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イレギュラーズ  作者: 古河新後
1章 魔を狩る神父と夜の支配者
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19.魔狩りの神父

「これは珍客ですわ。私たちの世界に入ってきたのが『ドラゴン』だなんて」

 ゾーンダイバーはドレスを着た女の姿でドラゴンを見る。

 人の姿に凝縮したそのエネルギーはナイトウォーカーにとっては是非とも欲しいモノの一つなのだ。

「さっきも言っただろう? 常識では測れない存在が我々だ。妖精娘に気をとられていたな? 気づかれることなく侵入する事は容易かったぞ」

 余裕のある表情とは裏腹に、ドラゴンの消耗はかなりのものだった。

 回復しきらない魔力で、この場所へ潜ったのだ。ホーキンスの魔力の痕跡がなければゾーンダイバーにたどり着く事も難しかっただろう。

「『レインメーカー』『魔王』『魔剣オリジン』。我らを含める『五柱』は互いに衝突を控えて来た。その理由は言わずとも解るだろう?」

「ええ、わかりますわ」

「なら話は早い。我らはここを出ていく。貴様らは国に還る。それで互いに手打ちにしよう」

「ルーちゃん……」

 ホーキンスは色々と質問したいことが山ほど出ていた。しかし、今はこの場を脱出することが最優先だと彼女に全てを任せる。

「交渉の基本は知っているかのう?」

 老魔道師がドラゴンの出す条件に意見を述べる。

「交渉とは互いに利となる事があってこそ成り立つ、だろ?」

「うむ。そこで、ワシは思うのじゃが――」

 ドラゴンとホーキンスを囲む闇の中の群がざわめきだす。

「君を喰らえば僕たちは退却する必要はないんじゃないかな?」

 眼鏡をかけた学者の男が告げる。ドラゴンの心臓は魔力を生み出す永久機関。魔法が何よりも価値のあるこの世界において、誰もが欲して止まない代物だ。

 それが弱って自らのテリトリーにいる。となればゾーンダイバーの取るべき行動は一つしか考えられない。

王都(セントラルフォレスト)まで行く必要はなかった。貰うよ、その心臓――」

「ぷ、アッハハ!」

 周囲の闇に潜む数えきれない程の気配が襲いかかるの瞬間、ドラゴンは笑い出した。

「? 何が可笑しいんだい?」

「ふふん。嬉しくならないか? 自分が強いと思ってるチンピラに喧嘩を売られると」

「喰え! 心臓以外は何も残すな!」

 ドラゴンの言葉にゾーンダイバーはホーキンスを考慮する事も忘れ、闇に居る約五万の下位個体に指示を出した。

 ドラゴンは身構えるホーキンスに寄ると肩を抱える。すると、ある魔法の発動理論とドラゴンの魔力の流れがホーキンスに認識できるようになる。

「これって?」

「『太陽光(サンシャイン)』だ。我は脱出に意識を向ける。知識と魔力を一時的に貸すから放ってみろ」

 先程までギリギリだったホーキンス魔力がドラゴンの魔力循環に乗せられ一瞬にして最高まで回復する。更に溢れんばかりに膨れ上がり続ける。

「『太陽光(サンシャイン)』」

 ホーキンスの言葉と共に全てを灰燼と化す光が闇の空間を照らした。



 

 雪崩の様に押し寄せてくるナイトウォーカーからガロンは光陽を抱えて結界に向かって逃げ続ける。

「エキドナ、聞こえるか? クロウに上空から援護を――」

 その瞬間、ガロンは盛大に転んだ。不意に意識を失ったかのように伏したまま動かなくなる。

「ガロン隊長!? っ!」

 倒れたガロンを気にする余裕はなかった。光陽は迫り来るナイトウォーカーを迎え討つ為に構えをとる。と、

「今度はなんだ?」

 ナイトウォーカーが一斉に燃え出したのだ。内部から焼かれるように全てのナイトウォーカーから火の手が上がり、ガロンと光陽に襲いかかる前に絶命し、倒れていく。

「何がどうなってんだか……」

 状況が全くわからない。とにかく、この機を逃さずに寺院の結界へ。

 倒れたガロンを背負って何とか運べる形にすると、寺院を目指して歩き始める。

「? なんだ?」

 周囲に静かに流れる音と光の胞子が夜闇に漂っている様に気がつく。

「これは……どういう事だ?」

 結界を守っているガロンの部隊員達の居る地点にたどり着く。

 ガロンを運ぶのを引き継いで貰おうと思ったが彼らは皆、疲れた様に眠っていた。




「ぶはっ!」

 ルーは『太陽光(サンシャイン)』の発動後、ホーキンスの意識を連れて帰還していた。

 ゾーンダイバーの管理する空間で放った『太陽光(サンシャイン)』は外に居るナイトウォーカー全てに作用しただろう。奴らはあの空間を通して繋がっている為、あらゆる情報や恩恵を共有出来ているのだ。

「尻尾切りは上手いらしいな」

 ゾーンダイバーはこの地にナイトウォーカーを繋ぐ中継役でしかない。ルーはその先にいる本体を狙ったのだがゾーンダイバーは自らが消滅する前にそちらの接続を断った事で被害をこの場だけに止めたのだ。

「ま、これで終わりだろ」

 影の接続が閉じる前に数千のナイトウォーカーが湧いたが、全て下位個体だ。結界を強めて迎撃しつつ朝を迎える事は難しい事ではない。

「ん? どうした、妖精娘」

 ルーは座ったまま身動きしないホーキンスを気にかけた。

 意識は一緒につれてきた。ナイトウォーカーの気配も影からは消えている。

 囁く唄が空間に響いていた。

「まさか……」

「見つけまシタ」

 ルーは声のした方を向く。

 歩いてくるのは黒衣に身を包んだ長身の神父。

 見ただけで察した。その男の纏う雰囲気は今宵相対したどの存在よりも強い――と。

「終りデス」

 神父――サウラ・オーバーンは真実だけを口にする。




 不気味な様もなければ、異形性を感じさせるような雰囲気もない。

 今宵戦った【英雄】が「神秘」ならば、サウラは「神聖」であった。

「言葉は――」

「要らんだろ」

 ルーは、なけなしの魔力を使い翼を展開すると勢いよく飛び離れる。

 魔力は全快時の1割以下。この状態で今宵の【英雄】に匹敵する奴は相手に出来ない。

 距離をとって夜闇に紛れ、回復の時間を稼ぐ。

「……な……に?」

 不意に視界が歪んだ。しかも、それだけでなく魔力の制御が上手く出来ない。

「『裁きの槍』」

 ルーは咄嗟に身体を捻って心臓を狙ってきた投槍をかわす。代わりに翼を穿たれ高度を保てず、開けた空間に降りて行く。

「くっそ……。これは『聖歌』か」

「その通りデス。『聖歌(ホーリーソング)』は、あらゆる存在に安らぎを与えマス。それは魔も例外ではナイ」

 サウラが駆使する魔法は一般的なモノとは毛色が異なる『神聖魔法』である。

 その中でも『聖歌』は回復作用のある唄を広範囲に広げ、あらゆるダメージを回復させる効果があるのだ。

 副作用として、回復に入る対象には強力な睡眠作用が施されてしまい、多くの回復が必要な者は即座に睡眠状態に入るのだ。

 発動した『聖歌』は寺院を全て覆うほどの広範囲に展開されており、ルー以外の者たちは全て睡眠状態となっていた。

 元々、消耗の大きいルーは『聖歌』の影響を強く受けており、意識を強制的に飛ばすほどの猛烈な眠気に襲われている。

「ゆっくり眠りなサイ。二度と起きられませんガ」

 サウラはルーの様子からも逃げることは出来ないと判断し、歩いて彼女に追い付く。

「『裁きの槍』」

 土魔法にて地面より形成した細長い棒をサウラが掴み抜くと、装飾の施された槍へと変化する。

「それが……貴様の骨か」

「……どうやら、ドラゴンは魔力生成の他に知識の共有も行っているようデスネ」

 サウラの骨に関する情報を知る者は二人だけ。ソレをルーが知っているということは、能力を駆使して戦った『死眼龍』の記憶を持っている可能性が高い。

「我らは物語の一部。結末は決まっていれど、その過程は誰にも予測する事は出来ない」

「ドラゴンはこの世界で一つであるべきデス。貴女は自覚していますカ? その存在事態が誰にも求められていないと言うことヲ」

「ああ。そんなもの、最初から理解している」

 自分が求められたモノではないと言うことも、存在そのものが異常(イレギュラー)であると言うことも。

 けど――

 “お前は死ななくていい”

「死にたくないと思うくらいには自由に生きるつもりだ」

「……では死になサイ」

 サウラの放つ槍は空間を穿つ程の速度でルーに向かって直進する。

 今の状態ではサウラの放つ投槍を避けるのは不可能だった。致命傷を避けて負傷するよりも、残った魔力を腕に集めて能力を部分体に強化し、受ける事を選択する。

 飛んでくる投槍を取ると、片足を軸に回転し勢いをそのままにサウラへと軌道を返す。

「お返しだ」

 ルーに投げられた速度をそのままに、槍はサウラへと直進する。

「『神罰』」

 サウラはかわす事なく槍を受けた。その瞬間だった。ルーの脇腹に槍で貫かれたような貫通口が現れる。

「?! っな……に?」

 何が起こったのか解らなかった。激痛に身体の力が抜け、膝を着く。

「『裁きの槍』」

 サウラの追撃。心臓を狙って飛来する槍を咄嗟にかわすものの、肩が吹き飛ぶ。

「っあぁ!」

 完全にルーの動きは停止した。そこへ、

「あ……」

 『裁きの槍』が、心臓を確実に捉えた軌道で向かって来ていた。

 かわせない。魔力はもうない。鱗も展開できない。足が……身体が……動かない……嫌だ……

「死にたくない……」

 無意識に溢れる涙と言葉を受け止める者は誰も居なかった。



「お前は死ななくていい」



 槍は彼女を貫かずに斜めに逸れる。

「……」

 光陽は横からルーを穿つ槍に『白尾』を合わせていた。サウラはその光陽の姿を捉える。

「相変わらずボロボロだな。お前は」

 ルーの前に立つ桜光陽はこの場でただ一人、彼女の前に立てる存在だった。

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