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ラッキーパンチを狙えクズ!  作者: げんきだま
2/6

息が苦しくて生き苦しい2

 

 人だかりの中心にあったのは倒れた麻衣だった。

 見間違いかとも思ったけども、二か月の間見た顔だ間違えるわけがない。

 警察の呼びかけにピクリとも動かない様子の麻衣を見て、相澤は想像をしてしまう。

 なら今俺たちは死体に群がってるのか。

 相澤はそこまで考えて、いやまだ死んだと決まったわけではないと思いなおした。

 ネガティブに考えすぎてしまうのは相澤の悪癖だ。


 サイレンが駅の壁を反射して相澤の耳まで届いた、救急車だ。

 野次馬の皆で誰かが通報するだろうと思って誰もしていないという最悪の事態を考えたがどうやら杞憂だったようだ、あるいは警察がしたのかもしれない。

 救急隊員たちが担架を持ってやってきた。

 

「道を開けてください!道を開けてください!」

 

 これ以上は邪魔になるだろう、ほかの野次馬たちもそう思ったのか、あるいはもう事態の進展がなさそうだと思った周囲の人間が散り散りに去っていく中で相澤は奇妙な女を見た。

 ――瞬間移動テレポートか?

 その女は絵画にシールを張り付けたように視線の先に突然現れた、瞬間移動テレポート特有の現象だ。

 街中での瞬間移動は危険だ、当然禁止されている。

その女は周囲を見渡したし非難めいた視線を向ける相澤と目があったと思うと、必死に手を伸ばし何かを叫んだと思うと消えてしまった。


「なんだったんだ?」


 悪ふざけにしては女の顔は悲痛すぎたし必死だった、瞬間移動テレポートのタイミングも意味不明だ、馬鹿なりアホなり言い捨てて逃げるイタズラではなさそうだった。

 本当に伝えたいことがあるんだったら戻ってこないのも理解不能だ。


「わけわかんねぇし、しらね」


 別に困るのは俺じゃないと相澤は結論付け、視線を戻す。

 

麻衣の身体が沈む、嫌がる素振りや苦しむ素振りがないのはさっきと変わらなくて、必死に心臓マッサージをする救急隊員をしり目に相澤は悟った。

 ――もう無理だ。


 だが、相澤が頭で考えていることはバイトのシフトだったり、貸してる三千円のことだったりだ。


 相澤は世間の言う常識に則って行動しているが、それが相澤の感情に基づいての行動であったことはあまり無い。


 相澤が小学生のころにクラスメイトが死んだことがある、その時にクラスの大半は悲しみ泣くものまでいた。

 休み時間を潰してお別れの手紙を書いたり、クラスの展示物を変えたりした。

相澤は泣いている女子のことを冷めた心で見ていた。

だって相澤にはその女子の本当の 心が分かるのだ、自分に酔った奴、アピールしたい奴、いろんな奴がいたけど本当に悲しんでいるのなんて一人も居なかった。


だけど、そこで相澤は自分の障害に気づいてしまった。


周りの人間は悲しくなくても泣ける、悲しそうにすることができる。

 その場にあった演技ができる。

 相澤のその悩みはその後ずっと続くことになる。

 運動会、歌唱祭、対抗戦、修学旅行、いつだって相澤はみんなと『同じ』演技ができなかった。

 

心はみんなと同じなのに演技が出来ない相澤はいつしかクズになったらしい。

 

 素直ないい子と呼ばれた子供のころから何も変わっていないのに、クズになってしまった相澤は、一つだけ演技を覚えた。

『普通』のフリだ。

 『普通』なフリをすると皆が大人になったと褒めてくれるようになった。

けど、素直ないい子にはもうなれなかった。

 

 「ラーメンて気分じゃなくなったわ」


 ラーメン店の窓ガラス側のあいつらもそんな気分なんだろうなと相澤はその客たちの顔を見て思った。

 

 

 翌日、昨日のことはニュースにもなっていなかった。

 バイトに麻衣は来なかった、相澤の記憶が正しければ今日はシフトが入っていたはずだ。

 

(生きてても死んでても昨日の感じじゃ今日来るのは無理か、心臓マッサージの時に絶対あばら折れてた)

 

 治療系の能力者ってレアだからなぁ、と自分の胸に手を当てる相澤。

 相澤が高校の時に後輩で一人だけそういう能力を持ってる人間が居たのを覚えている。

 能力バレをすると基本避けられる相澤だが全校で一人しかいないレア能力同士珍しく仲はよかった。


 (あいつも今高3で受験期か)


 と思い出に胸を馳せている相澤に店長がやってきた。


「麻衣ちゃん来ないんだけどなんか知ってる?」


 その言葉で相澤は一気に現実へ引き戻された。

 

「あいつ、昨日倒れて救急車で運ばれてましたよ、マジやばかったっす」


 実際に運ばれたのを見たわけではないがそうなったであろうことは想像できる、というかそれ以外どうなるのかを相澤は知らない。

 死んでいる場合でも多分そうなる筈だ。

 

「えええっ!?それほんと!?大丈夫なの?」


 たぶん大丈夫じゃない、いや絶対大丈夫じゃない。


「心マ受けてたんであばら骨が折れてますよ」


「心マ?」


「心臓マッサージです」


「え、本当に大変じゃん!」


 多分死んでるであろうことは伏せておいた、単純に面倒というのもあるが、言ったところで何も変わらないと相澤は思ったからだ。

 死んだと言ったって可哀そうと思う演技が出来ない相澤が浮くだけだ。

 今でさえ出来ていないのに生死が絡むと悲しむふりをする『儀式』をしないといけないので面倒だ。


「そっか、じゃあ悪いけど今日一人でホール頑張ってくれる?」


「……ういっす」


 悪いと持っている演技ぐらいはしろクソデブ。



絶望というのは胸に鉛を詰めることです、詰めすぎると呼吸が止まります。

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