしょ?」


「ならペットと自然動物の命の差ってなんだよ」

 

 アリや人間と違い、動物には役職がない。


「さっきも言ったようにペットは人に飼われるために生まれてくるからだよ。

どれだけ賢くて強くてもそれ自体には価値がないだろ?

種族名、品種さえ合っていればどの動物だっていいわけだ」


「でも、自然動物は違うだろ?

強いこと賢いことがそのまま生存力になるわけだ

弱い奴が死ぬだろ? ペットは弱くても生かされるけど」


 相澤はだんだんとこの変な女のことが分かってきた気がした。

 自分と似ているのではないかと感じるようになったのだ。

 さぞかし生きづらいことだろう、他人に価値をつけて生き物に価値をつけて。

 でもこいつは真っ先に自分の価値を確かめたはずだ、そしてそれはさほど高くなかったのだろう。

 違うとすれば俺が『普通』に、この女は『価値』の基準に達していなかったというところだろう。

 

「おまえさ、生きづらいだろ」


「うん、とっても」


「変な女」


「分かってる」


「でも、その辺にいる女じゃない」


「ナンパ?」


「なめんな……いや、そうかもしれない」


「へ?」


「一緒に三千万探さないか?」


 三千万、下には当然、円がついて三千万円。

 相澤は自分が口にしたことに自分で驚いた。

 

「三千万?何それ埋蔵金でも堀り行くの?」


「似たようなもんだ」


 相澤は今日起きたことを話した、佳央梨が来たこと、その姉に三千万円の遺産があること、佳央梨にはいくつか不可解な点があること。

 太陽が照り付ける中、女は時々相打ちを打って聞いていたが


「それって犯罪じゃん」

 

 話を聞き終えるとそう言い放った。

 それは相澤も思った事だった。

 さっきまで自分は三千万円を横取りしようなんて思っていなかったのに、なぜかこの女と話してるうちにそう思ったのだ、そしてそれは口に出すたびに実現可能ないい考えに思えてきたのだから不思議だ。


「バレればな」


 バレなきゃ犯罪じゃないとまでは言わないが、今回の三千万は誰もどこにあるのか分からないのだ早いもの勝ちで後から来た人間は「そこは正解ではなかった」と思う可能性が高い。


「三千万、二人で山分けしないか?」


「……あてはあるの?」


「今のとこ無い」


 でも実現できる気がする。


「じゃあ、いいよ」


「は?」


 なぜ当てがないならいいのだろうか


「だってそれって子供の宝さがしみたいなもんじゃん。

どうせ見つからないなら犯罪じゃないし」


 バレなきゃ犯罪じゃないではなく。、起きなきゃ犯罪じゃないということらしい。

 相澤はへらっと笑った。

 結構本気で言っていたからだ。


「俺としては救いの蜘蛛の糸を垂らしたつもりなんだけどな」


「あはは、ボクが蜘蛛を助けた回数を考えたら救いの糸がこんなバカみたいな話なわけないじゃん」


 タマムシだって自分の羽で玉虫厨子を作り出すよと相澤にはよくわからない物を例えて笑った。

 タマムシという単語につられてさっきのタマムシを見る。

 最初に比べて随分上の方へと昇っていた。


「そういえば君名前は?」


 聞いてきたのは女の方からだった。

友達登録をすれば連絡ができるアプリのコードを見せながらスマホを差し出してくる。


「宝探しするのに連絡とかしなきゃだもんね」


「相澤孝人だ」


「ボクは長瀬薫ながせかおる、よろしくね」


 無事連絡先の交換を終わらせ改めて自己紹介をする二人。

 相手の連絡先があだ名だったり痛名とすこし気まずくなるのだが今回はどっちも苗字で登録していたためそうはならずに済んだ。


「それで?いつやるの宝探しは」


 かたくなに宝探しと言ってくる長瀬に意地の悪さを感じながら相澤は答えた。


「本格的に動くのは来月かな」


「それは随分と気の長いことだ、早い者勝ちじゃないの?」


 相澤は軽く左手を挙げることで答えた。

 左手には白色の遊びのないタイマーが秒単位で時を刻んでいた。


「ああ。久々に見たそれ、中学の頃のやんちゃな奴が着けてたの見たとき以来だ」


「こういうわけだから残り一ヶ月、能力を使えないんだよ」

「なんの能力?」


 長瀬は何をしたかではな能力について尋ねる。

 それが相澤は一番答えずらいことだった。

 相澤の能力『精神感応』は人に嫌われる能力だからだ。

 少し、少しとはいってもバトル漫画でよく行われる無数の考えを一瞬の間に巡らすほど考えて相澤は決意した。


「俺の能力は『精神感応』だ、効力は洗脳とか読心、記憶操作とかかなりできることはある」


「……それボクには使わないでね?」


 当然の反応だが受け入れようとする姿勢があるのは今まで相澤がされてきた中ではかなり上位の好反応だ。


「もちろん」

 

 相澤の能力の利点は相手に能力を使っていることを悟られないことだ。

 今つけてるタイマーがなくなったら即使うし多分長瀬にも使うだろう。

 人間、口では何とでもいえるのだ。


「それで?お前の能力は教えてくれんのか?」


「うーん」


 長瀬も考えはじめた、きっとその思考の中ではバトル漫画のようになっているのだろうと相澤は思った。


褒められてないんだから叱らないでほしい

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