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「おい、手前なにもんだ? 俺たちの邪魔してんじゃねぇよ!」
馬車から出た俺を待ち構えていたのは、数人の兵士だった。
騎士みたいな人達相手に数名残して残りの全員がこちらに来たようだ。
「悪いんだけどあまり長話をしている程、俺は暇じゃないんだ。来るならさっさと来てくれ」
地面に降りた俺がそう言うと、兵士達は額に筋を立てて、剣を振りかざしてきた。
刀は使わない。
使う者がおそらく俺しかいないんなら、刀を見せれば簡単に俺を特定されるかもしれない。
幸いにも【勇気】が発動していることだし、ここは温存といこう。
「【ブースト】攻撃力5倍、スピード10倍」
敵に聞こえないように呟かれた言葉は、攻撃態勢に入っている優真を強化した。
優真が発動させた【勇気】は、襲いかかってきた男達を一人ずつ、地面に叩きつけたことで効果を終了させた。
襲いかかってきた男の数は8人、その全員が圧倒的な力の前になすすべなく倒れてしまった。
そのあり得ない光景を目撃した全員が、驚きの視線を優真に向けてくるのを見て、やり過ぎたかも、と優真自身思いながらも、時間をかけるのも嫌だったため、残りの兵士5人を全員捩じ伏せた。
優真に襲いかかっている訳ではなかったため、その5人に【勇気】は反応しなかったが、驚いたままだった彼らの抵抗は優真を止めることすら出来なかった。
ただ、一人だけ少し変な兵士がいた。そいつだけは他の奴らと同じように殴ることはしなかった。
そいつは金髪の若々しい男だった。なぜか甲冑に身を包んだ騎士のような人達に加勢しているように見受けられたし、明らかに敵意や殺意を俺に向けてはいなかったからだ。
見た目も好青年だったし、仲間の行動に不審を抱いて騎士のような人達に味方したのかもしれない。
人の良い笑顔でこっちに寄ってくるその兵士を見て、俺はそんな想像をする。
「やぁ! さっきはどうも……!?」
お礼を言いにきた兵士は、殴られた腹のあたりを押さえ始めた。
当然だろう。【ブースト】抜きではあるが、それなりのグーパンを鳩尾にかましたのだから。
疑わしきは罰せよだ。いくら、良いやつかもしれないと思っても、裏切られた後では遅いのだから。
せっかく助けたのに、こいつを見逃した結果、俺のいない場所であの二人の少女が殺されたなんて、いい気がしないからな。
時間がない今、こいつに時間を取られる訳にはいかない。
ここまでしたんだから、後は襲われた人達でなんとかしてくれ。
しかし、事態は優真の予想外の方向へと進み始めた。
「皇子様ーーっ!」
甲冑の甲を取った老人がそう言ったのだ。




